本番の朝はあいにくの雨模様だった。
僕らが演舞をすれば晴れるだろうと
さほど気にもせずに
パンだけバイキングの朝食を食べた。
4種類の小さめなおいしいパンを全部
腹に詰め込んで
時間通りに全員集合しバスと地下鉄を
乗り継いで会場へ移動した。
少し強めの雨に打たれながら会場に着くと
入場前に「ARTIST」という文字と
自分の名前が書かれた
ネックパスをもらった。
そうか、僕たちはこの2日間は
ARTISTなんだなと。
全員気が引き締まった表情に変わった。
ロッカールームとゲスト控室の
場所を確認するとすぐに
日本大好き外国人達でごった返した
会場の人波をかき分けながら
ファーストステージへ向かった。
初演舞のステージがある会場は
想像以上に広くて
全団員、テンションが上がった。
僕らが着くとステージでは人気芸人の
ジャルジャルさんがリハをしていた。
出番の20分前になり、ステージ裏では
それぞれの立位置や演舞の順番などを
戦々恐々と打ち合わせしていた。
「俺、ここの位置でいいんですよね?」
「この演舞終わったらどこに戻ればいいんだろう?」
「あれっ?ここって足閉じるんだっけ?」
「マント投げたら回収お願いします!」
見かねた団長が皆を集めて言った。
「本番のギリギリまで打ち合わせを
してる奴はいない。ここまできたら
間違ってもいいから
楽しんでやればいい。
事前リハがないのだから
初日はリハだと思ってもいいくらいだ。
ビビんな。練習どおり思い切り行こう。」
緊張で強張っていた団員達の表情が
少しほぐれたように見えた。
「5分前です!」
マーネージャー的役割をしてくれている
斉藤君の声にも力が入る。
皆、ジャンプしたり首をこきこきさせたり
ソワソワし始めた。そんな中、
佐々木の良くんが
「ヨコシンさん、そろそろ出番じゃないすか?」
と軽く僕にキュー出しをした。
「あっ、あれね。本当にオレでいいの?」
と団長の顔をチラッと見ると
「ヨコシンに任せる。けど心配。」
という表情だったのでおふざけはなしと悟った。
こうなったらドンっと行こうと声を出した。
「よしっ、みんな円陣を組もう!手を出して!」
団長が右手を円陣の中央に差し出すと
阿部副団長がそれを支えるように
右手を重ねる。
その上に大友副団長、及川副団長、
臨くん、イタさん、辻君、
庄司君、岡崎さん、根本君、
佐々木良君、佐々木淳君、
ナベさん、まるさん、武田先生、
保志さん、千田君、五十嵐君、
そして僕。
19人の気合を一つに重ねた。
目を閉じてすーっと息を吸ってから、
「押忍!いよいよ今日という日が来ました。
日本で応援してくれている
留守番組のみんなの分も
思いっきりぶっ放そう!
失敗を恐れずに
俺達らしく、クールに、
爽やかに決めてやろう!
いくぞーーーっ!」
重ねた右手の山に力が入る。
「青空応援団いざっ出陣!
えいっ!えいっ!えいっ!
おっーーーーーーーーっ!」
右手を全員で天へ振りかざし
出陣の雄叫びを上げた。
今だから言いますが
本当は緊張をほぐす意味で
「なんだチミはっ!
だっふんだっーーー!
いくぞーーーーーっ
アイ~~~ン。」
という志村バージョンも
用意していたのですが
今想うと
シリアスバージョンでよかったと思う。
全員が配置に付くと間もなく
登場曲の「凱旋」が流れ始めた。
イントロから曲の歌い出しに
差し掛かるタイミングで
皆勢いよく走り出し、登壇した。
登壇してしまえばもう破れかぶれ
団員全員にスイッチが入った。
「勝鬨をあげろぉーーーーーーっ!!」
前日の凱旋門とルーブル美術館の広場に
響き渡った団長の声が一段と力強く
会場にこだまし、演舞開始。
蒼天仰ぐ、ファイト、
及川副団長の六尺エール、
夢叶い花咲ん、辻君の三尺エールと
演舞は順調に進行し、
会場のお客さんから希望者を募り
エールを送るコーナーとなった。
始めはなんのことかわからない様子で
最初の1人目の方がエールを送られる
行為を見ていた観客達が
「次、希望の方おられますか!」と
言った瞬間、会場のいたるところで
歓声交じりに手が上がった。
僕は6尺エールの一番手をやらせていただいた。
会場に降りた根本団員が希望者の名前を伺うと
「エマニュエルさんです。」と。
壇上の団員だけに聞こえる声で
「押忍!がんばれ、エマニュエルでいきます。」
と伝え、ステージ前方に出る際に
耳元で団長がボソッと
「エマニュエル・・・夫人・・・w」と
半笑いで言った。
えっーー!このタイミングで言うーー!?
