アイデンティティの形成と苦しみ
それでは、まずは自我対象の喪失の問題から詳しく考えてみましょう。
すでにお話ししたように、ヨーガ心理学では自我対象と自我が同一化することを自我同一化と呼び、これは一般的な心理学ではアイデンティティと呼びます。一般的な心理学では、アイデンティティを形成すること、言い換えれば自我対象を明確に持つことが重要であると考え、社会的立場を確固たるものにすること、他者とは異なる自分の技能を確立することで心は安定し、その人の幸福を実現できると考えます。
これは、子供の頃に「将来の夢」を考え、それを実現していくようなものです。例えば、ある少年は「私はサッカーが好きなので、サッカー選手になりたい」というようにアイデンティティを作り、それに沿って練習したり、進学したりします。それが上手くいき、大会で優勝したり、プロのサッカー選手としてリーグで活躍できれば、その人は幸福を実現できると考えるわけです。
一方で、プロのサッカー選手になりたかったけれど、試合に負けてしまったり、怪我でサッカーが続けられなくなると、その人のアイデンティティは崩壊してしまうことになります。このときの苦しみが長引けばうつ病になり、「生きる意味がない」「人生には価値がない」と感じる原因になります。
したがって、このような原因によって起きるうつの場合、ヨーガ心理学では一旦形成してしまった自我対象から離れ、改めて自分の興味関心や人生主題からもう一度自我対象を再構築していくことを行います。また、自我対象に依存しないように自分の心の理解を深め、再び同じような問題が起こらないような対策をしていきます。
この具体的な取り組みとして、ヨーガ心理学では以下の三つの点をあげます。
⑴自我対象を分散する
⑵自我の想いを理解する
⑶鑑賞者の視点を持つ
それでは、これらの取り組みを順番に解説していきたいと思います。
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