村上元三。緋鹿子捕物帖 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

夏 帆

 

前ブログで「女捕物帳」の佳品として、土師清二『おかく捕物帖(1968)秋田書店』に触れたとなれば、村上元三『緋鹿子捕物帖(1947)金鈴社』も取りあげたい。

 

日本橋銀町の岡っ引清五郎と娘のお吟父娘による捕物噺で、密室ものなど本格推理も扱うが、一編の紙幅が少ないせいか職人肌の村上元三にしては内容的にやや物足りない。

 

村上元三:緋鹿子捕物帖(1947)金鈴社

 

手元にある金鈴社版は昭和22年出版の仙花紙本ながら、初出は戦前昭和16年の杉山書店版とあるので発表はそれ以前なのだろう。戦後の捕物ブームを受けて再販と思われるが、金鈴社版には「大江美智子一座上演用」の戯曲一編『紅染狂言』が収録される。こちらは三幕七場で劇中劇が入れ子になっていて凝っている。

 

この緋鹿子捕物シリーズは金鈴社版出版後に再開されたようで、昭和26年に新小説社から『緋鹿子捕物草紙』全2巻、収録短編18話が出版された。金鈴社版と作品が重複していないので戦後の新作なのだろう。機会があったら読んでみたい。

 

村上元三の捕物帳といえば、軽い仕上がりながら明治の風俗を背景に描いた『加田三七・捕物そば屋』のシリーズがすばらしい。捕物帳の世界もまた奥深い。