北林谷栄の蓮以子八十歳 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
北林0146
 北林谷栄:蓮以子八十歳(1991)新樹社

映画「寅さん」の初代おばちゃん「トトロ」メイちゃんのお婆ちゃん役で知られる北林谷栄、本名蓮以子は1911(明治44)年生まれ、レンガ棟が建ち並ぶ銀座の大通りに生家があった。父は当時の慶応義塾からサンフランシスコの商科大学をでたパリパリのハイカラ紳士だったが、癇癖が強いわりに生活的には繊弱なところがあって、関東大震災で財産を失うと酒浸りになった。母は北林が幼い頃に亡くなったためほとんど祖母に育てられた。

夢みがちなどんくさい少女だったようで、大正8年4月「少女世界」から「少女画報」へと少女雑誌をむさぼり読んだ。後に祖母とふたりで暮らしている時に懸賞金欲しさに「少女画報」に投稿して20円を得たことがあった。これが縁で編集の仕事を得たが戦時下の紙の統制により廃刊になってしまった。余談になるが、太宰治と情死した山崎富栄の家の店子になったことがあった。富栄の母親は「金色のツルの眼鏡を細い鼻筋にのせた、貧血性体質の小柄な女性」で

富栄も母親そっくりの面立ちをしていた。心中のニュースに触れて「なぜだか、なるほど」と思ったものだった。最初の舞台は1935年春の創作座「温室村」だが、俳優としての役をもらったのは1937年秋新協劇団「どん底」の娼婦ナスチャ役だった。初めての老婆役は戦時中の瑞穂劇団「左義長(とんど)まつり」で、宇野重吉が演出の久保田万太郎に強談判して誕生した。27~8歳のころで70何歳かの老婆を演じた。

大型古書店の100円本。書出しの銀座風景の描写が見事なのに驚き購った。北林が1960年以降「銀座百点」「室内」「婦人公論」他に執筆したものをまとめたものである。