麦「俺ももう感じないのかもしれない」
絹「・・・・・・・」
麦「ゴールデンカムイも七巻で止まったまんまだよ。宝石の国の話なんて覚えてないし、いまだに読んでいる絹ちゃんが羨ましもん」
絹「読めばいいじゃん、息抜きぐらいすればいじゃん」
麦「息抜きにならないんだよ、頭に入んないんだよ。(スマホを示し)パズドラしかやる気しないの」
絹「・・・・・・・」
麦「でもさ、それは生活するためのことだからね。全然たいへんじゃないよ。(苦笑しながら)好きなこと活かせるとか、それって人生舐めてるって考えちゃう」

いきなり、すみません。
これ、映画「花束みたいな恋をした」を観た人には、すぐにシーンが思い出せる重要なシーンですよね。
(脚本は坂本裕二さん)
な~んて、いかにも、前から観ていたように得意になっていますが、実は、昨日観たばかりなんです。
映画は、2021年公開されて、ずいぶん話題になりました。
それに、大ヒットもしました。
でも、当時は、観ていません。
正直、観に行こうとも思いませんでした。
タイトルからして、とても、オジサンが観る映画ではないだろうなと思っていたからです。

じゃ、なぜ、突然、「花束みたいな恋をした」を観たのか、ですよね。
今、話題になっている本に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆著・集英社新書)
を読んだからなんです。
その本の序章が、冒頭に書いた、麦(菅田将暉さん)と絹(有村架純さん)との会話なんです。
この本の中では、序章だけでなく、何度か「花束みたいな恋をした」(略称「はな恋」というそうなんです。私も以下、そうします)のシーンが引用されているんです。
そもそも、著者の三宅香帆さんは、1994年生まれなんですね。
当然ながら、「はな恋」の麦と絹とは、同世代なので、映画も公開時に観られて、感銘を受け、今回の著書に序章から引用したんでしょうね。

そう思うと『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』にしても、映画を観た若い世代に向けて、書かれた本なんでしょうね。
(本を読んでいて、あまり、しっくりこなかったんです。映画観て、その理由がわかりました)
若者たちの読書離れが、言われるようになってから、ずいぶんになりますよね。
『なぜ働いていると本が読めないのか』の文中に出てくる、過去には、働きながらも本が読めていた世代があったと、私たち世代は、過去の事例として登場するのです。
(そうそう、その本読んでた、読んでたと、懐かしくなりました。
それに、働きながら、本も読んでいましたしね)
だから、「はな恋」世代に向けた『なぜ働いていると本が読めないのか』を読んでいても、オジサンには、いまいち、よくわからなかったんです。
序章だけでなくて、何度も「はな恋」シーンの引用が出てくるので、すっかり、映画が観たくなったというわけです。
幸い、U-NEXTで配信していましたので観ることができました。

若い方には、必要ないと思いますが、私世代の、映画を未見の方のために、映画について、紹介しますね。
2021年1月29日公開
配給 東京テアトル リトルモア
上映時間 124分
キネマ旬報ベストテン第10位
(第1位は「ドライブ・マイ・カー」、読者選出ベストテン第10位)
興行収入 38億1000万円
スタッフ
監督 土井裕泰
脚本 坂本裕二
製作 有賀高俊
土井智生
音楽 大友良英
撮影 鎌苅洋一
編集 穂垣順之助
キャスト
菅田将暉(麦)
有村架純(絹)
清原果耶
細田佳央太
オダギリジョー
戸田恵子
岩松了
小林薫
簡単にあらすじ、お話しますね。
偶然、駅で終電を逃したことが、きっかけで、出会った麦と絹
音楽や本などのお互いの好みや趣味が同じことを知り、付き合いが始まります。
麦には、イラストレーターになる夢があります。
2人は大学を卒業してフリーターをしながら、同棲生活が始まります。
しかし、麦は、田舎からの仕送りが止められることになり、2人で生活をするために、就職をするのですが・・・・・

物語は、2015年から2020年までの生活が、淡々と描かれています。
当然ながら、私世代とは、全く環境も、生活そのものが違います。
麦のお父さんに小林薫さん、絹の両親に、岩松了さん、戸田恵子さんが登場しますが、当然ながら、私は、その親世代ですからね。
でもね、不思議と、自分は、麦くんの立場で映画に入り込んでいましたね。
それは、生活していくために働くということは、今も、私世代も変わらないからなんでしょうね。
麦と絹との関係、そして、麦の生き方の変化が描かれたドキリとするシーンがあり、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の中でも、引用されていました。
それは、出張に出かける麦に絹が、1冊の小説を渡します。
麦は、そっけなく受け取ります。さらに出張先でも、読む気もなく、それどころか、乱暴にその本を取り扱い車のトランクに投げるシーンがありました。
本好きな私には、不快な気分を受けると同時に、かつての麦も、本を大切にしてきたと思うんです。
でも、今の麦の心境が、無意識に現れたんだと思うんです。
麦と絹との関係を、象徴的に描かれてたシーンで、観ていて、とても辛かったですね。
著書の三宅香帆さんは、このシーンを、背後に『労働と読書は、両立しない』という暗黙の前提が敷かれている書いていました。

麦は、本が読めなくても、『パズドラ』を、虚無的にボンヤリとやるシーンに、三宅香帆さんの友人たちが共感したと語っていたともありました。
どのシーンも世代に関係なく、自分と重なる人が多かったんじゃないですかね。
仕事に追われて、本当に何も、する気がなくなることは、誰にも経験あると思います。(私世代は、スマホとかない頃なので、ただただ、テレビをボンヤリ見てるような、本当に何も、する気がしないで、ダラダラしていましたね)

そして、いつしか、麦が目指していたイラストレーターの夢すら諦めているんですよね。
本当に、現代の若者を描いた作品でしたけど、働き始めて現実社会で知り、どんどん、いろいろな夢と現実の間で、諦めのような気持ちも過ぎて、ただ生活のために、気がついたら、生きていることの現実を知ることは、いつの時代でも普遍的なんだと思いました。
普通なら、絹も現実的になり結婚という選択が、多くの場合は、あると思うのですが、映画は、そんな選択はしません。

前回、お話した、アニメショーンの「ルックバック」を思い出しましたね。
このところ、オジサンは、こういうタイプの映画に涙腺が、本当にグダグダです。
どうか、まだ、未見で、私世代の映画じゃないと避けている方がいらしたら、是非とも、「はな恋」観てみてください🙏
注意⚠️エンドロールは、スキップしないで、是非最後まで、観てください。
麦くんの、素敵なイラスト集になっていますので、お見逃しなく、お願いします。
そして、併せて、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』も、お読みになることをオススメします。
(ダラダラしていても、司馬遼太郎先生の本は、読んでいた理由が、わかります)