斎藤美奈子の文壇アイドル論 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

 斎藤美奈子:文壇アイドル論(2002)岩波書店

 

(われらが)新潟県出身の斎藤美奈子の筆名はつとに著名ながら、なかなか読む機会がなかったのですが、ようやく。「文壇アイドル論」は8人の当時(中には今でも)突出した作家(村上春樹、俵万智、吉本ばなな、林真理子、上野千鶴子、立花隆、村上龍、田中康夫)を俎上にあげてみごとに1980年代を浮かび上がらせている。特に林真理子と上野千鶴子の稿が出色で「読書が趣味」と広言されるだけのことはありますね。脱帽です。

 

図書館で近著を検索したところ、岩波書店のPR誌「図書」に「文庫解説を読む(2014.08~)」が現在でも連載中なのですね。図書館の椅子にもぐりこんでバックナンバーを閲覧したのですが「いやー面白すぎる」。気がついたら閉館時間になっちゃって、翌日来館してすべてコピーし(さっそく読了し)ちゃいました。単行本化が楽しみです。たとえば、(不幸にも教科書で読んだ)太宰治「走れメロス」は、友のために死を賭して走り抜いたメロスの友情ってベタすぎて、どこが面白いの? と、最初に読んだ当時も現在も思っていました。

 

そして、文庫解説にいたっては「今さら解説するまでも」というスタンスなのか、ほとんど作品の解説を放棄している状況らしい。しかし考えてもみよ。「あのひねくれ者の太宰が〝美しい友情〟だけの話を書くかしら?」との斎藤美奈子の投げかけには「まったくその通り」なので、思わず首肯せざるを得ない。簡単に結論を述べるが、メロスは(悪意ある)独裁王の(民衆の不満を逸らすための)プロタガンバにみすみす乗せられた〝お人好しな若者の無駄死〟という物語ではないのか。と言うのです。

 

 

毎週、数冊の本が送られてくる。その包材から本を引き抜いた後も蝉の抜け殻のような存在感があって、つい微笑んでしまう。