〈インタビュー〉 「未来アクションフェス」後援団体 JCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ) 三宅香共同代表2024年2月24日
気候危機の打開を巡る「青年福光サミット」が10日、仙台市の東北文化会館で開催。「未来アクションフェス」の後援団体であり、脱炭素社会の実現を目指す企業グループ「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」の三宅香共同代表が基調講演した。ここではインタビューを掲載する。
地球環境の限界は間近
――「待ったなしの気候危機」。青年福光サミットでの基調講演のタイトルが印象的でした。
昨年の夏は、日本も本当に暑かったのを覚えていると思います。幼稚園や小中学校などで、外で遊ぶのを禁止するような日もありました。夏の風物詩である甲子園の高校野球も、炎天下では“中止にすべきか”という議論も出たほどです。今ではもう、気候変動を身近に感じない人は、いないのではないでしょうか。
パリ協定(※1)が掲げる「1・5度目標」を達成するために、残された時間はわずかしかありません。お風呂に例えれば、地球環境の限界である「満水状態」はもう間近。今、大切なことは、お風呂に入れる水を止めること、つまり、二酸化炭素の排出それ自体を止めることです。
JCLPは、249社が加盟する企業グループとして、「脱炭素社会」の実現を目指して活動しています。
※1 2015年に国連の気候変動対策に関する会議(COP)で採択された協定。世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べて「1・5度以内」に抑える共通目標が掲げられ、各国が温室効果ガスの削減目標を自主的に定めて進捗を報告するとともに、5年ごとに目標を引き上げることが定められた。
東京都心でも35度以上を連日記録するなど、昨年の夏は厳しい暑さが続いた(AFP=時事)
声を上げる主体は誰か
――企業のネットワークが大きく広がったきっかけは。
JCLPが発足したのは2009年ですので、パリ協定の採択より随分前です。気候変動に取り組まなければならないという認識は少しずつ広がってはいたものの、「脱炭素」という言葉はまだ浸透していませんでした。
特に経済界では、気候変動問題を解決することは、「経済を止めることになる」という考えが一般的でした。気候危機が進めば、人々の生活の基盤が崩れ、社会の安定が揺らぎます。そうなれば、そもそも企業経営どころの話ではないはずなのですが、当時はまだ、そうした考えを持つ企業は少数でした。
私が勤めていた小売業大手の企業は、1990年代から環境・社会貢献活動に取り組むなど、気候変動問題を重要視していた企業の一つです。私たち企業が生き残っていくために、情報交換を始めなくてはならないという危機意識を共有する企業が連帯して、JCLPの活動はスタートしました。
パリ協定の採択によって、気候変動問題における企業の責任がより明確になり、事業の在り方に変革を起こしていかなくてはならないという風潮が広がったことは、脱炭素社会を目指して、世界が大きく動き出すきっかけとなりました。
そしてもう一つの重要な転換点は、2017年だったと私は思います。この年の6月、アメリカのトランプ大統領(当時)が、パリ協定からの脱退を表明したのです(※2)。これにより、気候変動対策が遅れるのではないか、機運が下がるのではないかといった心配も広がりましたが、現実はその反対でした。
企業や地方自治体、NPO(非営利組織)、NGO(非政府組織)などの非国家主体が、声を上げ始めたからです。同年11月に行われた、国連の気候変動対策に関する会議でも、その様子は顕著でした。私もJCLPを代表して現地に行きましたが、当時の衝撃を今も覚えています。
世界を変えるために立ち上がり、発信するのは、国家である必要はないのだと実感しました。いつまでも国がリードするのを待っているだけではいけない。その思いを胸に、帰国後はJCLPの活動や対外的な発信も強めていきました。
※2 2017年の表明後、アメリカは20年11月にパリ協定から正式に離脱。その後に誕生したバイデン現大統領は方針を打ち消し、アメリカは21年2月に同協定に復帰した。
2017年にドイツで開催された気候変動対策に関する国連会議。企業を含む非国家主体が声を上げ始めた(AFP=時事)
「生き残り」をかけて
――JCLPは企業の連帯である以上、社会貢献ではなく「ビジネス」として、脱炭素社会の実現に取り組むという視点を大切にしていますね。
おっしゃる通り、社会貢献だと考えている企業はありませんし、言うならば、皆が「生き残り」をかけて脱炭素に取り組んでいると思います。後ろ向きの言い方にも聞こえますが、脱炭素に取り組むことは、ビジネスチャンスでもあるということです。
例を挙げれば、太陽光パネルや電気自動車などの事業規模は、数年前と比べれば桁違いです。ほかにも、例えば、ほんの数年前までは無理だといわれていた製鉄プロセスの脱炭素化も、低コストでの実現を目指して開発が進んでいます。
