樋口覚:短歌博物誌。猫の舌のうすらに | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

コリー(再掲載

 

樋口覚『短歌博物誌(2007)文春新書』には昨ブログでも触れた。わが国では犬と猫は古代より生息していたが、文献上の記録は少なく猫については東光治『万葉動物考』にも記載がないとのこと。実在したにもかかわらず『万葉集』『古今和歌集』『新古今和歌集』で詠われなかったのは、なぜか?

 

猫に至ってはやはり近代に入ってからで、漱石『吾輩は猫』や萩原朔太郎の詩集『青猫』や『猫町』谷崎潤一郎『猫と庄造と三人のをんな』内田百間『ノラや』梶井基次郎『愛撫』など傑作揃いで犬を押しのけて登場しだす(樋口覚)。これは、ボードレール『悪の華』やエドガー・アラン・ポー『黒猫』オスカー・ワイルド、キプリング、エリオット、ルイス・キャロル『アリス』のチシャ猫などの影響だろうか。

 

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仏ジュール・ルナール『博物学」は、岸田国士の名訳(有名な蛇の「長すぎる」など)もあって日本で親しまれ、芥川龍之介はこのルナールを真似て『動物園』を書いている。

 

波斯猫… 日の光、茉莉花の匂、黄色い絹のキモノ、Fleurs de Mal.(悪の華)しれからお前の手ざはり。芥川龍之介『動物園』より

 

 

毛ほどの隙を見せずに歩み去る老の白猫がわがこころ知る(前田佐美雄)

 

猫の舌のうすらに紅き手ざわりのこの悲しさを知りそめにけり(斎藤茂吉)

 

翁さぶるわがかたはらに耳たてて海の野分を聴ける白犬(前登志夫)

 

養老孟司の愛猫 (在りし日の)まる