うちのクラスに、学校をサボってばかりの生徒がいた。ズボンは極端に太く、煙草やシンナーを吸い、バイクに乗ったりという悪さを続けていたが、クラスでは明るくてやさしい、友達をとても大切にする生徒だった。たまに学校に来たときにも、授業中に私語などの迷惑をかけることは絶対になかった。だからクラスの友達もみんな彼を仲間と認めていた。もちろん友人たちや担任は彼を立ち直らせるためにいろいろな努力をしたが、シンナーをやめさせるだけが精一杯だった。
そしてむかえた合唱コンクール。
友達は彼のために、自分たちでパートの声を吹き込んだ“練習カセット”をつくり、彼の家に行った。
「中学最後のコンクールだからいっしょに舞台で歌おう」
彼は少し考えた後、
「日頃練習していない俺が出てまちがえたりしたら、コンクールなんだから点数にひびいてしまうかもしれない。だから俺はコンクールには出ない。でも、もしコンクールで上位入賞して翌日の文化祭に出られるようになったら、その時は俺もぜひ出してほしい。もちろんそのために猛練習しておくから。」
そう言って彼はカセットを受け取った。
そのことを実行委員がクラスのみんなに告げ、彼のため、自分たちのため、そして音楽の教師でもある担任のため、毎日何十回と歌い続けた。
コンクール当日、その努力は認められ、準優勝。
その夕方、代表の子がすぐに彼の家に行き、正規のズボンや靴下の準備、そしてカセットを使って音とりの確認をし、一方では実行委員が自由曲「秋祭り」にあわせて、町内会を手分けしてまわり、全員分のハッピ42着を手に入れてきた。
翌日の文化祭では、彼が太鼓を受け持ち、全員の「ワッショイ」のかけ声で入場。もちろん彼の服装は完ぺき、おまけに歌も口パクじゃなくしっかりと歌えていたという。
今考えると、コンクールに出場しないと言ったのは、彼なりのクラスへのはっぱがけだったのかもしれない。
※この時の級長は、阪神の赤星です。
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