刑事ショーン・ダフィ.01 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

 私の極めて貧しいアイルランドのイメージ

 

1980年代の北アイルランドを舞台にした警察小説、エイドリアン・マッキンティの〝刑事ショーン・ダフィ〟シリーズは、英国からの離脱派、プロテスタントとカソリック系過激組織の対立によって引き起こされた動乱期の北アイルランドが舞台なのだが、戦闘テロによって多くの人が殺害されるなかにあって

 

殺人事件の(本作品ではゲイの連続殺人の)捜査にどれほどの意味があるのか、といった設定が特異。警官などは消耗品のごとく殺害される。ために、出勤時は自動車に爆薬が仕掛けられていないかを確認することがルーティンになっている。市民は自身の生存が脅かされる中で、ゲイの生死などにかまけていられない。

 コールド・コールド・グラウンド(2012)ハヤカワ文庫

 サイレンズ・イン・ザ・ストリート(2013)ハヤカワ文庫

 アイル・ビー・ゴーン(2014)ハヤカワ文庫

 

暴動は今やそれ自身の美しさをまとっていた。三日月の下でガソリンの炎が描く弧。謎めく放物線のなかの深紅の光跡。プラスティック弾を吐き出す銃身(バレル)の燐光。魚雷攻撃を受けた囚人輸送船の船倉で男たちがあげる悲鳴にも似た、彼方の叫び声。厳格な地表と交わる火炎瓶(モロトフ)の緋色の響き。見渡すばかりのヘリ。そのサーチライトが、来世の恋人同士のように、お互いの姿を見つけだしている。

 

上質なハードボイルドは散文詩に近いというのが持論なのだが、まず上掲第1巻の暴動の描写書出しが素晴らしい。主人公は北アイルランドの警察隊巡査部長ショーン・ダフィ、大学出身者は珍しく、カソリック系警官というのも珍しいため立場は微妙。だいたい高学歴者は治安のよい南アイルランドや英国に就職する。

 

時代はレディ・ダイアナがロイヤル・ウエディングの衣装合わせのころ、鉄の女サッチャー英首相は「テロには屈しない」と北アイルランドの紛争鎮圧に介入するなかで、猟奇的なゲイの殺人事件が連続する。テロ鎮圧で余力のない警察から、新入りのショーン・ダフィ巡査部長が担当することになるのだが…