自分も名前を聞いて最初に浮かんだのは
籐の椅子に座ったシルビア・クリステルだったけれど
唇を噛んで必死に笑いをこらえ、
最初の「エールよぉぉいっ!」の発声で
シルビアの映像を蹴散らし、
エールを送らせていただいた。
https://www.youtube.com/watch?v=H8bKFQ2e9ts
その後は予想以上に希望者が多く、
とても時間内でこなしきれる人数ではなかったので
根元団員の独断と偏見で厳選し、
エールを送らせてもらった。
フランスの方々は日本人的な恥じらいはなく、
自分のためにエールをしている団員の
演舞を食い入るように見つめ、
満面の笑みで喜んでいたことが
印象的だった。
4~5人の方へのエールを
送らせてもらった後、
勝利の万歳、凱歌0番、凱風
あっぱれと通常演舞にもどり
最後の見せ場である「団長エール」
でファーストステージを終えた。
ステージをハケる頃には
会場は割れんばかりの拍手と
歓声に包まれていた。
「応援」は異国の人達にも伝わる。
僕達は確かにそのことを実感した。
ステージ裏に戻り、互いに
労をねぎらい合う言葉をかけ、
汗をぬぐった。
ちょっとの失敗はあったけれど
皆とりあえずホッとしたようだった。
初回のステージで流れと
観客の反応の感触をつかんだことを
基準にして2回目以降のステージは
団歌等のショー的要素を省き、
一緒になって楽しめるエール希望者演舞の
時間を多く取るように
プログラムを変えてみた。
これが大当たり。さすが団長。
独立型ではなく、ブース展示が行われている
メイン会場内にある文化ステージと
15周年特別ステージの2つは
観客と一体感を味わうことができて
団員達の間でも好評だった。
そしてなんといっても忘れられないのは
メイン展示会場から少し離れた場所にある
ショーイベントのためだけに設営された
メインステージは、なんと1万人規模の椅子が
並び、有名アーティストがライブをするような
まさに夢のステージという規模だった。
メインステージを目の当たりにした
全員の感想は
「おおっーーーっすげぇーーー!!」
「BZ'とかと一緒のクラスじゃーーんっ!
ステージだけ。」
とはしゃぎまくりだった。
と同時にこれだけのステージで
演舞をさせていただく機会を
与えられたことに感謝していたと思う。
3回の公演を終え、
激しい疲労感が顔に滲み出て来ていたが
皆今日の最後の力を出し切ろうという
男の表情になっていた。
時計が17:00を回った。
ほぼオンタイムで今日4回目の
入場曲「凱旋」が流れ始めた。
予め上手と下手の半分づつに
別れた団員達が何かを吹っ切るように
勢いよくBZ'クラスのメインステージへ
飛び出した。
「勝鬨をあげろーーーーっ!」
一回の公演ごとMAXの力を出し切って
いた団長の声もわずかにかすれて
来ていた。
団員全員がそれに気付いていたけれど
初日最後の演舞を最高の気合いで
飾ろうと後に続く。
メインステージの満員の
観客達にも希望者へエールを
送る演舞は大好評で
もっと続けて欲しいムードに
包まれていたがプログラムは
ラストの団長エールを迎えた。
三三七拍子の手拍子を
観客の皆さんに「一緒にやろう!」と
団長が促すと、フランスの方々は
理解も早く楽しそうに両手を上げて
一緒にリズムを刻んでくれた。
「もういっちょっ!」
タン、タン、タン、タン、
タン、タン、タン………
「やぁーーーーーーっ!」
「よぉぉーーーーっ!」
ドンっ!!」
団長:「ありがとうございましたぁ!」
全団員:「押忍っ!」
BZ'クラスの会場に
鳴り続ける拍手と声援を背中に
受けながら
緊張と不安だらけだった
初日公演を終えた。
「事前打ち合わせも最小限で
リハもなかったから
初日は捨てたつもりだったが
ここまでやれれば上等だ。
明日は余裕だべw」
団長の言葉で締めくくり
帰り支度をしようとゲストルームの
裏で休んでいると思いがけない
サプライズがあった。
僕らの演舞を観ていたマネージャーさんからの
依頼でなんと同じ日に出演していた
X JAPANのYOSHIKI氏にエールを
送ることになったのだ。
しばらくするとYOSHIKIさんが現れて
蒼天仰ぐと東京組のナベさんが三尺エール、
最後に団長エールを送らせていただいた。
「いやー、すごいねー。迫力あるね。」
というような感想を述べながら
YOSHIKIさんは団員一人一人と
「ありがとうございました。」と丁寧に
握手をしてくれた。
最後に僕らもYOSHIKIさんから
力をもらい会場を後にした。
それからシャルルドゴール駅の近くの
ホテルのレストランで食事をし、
アベテツ副団長の誕生日を
皆で祝福して宿泊先のホテルへ戻った。
3日間下駄を履いていたことによる
負荷が足の裏の疲労を加速させ、
正直歩くのこともかなりしんどかったので
団長とALUKUのむっちんの配慮で
足裏のマッサージをして
もらい眠りに落ちた。
7月6日、公演最終日の朝は
雨が降ったり止んだりの
中途半端な天気だった。
昨夜のマッサージのおかげで
足の裏は絶好調。
(むっちんありがとう!)
