兵庫県立美術館で見た「美術の中の物語」の続きです。以下の文章は展示パネルから引用しました。
Ⅱ 画と文の物語
文に絵がつけられると、物語はいっそう直接かつ躍動的に私たちに伝わります。文があっての絵の場合は確かにそうかもしれませんが、絵が文をしのいで、独自の語りを始めたら…。
ここでは、画と物語を語る文が、いっぷう変わった関係で絡み合い、ユニークな物語をつむいだ作例として、『うろつき夜太』の原画と、マルキ・ド・サド(1740~1814)の劇に基づいた挿絵を見ました。
うろつき夜太
『うろつき夜太』は、集英社の発行する『週刊プレイボーイ』の1973年1月2・9日合併号から12月25日号に連載された時代小説です。巻頭見開き3面、計6頁オールカラー、全50回の堂々連載。
小説は『眠狂四郎』で有名な柴田錬三郎(1917~1978)が書き、挿絵と紙面デザイン・レイアウトを横尾忠則(1936~)が担当しました。
今回展示しているのは、横尾忠則が描いた原画の一部とのちに原画を使用して制作された版画です。
第1回『海と男と女と』
連載冒頭の舞台は沼津の城下のはずれ。居酒屋「白馬」の酌婦、お妻と夜太が出会い、夜太がお妻から千両箱の強奪をもちかけられることから物語が始まります。
第2回『敵と味方』
第3回 『関所とはなれ業と』
第4回 『月と小判と』
第5回 『賭博とオランダ人と』
足柄峠のふもと、関本の最乗寺で開かれた賭場で夜太は、オランダ人軍人、ジョン・ペパードと出会います。
第8回 『女心と謎と』
第11回『怒りと急所と』
第13回『桜花と挑戦と』
第15回『取引と幽霊と』
第16回『居候と厠と』
おしりだけで横尾の挿絵に登場するのが、大名の娘だという華香。このお姫様の世話をすることになった夜太が「拭き役」をする場面です。
第24回『火焰と行為と』
第25回『夕立と女囚と』
第26回『楊子と釣針と』
第29回『生と死と酒と』
第30回『高原と馬場と』
この回は、オランダ海軍大尉ジョン・ペパードが、フランス騎兵隊中尉ラ・ロッシュ・ド・ブルボン男爵に宛てた手紙の全文掲載です。
ペパードは夜太について「この男は、武士を捨てた放浪者で、盗みもするし、博打には目がないし、好色漢でもあるのだが、その性根には、ミラボーの正義とサン・キョロティスムのエネルギーを兼ね揃えている。」と語っています。
第36回『作者メモと南仏と』
第38回『酔いと裸身と』
「うろつき」の名のとおり、夜太は、ストーリーに流されるかのように、西へ、東へと行き来します。さまざな事件が起こり、その度ごとに新たな人物が登場してきます。中でも強烈なのは、なんと言っても作者の柴田錬三郎です。
第46回『尼寺とストーリーと』
余りに波乱万丈というかハチャメチャなストーリー展開に、夜太が「どうなっているんだよう、この筋書きは、シバレンの野郎め!」と怒鳴る頁に使用された原画です。
第48回『独語と救助と』~最終回『砲火と花の都パリと』
長崎出島から国外脱出をもくろんだ夜太ですが、公儀陰密にこの企てを知られてしまいます。激しい斬り合いの末、海に飛び込んだ夜太を助けたのは、天下革命党の棟梁、西郷但馬でした。
最終的に夜太の脱出は成功し、1851年12月2日のクーデター(大統領ルイ・ボナパルトが皇帝の位につくために画策した)のパリに姿を見せたようです。
双生児あるいは困難な選択
展示している8点の版画は、サルバドール・ダリ(1904~1989)が、マルキ・ド・サドの劇曲「双生児あるいは困難な選択」に基づいてグワッシュで描いた作品をリトグラフにしたものです。
サドの戯曲の登場人物は、双子のどちらかに求婚するよう父親に厳命されたダミス、その従者デュモン、大きなお屋敷に住む奥様セリーズとその双子の娘アデレードとジュリー、3人のメイドであるマートン、屋敷の従償ラフルール、ダミスの友人でアデレードに想いを寄せるデュルヴァルの8人です。
それぞれが、一人あるいは二人、三人と短い幕に登場し、ダミスが外見に寸分の違いのない二人のうちどちらか一人を選べるのかを軸に物語を展開していきます。
《デュモンの到着》
《デュモンとマートン》
《セリーヌ、デュルメイユの手紙を受け取る》
《アデレードの約束》
《ダミスとデュルヴァル》
《ダミスのジレンマ》
《双生児、ダミスの裏をかく》
《終わり良ければ全て良し》
うーん。物語を知らないのでもうひとつ分かりませんね。それに、横尾忠則の絵もダリの絵もアクが強すぎて苦手です。
つづく