メロトロン後継の座を狙っていたのはバイロトロンだけではありません。

オーケストロン」は、1970年代に製造された光学ディスクによる楽器で、 元ムーグのスタッフだった DAVID VAN KOEVERINGによりVAKOという会社で製造され、1970年代半ばにメロトロンの代替としてプロのミュージシャンに愛用されました。

イエスに在籍していたパトリック・モラーツは、最初にオーケストロンを録音やツアーで使用したミュージシャンです。



■パトリック・モラーツとオーケストロンの発明者デヴィッド・ヴァン・コーヴァリングへのインタビュー


By Sarah Snyder

1975年8月2日

St. Petersburg Independent


イエスのパット・モラーツが水曜日にサンクトペテルブルクに赴き、彼が世に送り出そうとしている楽器の最終チェックを行った。

今月ロンドンとスイスでモラーツによるデモンストレーションが行なわれるオーケストロンは、一度に12個の楽器の音を出せる唯一の鍵盤楽器である。


テープの代わりに光ディスクとレーザービームを使って音を出すポリフォニック・オーケストロンを発明したデイヴ・ヴァン・コーヴァリングは、半年前からモラーツの仕様に合わせてこのモデルの製作を始めた。


「オーケストロンにすぐに興味を持ったのは、そのテクノロジーに惹かれたからだ」とモラーツは言う。

「今では、指を立てずにさまざまなサウンドを作り、連続したポリフォニック・コードを演奏することができる。作曲家でなければ作曲できないが、それが障壁になることはない。この技術は非常に進んでいるので、ミュージシャンは複数の楽器を同時に演奏することができる」


最も洗練されたムーグやアープのシンセサイザーでさえ、モノフォニック、つまり一度に一つの楽器の音しか出せない。

しかし、オーケストロンの3つのキーボードは、パイプオルガン、聖歌隊、バイオリン、チェロ、フレンチ・ホルン、ハモンド・オルガン、サクソフォンの音を正確に再現する。 全部一緒に、あるいは好きなようにミックスして出すことができる。

これらは、ヴァン・コーヴァリングがこれまでに作った唯ひとつのサウンド・ディスクだが、彼はモラーツが望むすべてのサウンドのために、さらに多くのサウンド・ディスクを作る予定だ。

オーケストロンは一度に12個の楽器の音を出すことができるが、個別にコントロールできるのは6個だけなので、「実用上は一度に6個を演奏することになる」とエンジニアの一人は言う。


「6月に開催されたシカゴ・ミュージック・トレードショーでは、このオーケストロンの多くを販売することができた」とヴァン・コーヴァリングは言う。

「しかし、モラーツのツアーとニューアルバムが終わるまでは、(3段キーボード・モデルは)もう作らないつもりだ。この楽器のおかげで、両者とも売上記録を更新することを期待している」

彼がモラーツをオーケストロンの世界的なデモンストレーションを行う最初のミュージシャンに選んだのは、「彼の作曲技術があれば、私たちのマーケティングの仕事は終わったも同然だからだ」とヴァン・コーヴァリングは語った。


モラーツは明らかに、完成した楽器と、それが音楽界に与える影響に興奮している。彼はオーケストロンを製作中に2度見たことがあるが、完成品を見たのは水曜日が初めてだった。部屋に入るなり、彼はにやりと笑い、楽器を抱きしめた。ほとんど誰も見たことのないものをついに自分のものにした喜びで、楽器をくまなく調べた。


オーケストロンを携えたモラーツを迎えたイエスのアメリカでのコンサート・スケジュールは、まだはっきりと決まっていない。

「2月のツアーの後、オーストリアを皮切りにヨーロッパを回る。僕らはソ連でとてもビッグなんだ。夏に8週間のアメリカ・ツアーをやるかもしれない。

でも、この楽器はヨーロッパだけに置いておいて、アメリカではアップグレード版を使いたい」


オーケストロンは6つの楽器に対応し、ドラム、ギター、リード楽器など30種類の標準的なムーグ・シンセサイザー・サウンドも備えている。

イエスの他のメンバーは親指をたたいているように見えるかもしれない。しかしモラーツはそうではないと言う。

「僕の2本の手と2本の足は、10本の手と10本の足の代わりには決してならない」


(キャプション)イエスのキーボード・マスターであるパット・モラーツは、新しいオーケストロンに有頂天だ。30種類のシンセサイザー・サウンドに加え、オルガン、聖歌隊、チェロなど、モラーツが演奏したいと思うあらゆる楽器のための独立したディスクを搭載している。


