源氏鶏太「家庭の事情」姉妹の物語 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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源氏鶏太:家庭の事情/東郷青兒装幀
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源氏鶏太:家庭の事情(昭36)文芸春秋新社

日本の若草物語というと何だろうね。戦時中書かれた谷崎潤一郎「細雪」は大阪船場で古い暖簾を誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子・幸子・雪子・妙子の話だった。向田邦子「蛇蝎のごとく(1981年)」は綱子・巻子・滝子・咲子だが、こちらは両親が健在ながらラストに母親が急死する。大谷崎や向田の脳裏に「若草物語」の断片がありましたかね。源氏鶏太「家庭の事情」は一代・二美子・三也子・志奈子・五百子(いおこ)、上が26才で末娘が19才、こちらは娘5人の父子家庭です。

父三沢平太郎は55才で定年退職を迎えたのを機に退職金を(自身を含めて)6分割、ひとり50万づつを与え「私も自由が欲しい」と提案する。妻を亡くし働き詰めに働いてきた。五姉妹も皆職に就けた。ついでに、退職金は皆が嫁ぐ費用として平等に担保したい。そのお金は自由に使っていいが、その代わりそれぞれの結婚時には費用は出さない。ところで、末娘の月給が8,500円、平太郎は再就職の会社が決まって月30,000円の時代です。

さて、その50万がそれぞれに波紋を起こすことになる。一代は上司との不倫を清算して喫茶店を始めて再出発を計る。次女の二美子は怪しげな美男彼氏に全額を貸す。三女の三也子はのんびりと旅行をして、あわよくばその旅行でロマンチックな出会いをもとめている。発展家の四女志奈子はつきあっている3人の彼氏に利殖のアイディアをださせ、最高の利益をだしたものに“接吻”を与えると約束。最後の五百子は請われて社内金融を始めるのだが…

源氏鶏太「家庭の事情」は五人姉妹で一人多いが、適齢期の女性の物語である以上、恋愛がテーマでその時代をいささかなりとも反映する。初出はオール読物で、新藤兼人脚色、吉村公三郎監督、若尾文子・叶順子・三条魔子・渋沢詩子(1962)で映画化された。五女はカットされてます。良く書けたお話で一晩で一気読みができます。結末はハッピーエンドなのですが、これは経済が発展期に入った時代の軽小説ゆえでしょう。

源氏鶏太から山田太一「岸辺のアルバム(1976年)」・向田邦子の時代、バブル前期~盛期にはいるとホームドラマも影が注してきます。お金が足りて心の問題ですかね。鎌田敏夫「金曜日の妻たちへ(1983年)」になると、妻にとっての幸福=恋=不倫願望という構図でしょうか。さて、現在は?