アン・ペリーの護りと裏切り | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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 アン・ペリー:護りと裏切り(2013)創元推理文庫

アン・ペリーのイギリス・ヴィクトリア朝時代を舞台にした歴史ミステリー〝ウィリアム・モンク〟シリーズの第3巻。ちょうど英BBC放送制作の「ダウントン・アビー」の時代設定で、わが国のチョンマゲものといった作品です。主人公のウィリアム・モンクは首都警察官を辞任して私立探偵として再出発しますが、もちろん依頼は少なく生活はキツくなってきている。ただし本作「護りと裏切り」では、モンクよりも看護婦のヘスター・ラターリィにメインスポットがあたっていて

かの時代の女性の「不自由な暮らし」を描くのにかなりのページが割かれています。上流婦人は気ままに家を離れることは許されず、夫の浮気や性癖には目をつぶり家格と体面の保持に尽くさなければなりません。一方、クリミア戦争などの従軍看護婦として従軍したヘスター・ラターリィは、(前作で、医師の判断をまたずに[正しい判断だったのですが]治療したことで病院を追われ、ようやく)傷痍軍人の介護の仕事を得ていますが、女性の自立が難しい時代ですでに次の職の心配をしています。

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上巻286ページあたりから「洗濯」についての克明な記載があって面白い。いまだ石けんは贅沢品で「炊いたふすまで更紗を、馬のヒズメの削りくずで毛織物、挽いた羊の足や石灰にテレピン油をあわせて油や獣脂、レモンやタマネギの果汁はインク汚れに、温かい牛乳は葡萄酒や酢のしみに、硬くなったパンは金銀・絹の織物に」効果があるようです。さて事件は、尊敬を集める将軍が妻に刺し殺され妻は自白したものの、その動機がわからない。

弁護士オリヴァー・ラスボーンはモンクとラターリィの協力を得て弁護にあたるのだが、なんと下巻100ページくらいまでまったく事件が動かない。それでも読ませる作者の力量に頭が下がります。ほとんどミステリーというよりもドラマ仕立てなのですが、その多くは時代や登場人物の造形に割かれています。第2作「災いの黒衣(1991)」から12年後の本作翻訳ですが、英国ではすでに20作品ほどが発表されている人気シリーズです。

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量販古書店で偶然眼にとまったからいいようなものの、すっかり忘れていました。こんな間遠い翻訳では困ってしまいます。今年、第4作が発刊されたようなのでさっそく取寄せ中、久しぶりの徹夜本でした。興味のある方は1巻からお読みください。途中からだと少し判りづらい。「ダウントン・アビー」好きで、辛抱強い読書家にお勧めします。カヴァーは浅野勝美の〝らしい〟イラストで飾られています。学生時代に話せなくとも読める程度に英語を学んでおくのでしたね。いまさらながらに悔やまれます。