バンクシー展 天才か反逆者か① | 散策日記Ⅰ

散策日記Ⅰ

美術館&博物館で開催された展覧会の記録、それにまつわる散策記です。

関西では既に終わってしまいましたが。大阪南港ATCギャラリーで見たバンクシー展の話です。

 

 

1,000円の時に行ったので、会場内はすごい密。「立ち止まらずに進んでください!」と頻繁に注意が入り、解説文を読んだり音声ガイドを聞いたりするなんてもってのほかという雰囲気でした。

 

 

展示数は70点ほどで1時間半あれば充分かな?と思ったのですが、これがとんでもない誤算。

 

 

人ごみでなかなか前へ進めず、最後の方はインスタレーションだけ見て退室。何がなんだかさっぱり分からないまま終わってしまいました。

 

 

バンクシー展は現在名古屋を巡回中。その後福岡を巡回。これから行く人は空いた時間を狙い、音声ガイドを聞きながら2~3時間かけて鑑賞することをお勧めします。

 

 

展覧会の感想は以上。次は内容に移ります。

 

バンクシーはイギリスを拠点に活動する芸術家。世界中のストリート、壁、橋などを舞台に神出鬼没に活動し、社会問題に根ざした批評的な作品が評価されているアーティストです。

 

 

匿名で活動しているのは、建造物に無断で絵を描く行為が犯罪にあたるため。スプレーで描いている所を警察に見つかって以来、短時間で制作できるステンシル(型版)を用いるようになったという話もあります。

 

 

そんな人物が個展を開くとは思えず、この展覧会はコレクターたちの協力により、開催されたもの。バンクシーとみなされる人物は複数いますが、港町ブリストル出身、妻と2人暮らし、45歳説を採用しています。

 

 

展示は昨年春のパンデミックから始まりました。

 

 下の画像は、バンクシーが自粛生活中インスタグラムに投稿したもの。トイレの中をせわしなく動き回るネズミは、トイレットペーパーの買いだめなど、パンデミックに関する人間の狂気を風刺しています。

 
 
また、パンデミック期間中、フェルメールの名作「真珠の耳飾りをした少女」のパロディー作「パンクした鼓膜を持つ少女」に、医療用保護マスクがかけられたという話も。
 
 
ストリートアートのイメージが強いバンクシーですが、その活動はテーマパーク、宿泊施設、映画の制作など多岐に渡ります。この展覧会ではそれらの作品を10のテーマに分類。
 
 
今回は「消費」に関する作品から印象に残ったものをピックアップしました。
 
ケイト・モス
画題が人気の高い物であればあるほど、人々の関心が高まると考えたバンクシー。そのもくろみは的中し、人気モデル「ケイト・モス」の肖像画は6版に及んだ。アートの本質を理解せず、ブランドにお金を払う人たちを皮肉った作品。
 
 
フェスティバル
ヒッピーや左翼学生など反資本主義者が音楽フェスティバルの物販店で並んでまで買うTシャツには「Destroy Capitalism(資本主義をぶっつぶせ)」と書かれている。客の消費傾向に合わせて、巧妙に商品化する様子を風刺した作品。
 
 
バーコード
ヒョウがバーコードの檻から抜け出す絵。動物の商品化に対する抗議でしょうか?
 
 
買い物袋を持つキリスト
現代のクリスマスイブは、ごちそうを食べ、ケタ外れに高価なプレゼントを贈る日になっている。クリスマスの真の意味が捻じ曲げられている事に疑問を投げかけた作品。
 
 
セール・エンズ
16〜17世紀の宗教画に登場するような女性たちがひれ伏しているのは、「セールは今日で終わりです」と書かれた看板。先進国の多くで神聖に近い地位まで成長した消費主義文化を嘲笑した作品。
 
 
トキシック・メアリー
毒入りミルクを赤ん坊に与える聖母の姿は、果たして宗教が信者に真の安全をもたらすのかという疑問を投げかけている。宗教はこれまでに多く戦争を引き起こし、人を死にいたらしめ、文化的不寛容を生み出してきた。
 
 
フライング・ショッパー
2011年、ある廃ビルに突如現れた絵。落下しているにもかかわらず、カートを握りしめる少女。消費社会・格差社会への風刺であろう。ビルは2018年に取り壊されるはずだったが未だ残っていて、ロンドンの非公式ガイドで名所の一つとして紹介されている。
 
 
ストップ・エッソ

2000年にグリーンピースが始めた「ストップ・エッソ」キャンペーンに便乗した作品。エッソのオイルを塗り、マッチで遊ぶ少女は、エッソが燃料の販売だけでなく関連商品からも利益を得ている事を示唆。その後エッソは世間の圧力に屈し、気候変動研究への資金拠出に応じた。

 
 
セーブ・オア・デリート
グリーンピース社とのコラボ作。モーグリとジャングル・ブックのキャラクターたちが縛られてかつて森だったところに立たされ、完全に途方に暮れているように見える。森林破壊を子供目線で批判した作品。

 

 
ブラー「シンク・タンク」
シンク・タンクは英ロックバンド「ブラー」7枚目のアルバムで、2003年5月にリリースされた。バンクシーはそのカバーアートを担当。潜水ヘルメットをかぶって見つめ合い、キスしようとしている少年と少女は、反戦の象徴といえるでしょう。
 
 
HMV(ヒズ・マスターズ・ボイス)
HMVのシンボルマークにバズーカ砲を足し、攻撃性を加えた作品。現代の音楽業界の商品品質に対する苛立ちでしょうか?
 
 
テスコ・ペトロール・ポム
2011年5月、バンクシーの故郷ブリストルでは、大型スーパー「テスコ」の開店日に暴動が起こり、多くの逮捕者を出した。バンクシーはポスターで、テスコの存在を地元小売店の猛威とし、火炎瓶にたとえて表現。1枚5ポンドで販売し、収益は全額、抑留者の法的支援に当てられた。
 
 
ベリー・リトル・ヘルプス
何の疑いも持たずテスコブランドを見上げる子供たち。「エブリ・リトル・ヘルプス(ささいなことでも役にたつ)」はテスコの広告スローガンであるが、バンクシーはこれを「ベリー・リトル・ヘルプス(ほとんど何の役にもたたない)」に変えてしまった。
 
 
パンツ
「ベリー・リトル・ヘルプス」のパロディーで、難民支援のチャリティ・オークションのために制作したもの。イギリス国旗柄のパンツをポールに掲げることで、バンクシーは難民が直面している物質的な困難だけでなく、政治亡命が認められずに紛争地域へ強制送還される危険性にも触れた。
 
 
色々挙げてきましたが、私のお気に入りは「ドーナツ(チョコレート)」。移動販売車の上に乗せられたドーナツにそれを護衛する5人の警察官。保護下にある消費文化を批判したユーモラスな作品です。
 
 
逆にあまり共感できないのが「モーロンズ」。あるオークションの様子を描いた作品で、金の額縁に書かれているのは、「こんな糞を本当に買うお前らみたいな愚か者がいるなんて信じられない」という挑発的な言葉。こんな作品でさえも法外な価格で買われたとほくそ笑むバンクシー。なんだか人を馬鹿にしているような。
 
 
反消費主義の割には一攫千金を狙い、反戦主義の割には好戦的。最初、バンクシーの理想は「トロリーズ」に描かれたような自給自足の時代かな?と思ったのですが、これはとんでもない勘違い。いろいろ矛盾の多い人物です。
 
 
つづく