息子を産んだのは、私が23歳のときだった。

息子は甘えん坊でいつも私の後ろに隠れているような子供だった。

初めての子育ては不安で、失敗の連続だった。
自分のいたらなさに泣いたこともある。
息子が友達とケンカをしただけで眠れない夜もあった。
そのたび、私の不安をよそにどんどんとたくましく育っていく息子の姿が嬉しくもあり、寂しくもあった。


気付けば甘えん坊だった息子はあっという間に進路を決めなければいけない歳になった。



三者面談を終えて息子と家路への道を歩く。
こうやって並んで歩くのは何年ぶりだろうか。
とくに会話もなく歩く私達を夕日が染める。


ふと、夕日に照らされ伸びた影に気付き、思わず微笑んだ。







「あんた、大きくなったわねぇ。」
「どうして、あのとき泣いていたの?」

君は誤魔化すように笑って

「そんなの忘れてしまったわ。」

と言った。


春になって、景色は色づき
桜の花は一段と綺麗に咲いた。


「桜はあまり好きではないの。」

そう言いながら

とても眩しそうに、愛しそうに
目を細めた君が

花びらを一枚手にのせて

「だけど、やっぱり綺麗ね。」

と、泣きながら微笑んだ。



僕はその横顔を
ただ見つめることしかできないのだ。

いつか君が打ち明けるまで。
少女は泣いた。
目は赤く腫れ
途切れ途切れの声で何かを抗議している。
母親は困ったように笑って
何度も少女の顔を覗きこみ
「ごめんね」
と繰り返す。

少女は今度はふくれた。
涙をためた目で母親を睨むと
「ママなんて大嫌い!」
と大声で母に言いはなった。

母親はそれでも笑って
優しく少女を抱きしめ
「ごめんね」
を繰り返す。

少女は母親を突き飛ばし
何度も「大嫌い」と繰り返した。

次第に母親の顔から笑顔が消え
「もう謝ったでしょう!いつまで怒っているの!?」
と怒鳴りだした。

母親は少女を置いて歩き出す
少女はまだむくれている。
母親はどんどん先へと進む。
少女は泣き出した。
必死に涙を拭い、母親を追いかけて行く。

さっきまで怒っていた少女は
「ごめんなさい」
と泣きながら母に言う。

母親はまだ怒っている。
少女は泣きながら母親を追いかける。

少女に1台の車が迫る。

少女に車がぶつかり、少女は道路に横たわる。

母親は泣き崩れる。
何度も少女の名前を呼ぶ。

母親は祈る。
何者かわからない、神にすがる。

少女は目を覚ます。
母親を呼ぶ。

母親は泣く。
少女の名前を呼ぶ。


些細な始まり。
愛とはなんとも伝わりにくい。