川口松太郎。蛇姫様 岩田専太郎の挿絵 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

蛇姫様 岩田専太郎 挿絵

 

時折訪問させていただているブログで、川口松太郎の伝奇小説『蛇姫様(昭14.10.7-昭15.7.10)大阪毎日新聞』に言及されていました。本作品は川口松太郎初の新聞小説でこの作品で一気にメジャーに登りつめた出世作です。挿絵は岩田専太郎、戦前における岩田の絶頂期の挿絵で、戦後になっても川口&岩田のコンビは続きます。

 

 

 

 

蛇姫様 岩田専太郎 挿絵

 

川口と岩田は同年代の親友同士で「いずれコンビが組めたら」と言いあっていたところ、ついに実現したのが本作品。川口は絶えず連載10回分を前渡しして、岩田がじっくり描けるように気をつかい岩田もそれによく応えた。作品・挿絵とも大評判になったものの、対米開戦を前に〝華麗に過ぎ〟時局に合わぬと軍部に睨まれふたりの仕事は減っていく。

岩田の画風は劇画的華麗な様式美。1970年代に活躍する〝昭和の絵師上村一夫を先取りした。岩田は25歳にして吉川英治『鳴門秘帖(1924)』で一家を成し、幾度もタッチを変えながら、亡くなる(1974)まで50年ほども第一線で活躍したことから、一見器用な絵師といわれるが、基本的には生涯『蛇姫様』線上の様式美にあったと思っている。その意味では案外一貫した絵師だったのかも知れない。

 

蛇姫様 岩田専太郎 挿絵 スクラップ帖

 

川口松太郎:蛇姫様(1970)立風書房 三井永一表紙絵

 

仇討ちにお家騒動の渦に巻き込まれるカラスヘビが守護する幸薄き姫君と、町人ながら剣と笛の名手(しかも水も滴る美男)千太郎とのもつれる愛憎はいかに? といった展開。従来の伝記物特有のおどろおどろの暗さがなく、わりあい明るくさっぱりした読後感が川口らしい。

 

川口は『明治一代女・鶴八鶴次郎』といった世話ものの優れた書き手として知られ、シナリオも手がけたことから作品は多く舞台や映画などで上演された。

 

川口松太郎:新吾十番勝負 山本タカト装画

 

さて、川口といえば『新吾十番勝負』を忘れてはいけないところながら、こちらは以前に書いた。続編に『新吾二十番勝負』は手元にあるが、いまだ稀覯本の『新吾三十番勝負』は巡りあえないでいる。

 

興津要:大衆文学の映像(1967)桜楓社

 

明治末に映画が紹介されると、戦前の昭和時代以降の映画の躍進はめざましく「文学作品の映像」といったジャンルも確立され興津要の『大衆文学の映像』に随分世話になったが、彼の『写真で見る大衆文学事典(1978)桜楓社』はとタイトルが違っても内容は同じなので注意が必要です。