Ｎｏ．4『夢をかなえる片づけ観音さま』
久恵、片づけにはまり始めるの巻
7月２日（土）友引
昨日から少し夏らしい天気。昼間は３１度になった。天気がいいと俄然やる気が出る。単純だな私。
観音さまに言われた７：３の法則は、まだ理解できてない。でもあのラグマットから見た家の中が、夢にも出てきちゃうほどでとにかく片づけようと思う。
まずは自分の洋服。ちょうど夏物を出そうと思っていたので、この際思い切って着ていないものを処理することにした。
整理してみると驚くことに同じような物が多い！！ 長袖のＴシャツなんか、ハイネック、丸首、Ｖネック、Ｕネックにスクエアカット。袖も長袖だけじゃなく、七分袖、五分袖！
セット価格に弱いから、「３枚で○９９９円」とか安売りされてるとすぐ買ってた。
あと、年末年始の福袋。あれって、なんだか惹かれて…。袋を開けた時は「まぁ、なんてお得！」ってニヤニヤしちゃうけど、結局着ないもの使わないものが２、３個はある。
これが増える原因だったんだなぁ。いくら安くても、着なきゃ無駄買いだ。
シューズラックに仕舞い込んで履かなかった靴もついでに整理。
徹が生まれて子育てし始めてからは、
もっぱらジーパンにスニーカーが定番だったから、オシャレな靴はシューズラックの上段の奥の方に仕舞ってあった。
結婚する前から持ってたパンプスにヒール、ミュール。
パンプスは学校行事とか同窓会にたまに履くけど、
７センチのヒールなんてもう履けない。
イヴ・サンローランのママは９０歳になっても１０センチヒール履いてたらしいけど、それは違う世界の話…。
ミュール…結婚前は可愛い作りで華奢なものをよく買ってたもんだ。
ペディキュアして素足とかで履いたりしてねぇ…。夏の海、青春してたわぁ。
取り出して箱を開けてビックリ。全体に白っぽくカビがきてて中敷きはボロボロの靴が幾つかあった。
皮製品はずっと使えるって思ってたのに…。もう修理の仕様もない感じ。大事に仕舞い込んで手入れしてなかったからだろうなぁ。
弘さんと徹は出かけていないから、リビングの中央に全身が映る鏡を置く。靴と服をとっかえひっかえ身につけて、ファッションショー。
すごく素敵だと思っていた服も、今着てみるとなんかしっくりこない。
淡い花柄はかえって顔がくすんで見えるし、ハイウエストの服は妊婦さんみたい。体型も微妙に変わってきたからなぁ。
迷うものは残して、次の機会に整理することにした。
結果、なんと３分の１を処分。毎年ギューギュー詰めに押入れのケースに入れてたのが、整理したので楽に入った。これは快感！
高かったブランド品は捨てるのがちょっと忍びなく、まとめて近くのリサイクルショップに持っていく。
引き取ってくれれば御の字と思っていたら、なんと２０００円になった！ これはいいお小遣いだ。
７月６日（水）友引
何となくスッキリしない晴れ。空には薄い雲がかかっていて、湿度は７０％近い。朝の天気予報ではフィリピン沖で台風１号が発生したと告げていた。観測史上ではランキング３位の遅さ。関東の梅雨明けが待ち遠しい。
午後は雨予報なので折畳傘をバッグに入れて電車に乗る。通勤電車の中で先輩の田中さんと会った。
いつも笑顔が素敵でスタイリッシュな田中さん。こんな蒸し蒸しした日でも爽やかファッション。
スリムだから何でも似合うんだと思ってたけど、よく観察してみると自分の似合うものがわかっているって感じ。さりげなく流行も取り入れてる。
今日はオフホワイトのブラウスに淡いグリーンのスカンツ。ブラウスの襟元にはアクセサリーじゃなく、今夏流行のビビッドカラーのスカーフを差し色にして巻いていた。
昼休み時間、３２階の休憩室で窓の外を見ながら田中さんと一緒にお弁当を食べる。遥か下に見える道路には忙しそうに車や人が往来していた。
「そういえば私、最近片づけにはまっているんですよ。それから７：３の法則っていうの、よく解らないけど勉強中なんです」
と話しかけると、田中さんから意外な答えが返ってきた。
「あらぁ、私、その７：３の法則、使ってるわ。洋服決めるときにね、カラーバランスにそれを使ってるの。今日着ていく服は何色をベースにするか決めてね、
それに相性のいい色を持ってくる。それが７：３の比。でね、それだけじゃ面白くないから、３の割合の中にアクセサリーかスカーフで違った色を持ってくる。
細かく言うとね、ベースカラーが７０％に対して、サブカラーが２５％、そこにアクセントになるカラーを５％の割合で持ってくるとちょうどいいのよ」
今朝スッキリまとまってると思った田中さんの服装にはそんな構成比があったんだとビックリ。オシャレにも法則はあるんだ。
聞き入る私に、さらに田中さんはこんな話をしてくれた。
「以前はね、バブル期に買った洋服が捨てられなくてワードローブがパンパンだったの。だって結構な値段張ったものばかりだったからね。だけど着ようと思って出してみたら、カビが生えちゃっててね。もう大ショック」
「あ、私も同じです。シューズラックに仕舞ってた靴が履けない状態でした」
「そうでしょう。洋服も靴も手入れしなきゃダメになるのよね。
