〈SDGs行動の10年 共に未来をつくる〉 NPO法人アクセプト・インターナショナル 永井陽右代表理事2021年7月31日
- 紛争地の若者の更生に挑む
ながい・ようすけ 1991年、神奈川県生まれ。国連人間居住計画CVE(暴力的過激主義対策)メンター。早稲田大学在学中に「日本ソマリア青年機構」を設立し、2017年に「アクセプト・インターナショナル」として法人化。著書に『僕らはソマリアギャングと夢を語る』など。
内戦状態にあるアフリカのソマリアや中東のイエメンを中心に、テロ組織やギャング組織に関与した若者の更生を支援する永井陽右さん(NPO法人アクセプト・インターナショナル代表理事)。テロと紛争のない世界を目指し、最も置き去りにされた若者たちと向き合い続ける永井さんに、青年部の代表が聞いた。聞き手は、真鍋学生平和会議議長、斉藤総神奈川女性平和文化会議議長。
真鍋学生平和会議議長
斉藤総神奈川女性平和文化会議議長
真鍋議長 先日、「テロリスト500人を更生させた29歳のNPO代表」としてテレビ番組で紹介されていましたね。昨年11月に開催された「パリ平和フォーラム」では、貴団体の紛争解決策が日本の団体として初めて地球規模課題の解決策に選出されるなど、国際的に注目を浴びています。改めて活動の概要を教えてください。
永井代表理事 大きく二つあって、一つは若者の過激化を防ぐこと。もう一つは、過激化した若者を脱過激化し社会復帰に導くことです。例えば、ソマリアでは刑務所や投降兵キャンプに収容されているテロ組織の逮捕者・投降者を主な対象に、週3回、イスラム教の再教育や職業訓練など、さまざまなプログラムを通して支援を行っています。
昨年からは、テロ組織が実効支配する地域で戦闘員に自発的な投降を呼びかける活動にも力を入れ始めたところです。テロ組織からこれまでに145人を投降させることに成功しています。
ソマリアの刑務所でテロ組織の投降者・逮捕者らと語り合う永井さん(右端)
押し付けではなく、まず受け入れる
斉藤議長 文化的背景の異なるテロリストの人たちとどのように対話されるのですか。
永井 彼らがテロリストになる理由は、さまざまです。暴力的で過激な思想に影響される人よりも、混乱する社会への怒りや貧困からの加入、誘拐、洗脳によって戦闘員になる人が非常に多い。ですから「そもそもなぜテロ組織に入ろうと思ったの」とか、脅迫されて入った人には「どんな思いだったの」と聞いて、今の思いからひもといていきます。
「テロなんて間違ってる」とこちらの考えを押し付けるのではなく、彼らの思いをアクセプト(受け入れる)し、向き合うことから始めるわけです。
週に1回行うゼミ形式のイスラム教の再教育では、今のソマリアには何が必要か、自分にできることは何かなどを、彼らに考えてもらいます。テロリスト以外の道があることに気づいたら、今後どう生きるかを彼ら自身に選択してもらう。その思いを実現できるように、私たちは支えていきます。見も知らぬ“謎のアジア人”だからこそ、率直に言える部分もあるんです。
社会復帰に向けて受刑者らに講演する
真鍋 内戦状態が続くソマリアでは、社会復帰も困難が伴うと思います。
永井 ええ。その意味からも重要なのが、「幻滅対策」です。一般の人々にとってみれば、現在もテロ組織が活発に活動している状況で、そこに所属していた人との共存を受け入れることは容易ではありません。すると、いざ出所しても社会で受け入れられず、またテロ組織からは裏切り者として命を狙われる状況に直面する。そうした“幻滅”から再過激化しないような対策が必要です。同時に、自らの過去に向き合ってもらう「償いと和解セッション」というプログラムも行っていますし、一般市民の代表を招いて元テロリストの人々との共存や和解を考える場も定期的に設けています。特に社会側においては、投降兵や逮捕者への取り組みは明らかにされていない上に、元テロリストの受け入れに対する拒否権もありません。テロ組織が投降者の命を狙っているため、社会も大きなリスクを負うことになるわけです。だからこそ可能な範囲で説明を行い、どう共存できるかを定期的に話し合っています。
