仁科春彦。諧謔小説 結婚難 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

淡島千景

 

仁科春彦の諧謔小説『結婚難(1924)実業之日本』の舞台は大正13年正月に始まる。主人公の若子さんは親友の坂口さんから届いた年賀状に結婚すると書いてある。かつて女学校の友人とともに「独身党」を立ち上げ「たとえ一人になろうとも独身主義を貫きましょう」と誓いあった仲だったのに。

 

しかも、その坂口さんはその旗頭。はてっ。残ったのは若子さんだけ? その焦りまくる若子さんに(お節介焼きでおっちょこちょいの春月おじさんが)見合いの話を持ち込んだものだから、若子さんの心は千々に乱れる。たわいのない内容です。

 

仁科春彦:諧謔小説 結婚難(1924)実業之日本

 

細木原青起 挿絵

 

古書の状態はあまり良くなかったが、ちょっとかわいらしい装丁で、そのうえ細木原青起の挿絵が40点も挿入されている。安価もあって入手。仁科春彦は多く児童書も手がけ、マーク・トウェイン『トム・ソーヤー』などの翻訳があることから、このあたりが仁科のユーモア小説の原点らしく思われる。

 

近代ユーモア小説の草分けである佐々木邦なども、出発点は夏目漱石とマーク・トウェインといっている。その漱石は多分に滑稽噺の名手として知られた落語の柳家小さん(2代目)を意識して『坊ちゃん』『猫』を書いたらしいから、近代日本のユーモア小説は上記の人たちの恩恵を受けている。

 

仁科春彦:結婚難 本文

 

その『坊ちゃん』の挿絵を最初に描いたのが近藤浩一路、続いたのが細木原青起で、当時のユーモア系挿絵画家の第一人者だった。よってユーモア漫画の大恩人である。

 

巣作りに励むツバメだろうか