で、その時思ったわけ。自分が手入れできる範囲にしようって。
ワードローブもシューズラックもパンパンにしてたら手入れ大変だし整理がつかない。少し風通し良くしてやればカビも生えてこないだろうと思って、３割は空けるようにしたのよ。そしたらね、スッキリ片づいて服や靴も手入れしてあげられるようになったわけ。それからは、洋服も靴も愛着持って大切にしてるの。
買う時もね、衝動買いはしなくなった。自分の持ち服とどう合わせられるか、
どのぐらいの期間着られるかを考えて買うようになったの」
「自分の持ってるもの全部把握してるんですね〜、スゴイ。私なんかこの間整理したら同じようなものばっかり買ってて、我ながら笑っちゃいました」
「それからね、ココだけの話、実はわたし太ってたのよ。いくら運動しても痩せなくてね。ＢＭＩ値も２５以上あってなかなか下がらなかったの。それで考えたわけ。これにも7:3の法則使ってみようって」
「え？？」
「毎回の食事をね、７割食べて３割減らすの。もちろん栄養のバランスはちゃんと考えてね。最初はキツかったけど、１か月続けたら１㎏ぐらい体重が減ったのよ。外食はとくにカロリー高くなっちゃうから気をつけたわ。たとえばラーメンはスープ絶対飲まないとかね。ちょっとアバウトだけど、それだけでも効果あるの。塩分も控えられるしね。昔の人は腹八分目っていよく言ってたみたいだけど、今は飽食の時代でしょ。だからね、腹七分目にしてるの私。
そしたら冷蔵庫の中も余計なものを買わないようになったから、悪くするもの無くなったわ。７：３の法則って結構いろんなことに使えるわよ」
おお、ビックリ！ ダイエットにも７：３の法則使ってるんだ。田中先輩のカッコよさは日々の努力の結果だってあらためて思う。
７月１０日（日）赤口
昨日はあいにくの雨で何もできなかったけど、今日はカラッと晴れる。湿度も５０％ぐらいだとだいぶ過ごしやすい。
田中先輩の言葉に刺激されて、片づけにはまり始めてる。
自分の物がスッキリしてくると、弘さんと徹の散らかし状態が気になってきてしかたがない。さり気なく 「ここ、ちょっと片づけてほしいなぁ」 と言ってみるけど、２人とも馬の耳に念仏。
とくにリビングの片づけが思うようにいかない。
観音さまに整理の仕方をアドバイス受けたけど 、なんかうまくいかない。
もうこれは言っても無駄だと思い、２人がもう使ってないような物は処分することにした。
７月１６日（土）赤口
海の日が入って久しぶりの連休。
明日、明後日と３人で弘さんの田舎鹿島に帰ることにする。義父さんが亡くなって義母さんは鹿島の実家で一人暮らし。
毎日の生活は御近所付き合いもあり不自由はしていないけど、遠出の買い物は車がないので大変。
たまに帰って買い物に車を出してあげることが、今の弘さんには唯一の親孝行。
会社人間で忙しかったころはほとんど行けなかったから、帰るとお義母さんはちょっと嬉しそう。
徹は今年初めての海に行けるから大興奮。朝早くからごそごそ準備していた。
「あれ～？ 母さん、僕のゴーグル知らない？ 縁が水色のゴムになってるやつ」
「え？ あれ、もうゴムがダメになってるっていってたから捨てたわよ。新しいの買ったじゃない」
「えぇ～！ 母さん、買ったのって水泳用のゴーグルだよ。磯遊びで使うゴーグルとは全然違うよ！！ 爺ちゃんに買ってもらったから大事にしてたのにぃ」
「ごめんごめん、向う行ったら新しいの探して買ってあげるわよ」
とその場しのぎで徹をなだめていたら、今度は弘さんが
「おい、久恵ぇ。俺のモスグリーンのＴシャツどこにある？ 胸に海人って大きく入ってるやつさ。あと、白い短パン知らないか？ たしかこの間風呂場に置いといたんだけどなぁ」
「両方ともホツレがきてたから処分しちゃったわよ。他にも同じようなのいっぱい買ってるじゃない。あれじゃなくたって…」
「違うんだよぉ。あれが一番着やすいんだ。サラッとしてて風合いもよくてさ。お気に入りだったんだよ。なんで捨てる前に一言聞いてくれないんだよ！」
なによ、みんなして。そんなに大事なら、ちゃんと仕舞っておきなさいよ。せっかくきれいに片づけたのに。
「おまえだってさ、好きなもの捨てられたらきっと怒ると思うけどな。人それぞれ大事にしたい物って違うじゃないか。おまえの基準が絶対じゃないだろ。勝手に判断してもらっちゃ困るよ」
怒り浸透！
だったら自分のことは自分でしてよ。外に働きに行ってる私の身にもなってほしい。自分はお気らくご気楽で家にいるくせに、ちょっとは主夫してくれたらいいのに！ 叫びそうになる。」
けど、我慢、我慢。せっかくのお休みが台無しになるから…。
胸にモヤモヤがたまったままその日を過ごす。
でも、でも、でも、でもぉ、モヤモヤが噴火しそう！！
助けて！！ 観音さまぁ！！
私の、片づけ観音さまぁ！！
片づけに目覚めたのに、息詰まる久恵…。
さて、解決策は？？？
つづく
最後までお読みいただきありがとうございます。
山口りんか
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