永井荷風。一生嫌味の抜けなかった詩人 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

映画 濹東綺譚

 

小島政二郎『小説永井荷風(2007)鳥影社』。小島政二郎は永井荷風『あめりか物語(1908)博文館』『西遊日記抄(1932)春陽堂』に出逢ったことで小説家をめざし、慶應義塾文学部に進んだが、入学し本科に進みいよいよ荷風の講義を受けられる目前で、荷風が大学教授を辞めたためいたく落胆した。

 

しかも、荷風は文学というよろも江戸趣味に韜晦していき、生活もエゴイスティックで快楽的、社会から乖離した個人主義的な殻をまとっていく。小島政二郎による愛憎ないまぜの私小説的評伝で、晩年の傑作のひとつといわれる。

 

小島政二郎:小説 永井荷風(2007)鳥影社

 

実はこの『小説永井荷風』は校正を終えて製本もできようという段になって、荷風の女性への酷薄な扱いを仔細に暴くなど、その苛烈な内容によって永井家の許可が得られず、結局30数年を経て小島の死後にようやく陽の目をみた。出版時はずいぶん評判になり、以降の荷風評伝の多くに引用されている。

 

小島によると「荷風は一生嫌味の抜けなかった詩人だった。嫌味が彼の身から離れた瞬間(江戸趣味などに浮身をやつした頃あいから)芸術の神も離れた」と書いている。