木の国フィンランドの伝統と革新 | 散策日記Ⅰ

散策日記Ⅰ

美術館&博物館で開催された展覧会の記録、それにまつわる散策記です。

 竹中大工道具館の特別展「木の国フィンランドの伝統と革新~工芸村フィスカルスとニカリの物語~」を見ました。特別展は2月18日(日)まで開催中。フィスカルス村に拠点をおくニカリ社で創作活動を行う作家の木工作品が展示されています。

 

 

~ フィスカルス村の歴史 ~

 

 フィスカルス村は、フィンランドの首都ヘルシンキから西へ約85km、車で1時間程の所にあります。現在はアーティストが多数住む芸術村として有名ですが、もともとは工業地帯でした。フィスカルス村の工業は、1649年にオランダ人の実業家ヘテル・トルウォストゥが特許状を得て鍛冶屋を創業したのが始まりです。1822年にヨハン・ユリンが村と製鉄所を買収し、フィスカルス社を設立。1915年ヘルシンキ証券取引所に上場しました。

 

 フィスカルス社の主力商品はハサミ。1967年にオレンジ色のプラスティックハンドルのハサミを発売し、1977年にアメリカでハサミ工場を開設。フィスカルス社のハサミは2003年にフィンランドで、2007年にアメリカで商標登録されました。

 

 フィスカルス社が本社をヘルシンキに移した後、フィスカルス村は住民もいなくなり、1980年代には廃村と化しました。歴史的な建物は手頃な価格で売りに出され、その物件に目を付けたアーティストが移り住んだのが、今のフィスカルス村の始まりです。現在村の人口は約600人。そのうちの100人程はアーティストで、彼らは古い歴史的な建物を活かしてお店にしたり、それぞれが工房を構え、「ONOMA(自分たちのもの)」と呼ばれるジャンルを超えた協同組合を組織しています。

 

 

~ ニカリ社の家具 ~

 

 フィスカルス村に拠点をおくニカリ社は1967年に設立されました。創設者カリ・ヴィルタネン(1948~)は家具職人で、フィンランドの現代木工文化の分野で最も著名な作家です。

 ニカリ社の家具は、木の特性を活かし、一切の無駄を省いたデザインが特徴で、北欧家具の中で最もシンプルな作りだと評価されています。

 

 カリ・ヴィルタネンが使用した工具。これだけたくさんの工具を使い分けるのもすごいですね。かなり熟練した技が要りそうです。

 

 カリ・ヴィルタネンと同じ年に生まれたルディ・メルツ(1948~)も、ニカリ社の歴史を語るのに外せない人物です。

 

 ニカリ社の家具は、オークやアッシュを除き木材の多くはフィスカルス周辺の森で伐採したものを使い、エネルギーは近くの流水を使った水力発電を利用するなど、ローカルな資源を活かしながら世界22ヵ国に製品を輸出しています。

 

 日本では永野智士氏が、カリ・ヴィルタネン、ルディ・メルツ両氏に師事し、生産・販売のライセンス契約を締結しました。現在京都・宇治にある永野製作所で、オリジナル家具の製作と、ニカリ家具の販売を行っています。今回の展示に永野製作所からの出品もありました。

 

 

~ キッチン用品と彫刻 ~

 

 ルディ・メルツが製作したトングとスプーン。トング用には木目がまっすぐな素材を使い、木目が曲がった素材はヘラに使われます。木目に沿って形作るため、似たような作品は出来ません。

 

 若手作家が製作したスプーン。1枚の板から型を取り、スプーンになる過程が展示されていました。

 

 若手作家が製作した彫刻。木の特性を活かしたシンプルなデザインで、家具同様、ニカリ社の特徴をよく表している作品です。