先日ある方から「元入金の金額が期首と期末が一緒で、翌年の期首の数字と一致しないという意味がよく分からない」というご相談をいただきましたので、せっかくだからブログで解説してみたいと思います。
この「元入金(もといれきん)」というのは所得税固有のもので、会社でいうところの資本金的な要素を持ったものになります。
一番最初に事業を開始する際に仮に事業用の銀行口座を開設して1万円預け入れをしたのであれば、簿記としては
普通預金 1万円/元入金 1万円
と表現できます。
これが仮に会社で資本金1万円としてスタートしたのであれば
普通預金 1万円/資本金 1万円
と表現できるので、そういう意味では非常に似ています。
ところで、会社の場合には資本金というのは一度決めてしまえば増資したり減資したりしない限りは変動しません。
1年間事業活動を行い、税引き後に残った利益は資本金とは別に利益剰余金として内部留保されていくことになります。
そしてこの剰余金が株主配当の原資となる訳です。
話しは戻りまして個人事業の場合には配当という概念は無く、従って資本金やら利益剰余金やらと区分けする必要もありません。
そのため元入金は会社で言う資本金と利益剰余金を合わせた性格を有していると言えます。
とりあえずここまで整理したところで、まずは「なぜ期首と期末の金額は同じなのか?」について解説してみましょう。
また先に会社についてお話しすると、会社の場合も期中では資本金の金額とそれまでの内部留保である「繰越利益」の金額は変動しません。
その期の利益の変動については「当期純損益金額」などの勘定科目で表現されているはずです。
そしてこの金額は当然に損益計算書の「当期純損益金額」の金額と一致します。
そして最終的に決算を組んで利益が出ればその金額が「繰越利益」に組み込まれる、という流れとなります。
これが個人事業の場合にはその期の利益の変動については「控除前所得計」などの勘定科目で表現され、損益計算書の「青色申告特別控除前の所得金額」と一致します。
ということで「元入金」は会社における資本金や繰越利益と同じような位置付けなので期中では変動せず、期首と期末の金額は同じままになる、ということなのです。
では次に「なぜ元入金の期末の金額と翌年の期首の金額が一致しないのか?」という点について解説します。
これは早い話が自分で仕訳を入力しなくても会計ソフトが自動的に元入金を精算する仕訳を行っているからです。
ちょっと話は飛びますが事業所得の計算に関係の無い入金や出金は「事業主貸」や「事業主借」という勘定科目(ソフトによっては「店主貸」「店主借」)で処理をします。
事業主貸は資産の部(貸借対照表の左側)、事業主借は負債の部(貸借対照表の右側)にあると思いますが、翌年になると両方とも0円になっており、金額がリセットされていると思います。
実は元入金というのは残った利益だけでなくこのような事業主勘定を整理するにも使われる勘定科目なのです。
仮に平成26年1月1日に元入金100万円で事業を開始したとして、1年間営業を行った結果、
青色申告特別控除前の所得金額 500万円
事業主貸 300万円
事業主借 50万円
となったとしましょう。
そうすると青色申告決算書上、貸借対照表の期末(つまり12月31日)の金額は
元入金 100万円
事業主貸 300万円
事業主借 50万円
青色申告特別控除前の所得金額 500万円
となります。
そして会計ソフトの繰越処理を行うと自動的に以下のような仕訳が行われます(イメージ的には平成26年12月31日と平成27年1月1日の間という感じです)。
①青色申告特別控除前の所得金額 500万円/元入金 500万円
②元入金 300万円/事業主貸 300万円
③事業主借 50万円/元入金 50万円
この結果、平成27年1月1日の元入金は
平成26年12月31日の残高100万円+所得金額500万円-事業主貸300万円+事業主借50万円=350万円
となります。
事業主貸、事業主借は精算されるので平成27年1月1日段階では0円となります。
ちなみに最近の会計ソフトは自動的にこのような仕訳をしてくれますが、私がこの業界に入った15年前には手入力する必要があり、勤務していた事務所では「期首振り」と呼んでいました。
自分で仕訳を入力すると感覚も掴めるのですが、会計ソフトが自動的にやってくれるとそれは便利でいいのですが、なかなか理解できないのかもしれませんね。
以上、長々と解説しましたがお分かりになりましたでしょうか?
確定申告、期限内に申告できるように頑張りましょう!