村田喜代子。尻尾のある星座 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

シベリアンハスキー

 

村田喜代子『尻尾のある星座(2005)朝日新聞社』は犬の飼育ドキュメント&エッセイ。さて、村田さんが飼っていたシベリアンハスキーが突然死する。犬の死がこんなに辛く哀しいのだから、二度と飼うまいと決意したものの、手にひらに乗せられたラブラドールの赤ちゃんに翻意させられる。可愛い!

 

馬鹿め。犬も猫もライオンも、ワニの子だって子どもは可愛いのだ。ところが、このラブラドールはまさに悪魔の子、躾など無用とばかりに人や物を噛む。暴れまくる。咬み傷が絶えない。日常は修羅場と化し犬と飼主との格闘のゴングが鳴る。その2年にわたる顛末記とエッセイが収められている。

 

まさに必死の飼育記録は、こちらの目線からは抱腹絶倒な風景にみえたりして、もうしわけなくも面白く読んだ。これは樋口覚『短歌博物誌(2007)文春新書』のお勧め文にしたがった。また、戦前に犬の「フェラリア研究会」を設立して、ワクチン開発の道を拓いた平岩米吉の短歌を紹介している。

 

 

はぐくめば果は亡せゆく命なれ、なおやみがたし犬のいとしさ

 

犬なればよしあしはなし、ひたむきに命かたむけ馴寄るかなしさ

 

犬らみな生命 いのち 委ね生きゐしを我のいたらぬ悔いぞ多かり

 

雨に濡るる夜半の墓石よ暗けれど安らにあらむ、われも眠らな

 

 

10年ほどの寿命の(飼い主への絶対の愛を抱いてこの世に生まれてくる)犬を慈しみ、やがて葬送らなければならない。70匹ものシェパードを飼った平岩米吉の愛は実は悲しみなのだと。