三田村鳶魚江戸文庫と隠居 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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三田村鳶魚江戸文庫:中公文庫 全36巻 別巻2

昨ブログの続き。森田慶次郎は44歳で隠居、同心時代の善行が利いて商家の寮の番人として悠々自適、あげく料亭“花ごろも”の女将お登勢(かたせ梨乃)が登場して、わずかに華やいでいる。52歳の三屋清左衛門(残日録:藤沢周平)は、政治の中枢にあって藩の存続舵取りに命をすり減らしてきたが、ぽっかり隠居の身になれば釣りと日記が仕事になる。老いに輝きはあるのか? 

もっとも、清左衛門には小料理屋“涌井”の女将みさが時に無聊をなぐさめる。池波正太郎「剣客商売」秋山小兵衛は40も歳の離れたお春と再婚したのだった。そういえば、上記3人は案外ふところが温かい。老後は金か? スコットランド・エジンバラ署のリーバス警部は「最後の音楽」でついに年金生活にはいった。警察時代の彼は一日24時間、アルコールで酔いつぶれる以外は、ほぼ捜査にその時間を費やしてきた。これからは、両手に余る時間を消化しなければならない。このご仁の今後が気にかかる。

書店に行くと高齢化をあてこんで、あからさまに老人(定年)コーナーが作られ、残日の指導本が積み上げられている。さて、三田村鳶魚(えんぎょ)は生涯を江戸研究にあてたから、おそらく定年のくぎりは知らずに過ぎたと思われる。ただし、もともと隠居のような生活といったら御幣があるか? 装幀画は三谷一馬、このご仁も晩年は江戸研究に没頭した。蓄えのないものの老後は、図書館で江戸学というのが自然な道のりなのか? 女に溺れるという芽はないのか?