このように、これまでできなかったからといって、未来永劫にできないとは限りません。そして大事なことは、世に出ていくこれらの新技術は、製造から廃棄までの総合的な視点から、脱炭素に貢献することが科学的にも検証されているという点です。
気候変動を含め、社会課題を解決することそれ自体が会社の利益となり、社会的な評価につながる。少しずつですが、そうした理解が広まっていると感じています。
イギリス東部の街で、一面に広がる太陽光パネル。脱炭素社会を目指す取り組みが進む(AFP=時事)
一人一人の行動変容
――脱炭素社会を目指して、私たち一人一人にできることは何でしょうか。
家庭から排出される二酸化炭素は、全体の約4分の1といわれています。自動車の利用を減らすなど、できることはまだまだあるはず。エコや省エネのための住宅リフォームに対する補助金・助成金制度など、活用できるものも多くあります。そうした行動変容の意識を持つことが大切だと思います。
そして、個人が取り組むだけでなく、その輪を広げることを意識していただきたいと思います。身近では、家族や友人と話すこともそうでしょうし、企業を構成する当事者として、自社の取り組みに意識を配っていくことも大事です。
個人が動くことで企業も変わっていきますし、個人と企業が動けば、政治の方向性を変えていける可能性もあります。個人と企業と国の三者がバラバラで動いていては、最大限の力は発揮できません。気候危機は、一部の人が頑張れば解決できるような問題ではないからこそ、それぞれが相互に影響を与えながら、産業構造や社会全体を変えていくことが求められています。
若者はもっと怒っていい
――JCLPも後援している「未来アクションフェス」に向けて、社会課題に挑む若者たちへのエールをお願いします。
気候危機を巡っては、二つの「不公平」が存在するといわれます。
一つは、今日の気候変動をもたらした温室効果ガスは、ほとんどが先進国で排出されたものであるのに、その影響による被害を一番受けるのは、発展途上国であるという不公平さです。
そしてもう一つは、経済成長を享受してきた大人たちによって、夏に外で遊べないような生活が、未来を生きる若者たちに強いられているという不公平さです。
若者世代が多く集う未来アクションフェスに、私は大きな期待をしています。脱炭素社会を実現するための、大きなきっかけになることを願っています。
同時に、青年世代の皆さんはもっと怒っていいと私は思います。気候危機を引き起こした世代ではないはずの皆さんが、待ったなしの大きな問題に取り組まなければいけないという不公平さ。それに腹を立てるのは当然の権利ですし、欧米で気候危機に立ち上がる多くの若者の原動力は、そうした怒りです。
脱炭素社会を目指しているのに、二酸化炭素の排出量はまだピークアウトもされていない。それだけ見れば、未来に悲観的にもなりますが、それでも私は、希望を抱いています。日本をはじめ、まだまだ個人の意識変革、行動変容が足りない社会がある。それは言い方を変えれば、潜在力があるということ。その人たちが立ち上がれば、大きく変わるかもしれない。私はそれを希望と捉えています。
個人も産業界も、もっとできることはあります。「もう全部やり尽くした」と言い切れるくらいに、努力しようではありませんか。社会がどうなっているかは、その時に考えればいい。
今はまだ、目の前にやることがあります。それに全力で取り組む私たちでありたいと思います。
東北文化会館で行われた青年部の「青年福光サミット」。(壇上の右から左に)西方青年部長、「SDGsとうほく」の紅邑晶子代表理事、JCLPの三宅共同代表がトークセッションを行った(今月10日)
みやけ・かほり 米国ウェスト・バージニア大学を卒業後、1991年にジャスコ株式会社(現イオン株式会社)に入社。国際本部、財務部等を経て、2008年に子会社であるクレアーズ日本株式会社代表取締役社長に就任。14年にイオンリテール株式会社執行役員、17年にイオン株式会社執行役として、環境社会貢献、IR・PR、お客さまサービスなどを統括。19年よりJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)の共同代表を務める。三井住友信託銀行ESGソリューション企画推進部フェロー役員。
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カクワカ広島 高橋悠太共同代表
3月24日に東京・国立競技場で行われる「未来アクションフェス」は、若者同士が「核兵器廃絶」「気候危機の打開」という目標を共有し、連帯するためのイベントです。本年9月に国連で開催される「未来サミット」に先駆け、フェス当日は、私たち若者の声を国連関係者に届ける予定です。
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