牧野富太郎「草木とともに」 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
みずすまし亭通信-9570

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 散り散らず人も尋ねぬふるさとの露けき花に春かぜぞ吹く

散ろうが散るまいが人の訪れぬ地では露おく桜に春風だけが吹いている(慈円)状態、街中の桜並木なのに雨が降り寒いせいで観桜する人もいない。そういえば、伊豆の散り際の緋寒桜を見たのはいつだったろう。この紅い桜はもともと台湾の産で、琉球から薩摩へ伝わり、それがたまたま熱海の気候に合った。「熱海はこのヒカンザクラをたくさん植えて名所をつくるべきだ」といったのは牧野富太郎である。その通りになったのだからけい眼というべきだろう。

 花びらを鱗とまとい淡々と風を孕んでまいあがってゆく

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牧野富太郎「草木とともに」昭和31年初版の随筆本にそんなことが書いてある。その翌年に牧野は94歳で亡くなっている。一生生活は苦しかったそうだが、文章にはそうした痕跡は見当たらない。さて、今日は午後から歳若い客が続き夕方までえんえんとお話です。随分あごの運動になりました。

 時間(とき)忘れ青い話の春日かな