集合時間までに駅へ着いて
別ホテルの団長たちと合流した。
団長の一部の荷物がホテルの
従業員に清掃時に捨てられた
というアクシデントがあった。
それを聞いていた
辻くんが焦りはじめた。
どうやら財布をホテルへ忘れて
愉快なサザエさん状態だという。
付き添いの岡崎さんとホテルへ戻ることに。
本人はかなり青くなっていたが
無事財布も見つかり一安心でした。
午前中はインタビューチームと
物販ブースチームに分かれて
行動することになった。
本職が営業職だからというだけの
理由で物販チームへ行くことに。
斉藤君、ナベさん、千田君、臨君、
庄司君と道行く観客たちへ
扇子と手ぬぐいを片言の英語と
途中から男らしく日本語で
説明し販売した。
「いらっしゃいませー!
いらっしゃいませーーっ!
ジャパニーズ扇子がなんと7ユーロ!
買ってくれたらエールをもれなくプレゼント!」
最初はなんのことだか首をかしげていた
お客さんたちも実際に購入者が
エールをプレゼントされている
場面を見ると私も欲しいと
いくつか商品が売れた。
ナベさんの販売力がひときわ素晴らしかった。
それぞれの持ち場の役割を終え、
最終日の1ステージ目の時間を迎えた。
観客たちとの一体感が快感の
文化ステージからのスタートだった。
不安材料は団長の声が復活していない
ことだった。そこで急遽、
団長の発声のパートは大友副団長が
吹き替えをすることになった。
耳をそば立てなければ聞こえないほど
本当にかすれた声で団長が言った。
「大友、俺の声の代わりをおまえに任せる。」
「押忍!」
あの時の大友君の引き締まった表情が
忘れられない。
しょっぱなのステージは
昨日の教訓を活かし、皆堂々としていた。
2ステージ目のBZ’クラスの
メインステージ裏で控えている時に
団長がアベテツ副団長に
「これを読んでくれ。」とiphoneを渡した。
「わかりました。代読します。
なぁみんな、残りのステージを
全力で臨み、全力を尽くそう。
二度と戻らぬ今日という日に、
後悔の念だけは残すな。
面倒臭い、疲れたという己の中の敵に勝て。
互いを思いやり、助け合うのだ。
荷物を分けよ。
声出しは人を頼るな。
皆をカバーしようとしたら、
俺は声を失ったが大丈夫。
気迫で押す。
全員で応援をするぞ。
皆を誇りに思う。
あと数ステージで終わる。
諦めず、後悔を残さず。
世界を青空という愛と心強さで塗りつぶせ。」
全員の目と胸にこみ上げてくるものがあった。
気力と気合に再度スイッチが入った。
本番5分前、ガラガラだった1万人の席は
信じられないほどの満席状態だった。
そして団員のテンションをあげる「凱旋」が流れた。
https://www.youtube.com/watch?v=JM30nxnJG6k
最後は1万人全員で三々七拍子。
https://www.youtube.com/watch?v=3Lt44lccbUo
感動的な余韻に浸る間もなく、
進行上の時間的な都合で
3ステージ目のジャパンエキスポ
ステージへ移動する。
こちらも満員の大盛況。
団員達の体力も限界に近づいてきていた。
最後の力を振り絞りながら4ステージ目である
ラストステージの控室へ入った。
泣いても笑ってもこれがフランスでの
本当に最後のステージ。
皆それぞれの胸に何を思うのか。
かすれ声の団長:「さぁ、これでラストだ!」
全団員:「押忍!」
かすれ声の団長:「声つぶせよ!」
全団員:「押忍!」
かすれ声の団長:「後悔すんなよ!」
全団員:「押忍!」
かすれ声の団長:「行くぞぉ!」
これまでの疲れを吹っ切るように
全員、勢いよく15周年特別ステージへ
走り出した。
昨日よりもスムーズに配置に付き
大友副団長により最後の演舞の
口火が切られる。
「勝鬨をあげろぉぉぉーーーーっ!」
「うぉぉぉぉーーーーーーっ!!」
「蒼天よぉぉぉーーーーいっ!」
旗を振りながらこれまでのことを
思い出していた。
輪王寺での練習のこと。
デビュー演舞のみちのくYOSAKOI祭りのこと。
みんなで飯を食ったこと。
みんなでカラオケに行ったこと。
