コシノジュンコ 原点から現点② | 散策日記Ⅰ

散策日記Ⅰ

美術館&博物館で開催された展覧会の記録、それにまつわる散策記です。

あべのハルカス美術館で見た「コシノジュンコ 原点から現点」の続きです。以下の文章は展示室のパネルから引用しました。

 

 

  ショーの案内状

 

1978年パリコレクションへの参加を皮切りに、コシノジュンコは中国やアメリカ、キューバなど各国でショーを開催し、その活躍を世界へと広げていった。

 

 

ケース内には、過去に開催したショーの案内状が並ぶ。「ショーにお客を呼べるかどうかは、案内状の出来にかかっていると言っても過言ではない」という言葉どおり、デザインはそれぞれのテーマに合わせシックなものからコシノの遊び心を感じさせるものまでバラエティに富んでいる。

 

 

コシノの案内状は、受け取った招待客にショーに参加する楽しみだけでなく、時を経て当時に想いを馳せる楽しみも与えてくれる。

 

 

  対極

 

このコンセプトは、コシノジュンコが1980年代から取り組んだ「アール・フュチュール(未来の芸術)」の核となるものである。

 

 

「アール・フュチュール」が表そうとするものは宇宙空間そのもの、つまり、コシノは地球やそこに生きる人間、太陽、月、大気など、宇宙を構成するすべてのことを表現しようとしたのである。

 

 

この考えに基づき生み出されたコンセプトが「対極」である。

 

 

これは、自然や地球、宇宙という完全なる創造物の象徴である「円」と人間が論理に基づきつくり出す合理的なものを象徴する「四角」、太陽や昼を示す「赤」と月や夜を示す「黒」など、宇宙空間に存在し対峙する二項が、相反しながらも影響し合い止揚するという、万物の摂理を示したものである。

 

 

コシノの手掛けるファッションデザインやインテリア、アートイベントには、常に美しさとともに新たな刺激と驚きを見る者に与える力がある。

 

 

しかし、それがその時々の新たなモードの提示にとどまらない何かを見る者が感じるのは、そこに普遍なるもの、つまり、この世の「真」「善」「美」が表現されているからではないだろうか。そして、その支柱になっているのが「対極」というコンセプトなのである。

 

 

コシノは次にように述べている。未来のイメージは宇宙の果てしないリーチの中に見出すことができる。太陽、月、地球そして惑星などの「球」「円」は神の創造である。上も下も右も左もない完成されたカタチであり、自然の神秘や絶え間なく動く宇宙を内包している。

 

 

神の力「円」は、人の力である「四角」との対峙に置かれ、赤と黒は光と陰の対比を意味する。デザイナは異なる分野の壁を取り除き、融合を可能にし、アートとテクノロジー、ソフトウェアとハードウェア、東洋と西洋、実用と美、論理と感性の調和をもたらす。さらにフォルム、色、素材はデザインに個性、ダイナミズム、モダンさをもたらす鍵である。

 

 

コシノが表現する世界では、メタルという硬いイメージの素材が軽く繊細なストラクチャーとひとつになり、漆という素材が持つ伝統的な日本の粋と品位、また日本に昔からある「重ねる、たたむ、祈る」といった要素が現代的な生活の中に違和感なく落とし込まれている。

 

 

まさに対極的要素が相互に影響し合い、まったく新しい価値を創造しているのだ。コシノは常に前向きなエネルギーとビジョンをもって、生活のなかにおける美意識の探求を続けている。

 

 

  ポロポロ

 

コシノジュンコにとって色や形、素材は「対極」を表現するための重要な要素である。ポロポロはメタルという色や素材から連想できる硬いイメージと軽く繊細なストラクチャー(構造)を一着の中で表現したイブニングドレス。

 

 

 

円の部分はワイヤーを使用しており、重ねることでコンパクトに収納できる。このアイデアは、日本に古来よりある「畳む」「重ねて納める」という発想を基に考えられたもので、ドレスという「洋」の中に「和」の要素も共存させている。幾重にも重なった円は、自然が作り出す水の波紋や木の年齢を連想させる。

 

 

 

  キューバ・コレクション 衣装

 

1996年8月、コシノジュンコはキューバで外国人としては初となるファッションショーを開催した。モデルは現地のダンサー約60人、20日間1日8時間の練習を続け本番に臨んだという。

 

 

ショーの会場は野外。太陽の下で、原色の衣装をまとったダンサーたちが、サルサのリズムに合わせて踊る姿は躍動感にあふれ、観客も一体となった唯一無二のショーが繰り広げられた。

 

 

この演出を手掛けたのが現地の名プロデューサー、サンチャゴ・アルフォンソは「これから行われるショーは、今は夢。そして明日は歴史」という言葉でコシノの挑戦を称えている。

 

 

展示室では水玉のワンピースを見ました。マネキンが着ると人が着るより垢抜けて見えます。

 

 

  スパイクドレス

 

スパイクドレスは天衣無縫をコンセプトに、ネオプレーン素材で作られたドレス。

 

 

 

「対極」から生じた「未来の芸術」とも言えるドレスです。

 

 

 

  FUKUSHIMA PRIDE バルーンコート

 

福島県には、伝統工芸品や地場産品のブランド力向上を目的に、コシノとともに「FUKUSHIMA PRIDE by JUNKO KOSHINO」というプロジェクトを2016年に始動、魅力ある商品開発に取り組んでいる。2019年には「新しい風が吹く島」をテーマファッションショーを開催した。

 

 

 

コシノは対極の美をコンセプトに、福島で生産されるニットやシルク、また奥会津編み組細工の技法をビスチェのデザインに生かすなど、伝統の中に新しい風(革新)を吹き込んだ。伝統文化に新たな感覚を取り入れるのは容易なことではない。しかし、コシノらの取り組みによって、私たちは伝統文化が持つ潜在的な魅力と可能性に改めて気付くことができるのである。

 

 

 

展示室の隅に、2014春夏コレクションと2017秋冬コレクションのワンピースがありました。こうして見るとなかなか奇抜な服です。展示室にいる時は実用的に見えるぐらい感覚がマヒしていました。

 

 

つづく