【月の神殿の巫女 2】  谷よっくる





2.別れ


赤子は成長し、かわいい少女になった。

人見知りする内気な性格で、ひとりで遊ぶのが上手。

草花が好きで、よく話しかけていた。

虫や動物も好きなようだった。


(人間は嫌いなのかしら。)

巫女は同い年の子どもと遊ばない少女が気になっていたが、そういう時期もあるのだろうと思った。

ともかくも、ここまで育ってくれたことに感謝しないと。


巫女は毎晩、神殿で少女の健やかな成長を祈る。

すると、自分の中からあたたかいものが湧き出してくるのを感じた。

それを愛と呼ぶならば、そうであろう。

その愛の思いは、どんどん広がってゆき、

この街に住む子どもたちの笑顔が脳裏に浮かび、その子らの幸せも祈るのだった。

祈りの時間は巫女にとって至福そのものだった。


(自分は愛する誰かの子どもを産むことはなかったけれど、こうして子どもを天から授かり、育てることができた。

この経験は、わたしを救ってくれた。

今は、この子のためなら、いくらでもがんばれる。

わたしがしっかり働いて、この子を学校に入れてやろう。

教養は、きっとこれからのこの子の人生の助けになるだろう。)


巫女は、働いて少しずつ貯めたお金で、少女を神学校に入れた。

そこは巫女の家から離れたところにあり、少女は寄宿舎で生活することになった。

不安そうな少女を馬車に乗せ、神学校まで連れていくとき、巫女はなんとなく誇らしく思えた。

少女と離れて暮らすのはさみしかったが、自由な時間も増える。

もっと仕事をして、お金を貯めよう。

明日はどうなるかわからない。

隣国が攻めてくるかもしれない。

疫病で命を落とすかもしれない。

自分がいなくなっても、少女が路頭に迷わないように。

信頼できる後見人にあとを託せるように。

巫女はなぜかせき立てられるように働いて、働いて、働いた。

やがて、無理がたたり、身体はボロボロになり、床に伏せるようになった。

だが、頭に思い浮かぶのは、少女のことばかり。

(あの子は私がいないと生きてはいけない。

なんとしても生きなければ)

そう思うものの、身体は日に日に衰弱するばかり。

そして、ある新月の夜、巫女は悟った。

自分は今夜、死ぬことを。


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