グラフでの筋トレのこと。
肉体的には限界に来ていたが
気力で乗り切ろうと指先にまで
神経を尖らせて型を披露しながら
その後の演舞も順調に進む。
そして、演舞最後の団長エールの時、
何の合図もなくそれは起こった。
「さんさんっ、ななっびょぉーーしぃ!」
演舞を締める掛け声を
団長を支えるように
団員全員で発声したのだ。
おそらく、皆の頭の中に
団長のいつものあの声が
しっかりと聞こえていたのだと思う。
渡仏組、日本で待機組の気持ちが
一つになった瞬間だった。
激しい鳥肌と涙が止まらなかった。
そして全員で会場と一つになるように
両手を大きく広げて手拍子を促した。
後方から皆の様子を見ていたが
誰もが悔いのない爽やかな笑顔で
ある者は泣きながら、またある者は
涙を堪えながら
手拍子を刻んでいた。
鼓手の千田君が後からこう言った。
「最後の団長の笑顔がスゲーいい
笑顔だったんすよ。現場とかで一緒に
いる時間多いすけどあんな笑顔は
見たことないので印象的でした。」
やがて演舞を閉める太鼓がドドンッ!と鳴り、
僕らのフランスでのステージは幕を閉じた。
足早に控室に戻ると
全員でハイタッチして達成感を分かちあった。
かすれ声の団長:「ここまで大変だったけど・・・
素晴らしかった!よくやったと思う。」
ほぼ全員が号泣。
感じ取ったもの、得たものは
個人差があると思うけれど
それはきっと経験者にしかわからない
かけがえのないものだと思う。
爽快感を醸し出しながら
EXPO終了までの
次の行動に移るため、
再度2チームに分かれることにした。
1つはチーム・ザ・物販
日本から持参したグッズをなるべく
多く販売したい目的で。
もう1つは帰り客へサービスエールを
送りまっせ班。
僕は今度はエール班へ行くことにした。
会場から駅へ向かう途中の広場で
またもやゲリラで演舞を実演し
帰り客の気を引く。
これがまたまた大成功。
「蒼天仰ぐ」→「ああ宮城県」を
地獄の5連チャン×数回。
団員は交代で旗振りをしたが
団長は一人でがんばっていた。
その合間に大好評の希望者エールと
写真撮影会を行った。
19時までの約2時間のあいだ、
希望者達は絶えることなく
楽しい時間を過ごすことができた。
そう、僕達のフランスのステージは
公式のステージだけではなかったのだ。
帰り客もまばらになった頃、
物販チームが満足気の笑みを
浮かべながら戻ってきた。
どうやらかなりの売り上げになったらしい。
全員揃うと、昨日食事をしたホテルで
ささやかな打ち上げをした。
アルコールを解禁されたので
缶ビールで乾杯した。
なんとも言えない格別な味だった。
そして、団員一人一人と団長が
握手したり抱き合ったり、
互いに感謝の気持ちを打ち明け合った。
その様子を一通り見ていたが
誰一人「完結」と思った者はいなかった
と思う。
今回のフランスは通過点の一つ。
僕達はキズを癒して次の未来へ進むのだ。
調子に乗ってパチリ。
YOSHIKIさんとXポーズを決める幸せ。
MVPの辻君
ありがとうございました。
しょんつぁん。
デビュー演舞のみちのくYOSAKOIから
9か月後、僕はたくさんの仲間に支えられながら
フランスの舞台で演舞をさせていただいた。
それは夢ではなく、確かな現実だった。
43歳にしてあらためて
目標に向かってやり抜く大切さを学んだ。
初めは少人数だったけれど
継続することで多くの仲間ができる
喜びを知った。
そして、こんな自分でも鍛錬することで
誰かの世界を変える一助ができる
やりがいを見つけた。
やっぱり人生に遅すぎることはないんだね。
打ち上げの時の
「一緒に来れてよかった。」
了ちゃんの言葉、あの世まで持ってくよ。
いつもありがとう。
青空応援団に入団してよかった。
これからもよろしく。
団員のみんな、
伊藤社長率いるチームイトオンの皆様
どうもありがとうございました。
そんな青空応援団の特番が
8/24(日)午後3時~3時55分に
地元のミヤギテレビで放送されます。
これって何気にすごい事なんですよ。
来年は皆でN☆へ行こう!