電気設備工事において、特記仕様書に電気保安技術者をおくように記載があることがあります。

特に公共工事の場合は公共建築工事標準仕様書にて、電気保安技術者をおくことについての記載があるためそれが求められる場合が多いです。

民間工事であっても、公共建築工事標準仕様書に準拠して工事を進める場合も多いので、民間案件でも求められる場合があります。

では、電気保安技術者とは具体的にどのような役割なのでしょうか?
電気主任技術者とは何が違うのでしょうか?


本記事では、それらについて解説していきたいと思います。


(※本記事は国土交通省の官庁営繕部及び経済産業省の産業保安監督部に実際に問い合わせたときの回答をもとに作成しています。)




まず、電気保安技術者をおかなければいけない根拠ですが、標準仕様書の1.3.2に記載があります。

そこでは
「電気工作物に係る工事においては電気保安技術者をおくものとする」
と定めています。

その具体的な業務については、国土交通省監修の電気設備工事監理指針に記載があります。

そこに書かれている技術を抜粋すると以下のようになります。

「発注者で定めた電気主任技術者の業務を補佐する監督職員の指示に従い、当該現場における電気工作物の保安業務を行うもの」


これを読むと、実際にどのような業務を行うのか非常に曖昧な記述となっています。


よくある間違いとしては、「工場用仮設の電気の保安を行うのが、電気保安技術者である」というものがあります。

工事用仮設はあくまで受注者(施工者)の管轄であるため、特に発注者側では関与しません。

電気保安技術者の管轄は、仮設ではなく本設の電気工作物となります。


それでは、ここから電気保安技術者の具体的な役割について解説していきたいと思います。


電気保安技術者の役割を端的に言うと、「工事期間中に電気工作物が受電を開始してから工事が竣工するまでの期間において、電気主任技術者の補佐として電気工作物の保安を行う者」となります。

工事の最終段階に入り、電気を受電しても、その後、建築の仕上げや、電気設備の試験調整、行政検査、書類の整理など様々な業務があるため受電してから実際に発注者に引き渡しを行うまでには、数ヶ月のブランクがあります。

しかし、受電を開始してからは、たとえ建物の引き渡しが終わっていなくても、発注者側の電気主任技術者が電気工作物の保安を行う必要があります。
(ここは結構勘違いしている人が多いのですが、引き渡し前なら施工者の責任で保安するのでは?と思われるかもですが、受電したら原則として保安を行うのは発注者側の電気主任技術者となります。)


とはいえ、工事期間中は発注者側の電気主任技術者が現場に常駐できる例は少なく、なにかあってもすぐに駆けつけることはできません。

そのため、その業務を補佐する人として、現場に電気保安技術者が常駐してその業務を行うということになっています。

実際には現場代理人や主任技術者などがその役割を兼ねることが多いでしょう。電気保安技術者をおくためにわざわざ人件費をかけて専門的に配置しているなんていう施工者はほぼいないと思います。

そのため電気保安技術者になるための要件は非常に緩くなっており、標準仕様書によると、事業用電気工作物の場合であっても、「電気主任技術者の資格を有するもの又はこれと同等の知識及び経験を有するもの」とするとなっています。

同等の知識及び経験を有するものとなっていることが肝で、電気保安技術者は法的に定められてるものでもないため、よほど厳しい発注者でなければ電気保安技術者に電気主任技術者の資格を持ってることまでは求めないでしょう。


また、工事の着工から受電するまでの期間については、特に電気保安技術者が関与する必要はありません。あくまで電気保安技術者が必要な期間は受電から竣工までの期間となります。
そこまで規模の大きくない施設では、そもそも竣工後であっても電気主任技術者が現場に常駐することもないため、電気保安技術者が果たす役割というのはあまり大きくないかもしれません。

その場合でも電気保安技術者は発注者側で定めた電気主任技術者の業務を補佐する役割を担うので、その方の指示を仰ぎながら、具体的にどんな業務をするのか協議する必要があります。


注意していただきたいのは、発注者側の電気主任技術者については、受電前の工事期間中についても関与する必要があるということです。

電気主任技術者は工事についても把握している必要があるので、保安規定には、工事の監督についても記載があります。また、これはあまり保安規定に記載しないので契約にもよりますが、工事中は週1を目安に立ち会うのが理想です。(記載するとしたら契約書)

工事記録や竣工検査については保安規定で定めていると思われるため、それは必ず行うようにしましょう。

(実質、工事の立ち会いは受変電設備の切替時のみの電気主任技術者も多いとは思いますが、工事の立会をしないからといって、それが監督をしていないということにはなりません。工事の監督は保安規定で定めているためそれは義務です。しかし、立会だけが監督業務ではないので、何をもって監督というかは各々の判断となります)


また、電気主任技術者は、有資格者なら誰でもいいわけではなく、経済産業省の電気保安監督部にその施設の電気主任技術者であると届出されている人でないといけません。

発注者が産業保安監督部に届け出ている電気主任技術者とは別の人(例えば受注者が用意した電気主任技術者の資格を取ってる人)は、原則としてNGです。

新築の場合だと、そもそも電気主任技術者がまだ選任されてないのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、例え新築であっても着工前に電気主任技術者を選任して、保安規定を定める必要があります。

電気主任技術者ついての詳しい話は、経済産業省の産業保安監督部に問い合わせを行うとよいでしょう。

また、電気保安技術者については、法的なものではなく、公共工事の場合に、国土交通省が標準仕様書で独自に定めているものであるため、経済産業省ではなく、国土交通省に問い合わせをするとよいでしょう。


まとめると、以下のようになります。


(1)工事の着工から受電までの期間
    
発注者で定めた電気主任技術者が定期的に工事に立ち会う 新築で電気主任技術者が選任されてない場合は新たに選任し保安規定を作成する


(2)受電から竣工(引き渡し)までの期間

発注者で定めた電気主任技術者とその業務を補佐する受注者側で用意した電気保安技術者が協力して保安を行う


(3)竣工後
発注者が定めた電気主任技術者が保安を行う


以上の(1)-(3)の流れが理想になります。

あくまで理想なので実のことをいうと、実際の工事では上記のようにはならないことも多いです。

実際には、工事の監督をほとんどしていない電気主任技術者も多いでしょう。

また、規模が小さければ小さいほど電気保安技術者の存在意義は小さく、実質機能していない場合が多くなってます。

規模が小さい案件だと、発注者が定めた電気主任技術者による定期的な保安で事が済んでしまうので、現場に常駐している電気保安技術者があまり意味をなしてない場合も多いと思います。
電気保安技術者の存在意義が特に高いのは、竣工後に電気主任技術者の常駐が必要になるような規模の物件と言えるかと思います。



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