ケンカ…をした。
ちょっとしたことから言い合いになって
互いに引くに引けなくて
どちらともなく手が出た。

制服はボロボロ。顔もボロボロ。
一目で殴られたことがわかるであろう。


(あー…帰ったら母ちゃんになんて言おっかなぁー)

そんなことを考えながら玄関のドアを開けた。

「ただいま…」

母は夕飯の支度に追われながらチラリと俺の方を見て、一瞬驚いた顔を浮かべたあと慌ててこちらに駆け寄って俺の顔をじっと見つめた。


「口、切れてんの?」

「?あー…多分」

「ったく、もう!!」

そう言ったあと母はおもむろに救急箱を取り出して
「座んなさい!」
と言った。

母は手当てをしながら何度も「うわー」とか「げぇー」とか言いながら「バカなんだから」と繰り返した。


「なに?ケンカ?」

「んー。」

「派手ねぇー。あんたそんな口でご飯食べれんの?」

思っていた以上に淡白な母の様子に俺は驚いたと同時にホッとしていた。

ケンカの理由を問いただされるか、長い説教をされると思っていたからだ。
しかし何も聞いてこない母が不思議だったので、思わず


「怒んねぇーの?」
と、問いかけると母は不思議そうな顔をして
「なんで?」
と、言った。

「だって、けっこうボロボロになってるし…」

「だってケンカでしょ?イジメじゃないんでしょ?」

「うん。」

「じゃあ、いいじゃない。怒る必要ないじゃないの。あんた達の問題はあんた達で解決しなさい。」

「うん。」


うちの母はなかなかに男前だ。
心配しないわけじゃない。でも詮索はしない。
ケンカをして唯一、母が激怒したのが制服を汚したことだった。