梶よう子。噂を売る男—藤岡屋由蔵 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

柄本佑

 

梶よう子『噂を売る男—藤岡屋由蔵(2021)PHP研究所』。設定は江戸末期、辻売りの古本屋由蔵はうわさ風聞の類の真偽を明らかにし書面に書き残し、時にその情報を売って生業とする。「文春」並のかわら版と違って確度の高い情報は、武家のお留守居役や八丁堀の役人などに重宝がられる。

 

かつて、由蔵はそうした噂によって「うそつき由蔵」と囃したてられ、国を捨て江戸にでてきた暗い過去をひきずる。苦労を重ね徐々に情報屋として頭角を現してきた由蔵だったが、ご禁制の日本地図が海外に持ちだされるという幕末の大騒動「シーボルト事件」に巻き込まれると自身の身辺に飛び火して。

 

梶よう子:噂を売る男—藤岡屋由蔵(2021)PHP研究所

秦新二:文政十一年のスパイ合戦(1992)文芸春秋社 

 

梶よう子『広重ぶるう』の余韻をひきずって読んでみたが、屈託を感じさせる主人公によるハードボイルドな仕上がりで、藤沢周平の『彫師伊之助捕物覚え』を連想する。

 

また「シーボルト事件」といえは、間宮林蔵隠密説などいろいろと謎が残る事件で、秦新二のノンフィクション『文政十一年のスパイ合戦(1992)文芸春秋社』のように、シーボルト無罪説を説くものもある。秦新二版は当時かなり話題になった。改めて、梶よう子版と読み比べてもおもしろい。