僕はわりとモテる方だと思う。
飲み会に行けば、いかにもな女の子がいかにもな上目遣いで、猫なで声で
それはそれは巧みに僕に擦り寄ってくる。

そのまま、そういうことになったりもしたことは何度かあるけれど
付き合う。とか、そういうのとは別のことだ。


僕の彼女は別に綺麗でもないし、可愛いわけでもない。
ブスでもないけど。
ただ…普通だ。

友人の多くは、「なんであの女?」と言う。
失礼な話だが、僕もそう思う。

擦り寄ってくる女の子の方が可愛いし、綺麗だ。
だけど、僕はもうずっと彼女と一緒にいる。
たぶんこのまま結婚もする。


僕が他の女と何度か寝たことを、たぶん彼女は知ってる。
知ってるけど、何も言わず知らないふりをしている。
賢いと思う。僕は彼女のそういうところが好きだ。
都合がいい。と言われればそれまでだが、大袈裟に騒いで泣きわめくような女は好きにはなれない。


彼女と歩くとき、必ず僕から手を繋ぐ。
彼女は少し嬉しそうにする。
うん。こういうところも好き。

彼女は僕に隠れて泣いている。
たまに目の下が赤いまま微笑むときがある。
そういうところも好きだ。


僕は飲み会に行く。
またいかにもな女の子が僕に擦り寄ってくる。
「彼女いるの?」
「いるよ。」
「へぇ〜。彼女いるのにこんなことしていいの?」

語尾にハートマークでもついているような言い方だ。

なんだって女ってのは、ベッドの上でそんなことを聞くのだろうか?
それを聞いたところで、今のこの状況が変わるわけではないというのに。


「ねぇ、彼女ってどんな人?」
「ん〜地味だよ。」
「うっそ!まぢ?え〜見たい。見せてよ」

女は僕の彼女の写真を見て、フッと笑った。

「え?まぢでこれ彼女?妹とかじゃなくて?」
「そうだけど。」
「えぇ〜なんでこんなのと付き合ってんの?」
「ん〜…なんでだろうねぇ?」
「え。てか、ぶっちゃけブスじゃん」

あぁ。ダメだ。これ。
イラッときた。ムカつく。この女。


「ブスじゃねーよ。お前よかずっと可愛いわ。ブス。」


僕はなぜだか無性に腹が立って、ホテル代も払わず女を一人置いて彼女のもとに向かった。


彼女は目の下を赤くして、微笑んだ。


あぁ。好きだわ。

実花さんは今年で25歳。
今の会社に勤めて5年。

仕事もバリバリこなすし、新人教育も任されるようになったが、給料はたいして変わらない。

毎月振り込まれる決まった金額を
実花さんは五万円だけ引き落とす。
五万円だけは自分の好きなように使う、いわばお小遣いにする。と、決めている。


この日は待ちに待った給料日。
実花さんはいつも通り五万円だけ引き落とし、何を買おうか?何を食べようか?と心を弾ませていた。


ところが…家までの帰り道、突然後ろから物凄い勢いで走ってきたバイクに実花さんのカバンはさらわれた。

実花さんのお小遣いが入った財布が入ったカバンが。


急いで警察に駆け込み被害届を出す手続きをしていると、警察官が世間話でもするかのような軽い口調で言った。

「でも、五万円で済んでよかったね。前にもっと大金の入ったカバンを取られた人もいたんだよ。あれは気の毒だったなぁ~」

実花さんの五万円は小さい。小さい。
どれほど懸命に頑張って稼いだものなのか、あの人は知らないのだ。

日付が変わるまで残業した日のこと。
上司に怒られ涙した日のこと。
後輩が突然辞めてしまった日のこと。
仕事がうまくいってガッツポーズをした日のこと。

全部全部詰め込んで、実花さんに振り込まれる給料。
変わらない五万円。
毎月、毎月、五万円。


「戻ってこないかもしれないけど、まぁ額も少ないしね」
と言う警察官に
「そうですね。」
と実花さんは呟く。

実花さんの五万円。
明日なんて来なければいいのに。

布団に潜り込んで そんな事を願っていた。
本当ならば、今布団にもぐっていること自体が大間違いなのだ。

あぁ。神よ。私は今なにをするべきでしょうか?

わかっています。本当は。
えぇ。今すぐにペンを握るべきでしょう。
布団から出るべきでしょう。
机に向かうべきでしょう。

明日は期末テストなのですから。


学生にとってテストというのは最悪なビッグイベントである。

優秀な奴らはみんな
「授業ちゃんと聞いてたら分かるよ」
などとぬかしやがる。

ふざけるな。授業をちゃんと聞いてもわからないから困っているのだ。

私は典型的な一夜漬けタイプだ。
1日だけ頭に情報を押し込み、次の日にはキレイさっぱり忘れている。

いわゆる‘‘バカ”である。

私にとってはテストはすべて暗記問題なのだ。


しかしながら、私は今布団の中にいる。
なぜか?
それは…どうしても眠いからである。
こればかりはしょうがない。

いくら机に向かったところで瞼は自然と閉じていく。
ちょっとの仮眠はあっという間に朝を迎えた。


さぁ、腹を括ろうではないか。
大丈夫。きっと0点ではないはずだ。