幾度も目にしてきた光景を
自分が体験したとき
頭が真っ白になった。
朝、学校に行くと昨日まで仲の良かった友達が皆、私から離れていった。
「おはよう」
と声をかけると、逃げるように他の友達のところへと駆け寄った。
あぁ。ついに私の番か。
私はそう悟った。
誰が言い出したのかわからないが、こういうことは誰か一人の掛け声で始まる。
いっせーの!で始まる。
私は誰かに話しかけるのをやめた。
休み時間もひたすら一人でいた。
それはそれは辛かった。悲しかった。
泣きたかったけど、泣いたら彼女達の思うツボだ。
私は涙をグッとこらえて1日を終えた。
いつまで続くのだろうか?
そのことを考えると気が病んだ。
彼女達のイジメは日に日にエスカレートしていった。
無視から始まり、授業中は消しカスを投げられ、休み時間はわざとらしくぶつかり、大声で悪口を言われた。
悲しかったけど、同時に私は腹を立てていた。
彼女達の掌返しにどんどんと嫌悪感が増していった。
参観日。一矢報いるには絶好のチャンスだ。
母親たちがゾロゾロと集まり、和やかに授業は進められた。
授業も終わりに差し掛かったとき、先生が
「では、何か質問がある人ー?」
と聞いたので、すかさず私は手を挙げた。
「先生はこのクラスのイジメをご存知ですか?」
クラス中がざわめいた。
先生は動揺を隠せずうろたえた。
「私がイジメを受けているのは、このクラスの全員が知っているはずですが、先生は知っていましたか?」
震える声を必死で抑え、私は続けた。
「ある日突然です。なんの脈絡もなく昨日まで仲良しだった友達が無視をし始めました。」
母親達がざわめき始め、一人の母親が
「先生、本当なんですか?」
と厳しい口調で聞いた。
先生は困ったように
「いや…。あの〜」
と口籠っている。
私は答える。
「イジメに合っていると、私が主張するだけでは真実かどうか怪しいでしょうか?」
母親達は静まり返る。
「授業中に消しカスを投げるのはイジメではありませんか?わざとぶつかられるのは、私の勘違いですか?大声で悪口を言われるのは私が悪いからですか?」
ついに涙は溢れた。
「イジメをしていた心あたりのあるものは立ちなさい」
重い空気の中、先生が言った。
だが、誰も立ち上がりはしなかった。
平然としている彼女達を見て、私の中の何かがプチンとキレた。
「あかり、はるな、ゆか、みさと。」
私は大きな声でその名を呼びあげた。
「四人とも立ちなさい」
先生が静かに言うと
「は?意味わかんないし。最悪。」
とボソッと言ったのは『あかり』だった。
四人は悪びれる様子もなく気怠げに立ち上がった。
『あかり』は私に
「てかイジメてないし。被害妄想じゃないの?」
と言い放った。
私は思い切り『あかり』に消しカスを投げた。
「はぁ⁉︎何すんの⁉︎」
『あかり』は怒鳴った。
「被害妄想じゃないの?」
私は平然と言ってみせた。
パシンッ!と『あかり』の頬を叩いたのは、『あかり』の母親だった。
「謝りなさい。なんなのその態度は。誰かを傷つけて喜んで笑ってるなんて気味の悪い!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにして震える声で『あかり』の母親は怒鳴った。
『あかり』の母親は深く頭を下げ
「本当にごめんなさい。辛い思いをさせたわね。ごめんなさい。」
と、何度も私に謝った。
『あかり』は真っ赤な顔をして、目に涙をうかべながら私を睨みつけていた。
その後の保護者会に私とあかり、はるな、ゆか、みさとも呼び出され、私はイジメの詳細を母親たちの前で説明した。
4人の母親たちは泣きながら謝罪をし、娘たちにも謝罪を促したが私はこれを拒否した。
「謝罪なんていりません。悪いと思っていない人達に言われても嬉しくないです。きっと明日からもイジメは続きます。もっとひどくなるかもしれません。私はそれに耐えながら生きていかなきゃいけません。その事を知っておいてほしかったんです。この人達はイジメをするのが好きな人達で、そういうことが平気でできるって。」
この場を丸く治めてなんかやらない。
変な奴だと、面倒な奴だと思われてもいい。
できるだけ鮮明に、でも2度と思い出したくないものとして彼女たちの記憶に残したかった。
数年後に開かれた同窓会に、彼女たちの姿はなかった。
噂ではそれなりに楽しく過ごしているそうで、あの頃のことは黒歴史として刻まれているらしい。