【月の神殿の巫女】 

               谷よっくる


前話はこちら。



3. 成長

少女は神学校で学びながら、すくすくと成長していった。
校長は人格者として人気のある人で、生徒たちにも優しかった。
だが、巫女からの仕送りが途絶えると、態度は一変した。
少女は部屋を変わることになり、新しい部屋は屋根裏だった。
ずいぶん長く使われておらず、ホコリだらけ、蜘蛛の巣だらけだった。
窓もなく、あかりもない、真っ暗な部屋。
まだ年端もいかない少女には、酷な場所だった。

巫女は死ぬ前に蓄えのすべてを神学校に寄付していた。
そして、校長あてに手紙を書いて、少女が卒業するまで面倒をみてほしいと頼んだ。
それは巫女にとっては遺書となり、それを受け取った校長は、巫女のために祈る仕草をしたが、心の声は違っていた。

(これっぽっちの金で卒業までなんて、とんでもないことだ。ただ、今すぐに追い出すわけにもいくまい。世間での私の評判に傷がつく。ここは温情をもって、遇してやらねはな。しばらくは。)

ほとぼりが覚めた頃に追い出してやろうという魂胆だった。
このようにひとの外見と中身は一致しないことがある。
みかけがよいからといって、だまされてはいけない。
もちろん、天から見れば、そのようなことはお見通しのことである。
神学校の校長が神の目を気にしないとは、情けないことである。

少女はこうして天涯孤独の身となり、寄宿舎の屋根裏で暮らすようになった。
そして、校長の命令で寄宿舎の掃除をするようになった。
同じ年頃の生徒たちが楽しく過ごす場所で掃除をさせるとは、なんとむごい仕打ちであろうか。
少女はそれでも文句ひとつ言わずに掃除をした。
掃除をすると部屋がピカピカになる。
それが少女には嬉しかった。
掃除の場所はだんだん増やされ、トイレ掃除もするようになった。
最初はとてもつらかったが、トイレの容器がこするとピカピカと光り輝き、とてもきれいになるのを知ると、トイレ掃除が大好きになった。
トイレは汚くしていると、みんな嫌になるものだが、毎日使うところでもある。
毎日使うなら、きれいな方が断然よい。
使う生徒の間でもウワサになり、心やさしい生徒からはありがとうとお礼を言われるようになった。
それだけではない。自分も手伝うと言い出す生徒がひとり、またひとりと増えていった。
トイレがピカピカだと、使う生徒たちの心もピカピカになるようだった。
ちなみに、先生の使うトイレは汚いままなのだった。