誓願 281~282ページ 【小説「新・人間革命」】第30巻〈下〉2024年2月24日

 予言者の語った二つの道の一つ目は、「圧政によって王座を固めること」であった。そうすれば、王権の継承者として、強大無比な権力が与えられ、その恩恵に安住できる。
 そして、二つ目は、民に自由を与えることであり、それは「受難の厳しい道」である。
 なぜか──予言者は、わけを語る。
 「あなたが贈った『自由』は、それを受け取った者たちのどす黒い、恩知らずの心となって、あなたに返ってくるからです」
 「自由を得た人間は隷属から脱却するや、過去に対する復讐をあなたに向けるでしょう。群衆を前にあなたを非難し、嘲笑の声もかまびすしく、あなたと、あなたの近しい人びとを愚弄することでしょう。忠実な同志だった多くの者が公然と暴言を吐き、あなたの命令に反抗することでしょう。人生の最後の日まで、あなたをこき下ろし、その名を踏みにじろうとする、周囲の野望から逃れることはできないでしょう。
 偉大な君主よ、どちらの運命を選ぶかは、あなたの自由です」
 為政者は、熟慮し、七日後に結論を出すので、待っていてほしいと告げる──。
 アイトマートフが寓話を話し終え、帰ろうとすると、ゴルバチョフは口を開いた。
 「七日間も待つ必要はありません。七分でも長すぎるくらいです。私は、もう選択してしまったのです。私は、ひとたび決めた道から外れることはありません。ただ民主主義を、ただ自由を、そして、恐ろしい過去やあらゆる独裁からの脱却を──私がめざしているのは、ただただ、これだけです。国民が私をどう評価するかは国民の自由です。
 今いる人びとの多くが理解しなくとも、私はこの道を行く覚悟です……」
 アイトマートフが山本伸一に送った、この書簡には、ペレストロイカを推進するゴルバチョフの、並々ならぬ決意があふれていた。
 保身、名聞名利を欲する人間に、本当の改革はできない。広宣流布という偉業もまた、「覚悟の人」の手によってこそ成し遂げられる。