オーケストロンが目玉のひとつに過ぎないモラーツのニューアルバムは、イエスではなく英米のミュージシャンが参加するソロ・ベンチャーである。

スライ&ザ・ファミリー・ストーンで3年間ドラマーとして活躍したアンディ・ニューマークがドラマーの1人で、ジェフ・バーリンがベース、レイモンド・ゴメスがギター、ジョン・マクバーニーがメイン・ヴォーカリストの1人となる。

「このマシンを手に入れた今、オーケストラは必要だろうか?わからないよ!」とモラーツはニヤリと笑う。彼のアルバムの名前はまだ秘密だ。


オーケストロンでの最初のデモンストレーションは、8月23日にイギリスで開催されるレディング・フェスティバルになるかもしれない、 

しかし、「ステージングがまだ決まっていないし、機材もかなり大きいので、保証はできないよ」と彼は言う。

しかし、8月25日にスイスのジュネーブで地元のテレビ番組のために演奏することは間違いない。

「スイス人である彼らに借りがある」と彼は言う。


モラーツの作曲とキーボード演奏の才能は、ムーグ初のポリフォニック・シンセサイザーのデモンストレーションにも使われるかもしれない。このマシンはまだ1台も製造されていないが、プロトタイプがある。

ムーグ・バージョンとオーケストロンの違いは、オーケストロンがサウンドトラックから楽器の音を正確に再生するのに対し、シンセサイザーは決して正確な再現には至らないことだ。


ヴァン・コーヴァリングは言う。

「私たちは、他のメーカーが手を出さない技術を持っている。彼らはすでに持っているものを時代遅れにしたくないのだ」

ヴァン・コーヴァリングは、モラーツのエンジニアの一人と一緒に午前3時まで起きていて、楽器の修理の仕方や、必要であればモジュール部品の交換の仕方を教えていた。


コーヴァリングからさらに多くの楽器を購入して販売したいと考えているモラーツは、自分のようなキーボードの専門家でなくても演奏できることを示したいと考えている。

「イエスマンがキーボードで演奏するような曲を作りたいんだ。というのも、キーボード奏者でなくても演奏できることを示したいからだ。作曲するのは僕だけじゃない。もしジョンがオーケストロンで演奏することになったら、彼はそのために作曲するだろう。イエスでは、みんなが作曲したりアレンジしたりアイデアを出したりするんだ」


(キャプション上)オーケストロンの一番上の鍵盤はシンセサイザー・サウンドをコントロールし、下の2つの鍵盤は音符だけでなく、シンセサイザーにはできない和音全体を、最大12個の楽器で同時に演奏する。

(キャプション下)ダン・ヴァン・コーヴァリング(左)は、モラーツのソロアルバムとイエスとのワールドツアーが、このオーケストロンのおかげでセールス記録を塗り替えるだろうと考えている。

モラーツは水曜日の午後、ブラジル人ドラマーたちとニューアルバムのための曲作りのために南米に向かった。

そこからロンドンに向かい、8月13日に到着し、フォルクスワーゲン用の大きなケースに入れられたオーケストロンを受け取る。モラーツは、この楽器を使ってすぐに実験とレコーディングを始めたいと考えている。


「何ができるのか、完全にわかるほどにはまだ使い込んでいないんだ。でも、好きなんだ。見てごらんよ」


ヴァン・コーヴァリングはこのモデルを1台しか作っておらず、モラーツがツアーを終えるのを待ってから作るつもりだ。


<オーケストロンが使用されている主な作品>

Patrick Moraz

『Relayer』(1974), 『The Story of I』(1976)

Kraftwerk(Florian Schneider)

Radio-Activity (1975), Trans-Europe Express (1977) , The Man-Machine (1978).

Jethro Tull(arranger Dee Palmer) 

Too Young to Die!(1976)

Rainbow(Tony Carey / David Stone)

Rising (1976), Long Live Rock 'n' Roll (1978), Long Live Rock 'n' Roll (1978)

Foreigner(Al Greenwood)

「Cold as Ice」 (1977)



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