当然、「元テロリストなど絶対受け入れない」と拒絶する人もいます。テロで家族らを失った被害の当事者に「許しを」と言っても、受け入れられるわけがありません。だからこそ第三者や社会の存在が大事で、当事者の周囲にいる我々が何を考え、どうあるべきかを皆で腹の底から話し合うようにしています。
斉藤 ケニアのソマリア人居住区では130人以上のソマリア人ギャングを更生させ、一つのギャング組織を解体されたと伺いました。現在の活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
永井 大学1年生だった2011年、ソマリアが大飢饉に見舞われ、約26万人が犠牲になりました。「比類なき人類の悲劇」と報じられる惨劇を知り、「ソマリアを助けたい」と思ったんです。何ができるかもわからない中で、「日本ソマリア青年機構」を立ち上げました。最初は思っていたような活動ができませんでしたが、本当にやるべきことは何なのかを考え行動していく中で、ギャングやテロリストの更生に取り組むようになりました。
当初は、「無謀だ」「無理だ」という意見ばかりでした。だけど私は、世界平和を目指すのなら「何ができるか」ではなく「何をするべきか」を考えることが大事だと思い、一歩を踏み出しました。経験や知識以上に大切なのは意志や姿勢であり、「何をすべきか」という思考から意義ある取り組みは生まれてくるのだと思います。
真鍋 次元は違いますが、私たち創価学会青年部も苦悩する同世代の青年に寄り添い、その人にしかない使命を共に見いだし生きる「励まし」を活動の軸にしています。そうした若者の連帯は世界にも広がっています。
永井 私たちの活動とも本質的に響き合うものだと思います。
若者(ユース)の定義について、国連総会では15歳~24歳、安保理決議2250では18歳~29歳とされています。加えて地域によっては、35歳や40歳までともされています。それならば、ギャングやテロリストと呼ばれる人のほとんどが青年です。今、SDGs(持続可能な開発目標)が浸透する中で、若者の役割が一段と叫ばれていますが、彼らも可能性を秘めた若者世代の一員であり、排除するのではなく、若者として社会に復帰させることができれば、それはまさに憎しみの連鎖を解決する糸口になるはずです。こうした“最も取り残されてきた若者”に目を向けることが今、求められていると思います。
2030年へ あらゆる若者の可能性が開かれる世界を
斉藤 テロや武力紛争に巻き込まれる若者の権利を守るため、永井さんは2030年までに国際条約の制定を目指しておられます。
永井 18歳未満の子ども兵は国際法で保護がしっかりと保障されていますが、18歳を超えた若者にはそうした保護はありません。ですから私は、簡単にいうとテロ組織や武装組織にいる・いた若者が若者として生きていけるための国際法、国際規範をつくりたい。全員免罪にせよということではなく、そうした若者が政策でも、実践でも取り残されていることが、持続的な平和への障壁になっていることをまず共通認識する。そして彼らがテロリストではない生き方を選び直すことができるよう、その権利と意義を明確にする――そうした条約をつくるべきなのです。
名称案は「テロと武力紛争に関する若者の権利条約」で、その基となる宣言を本年9月末に発表するべく、現在、関係各所と議論を進めています。
真鍋 一人一人が持つ可能性に目を向けるという意味でも、私たちもさまざまな方と連帯しながら、世界各地の「青年のエンパワーメント(能力開花)」に取り組んでいきたいと思います。
永井 日本においてここまで大きく平和を一貫して進め、平和が大事だと訴え行動している市民組織は、皆さんをおいておそらく他にないと思います。核兵器禁止条約への貢献も、まさに草の根における実質的な貢献の良い例ですよね。
エンパワーメントと言われましたが、私たちが目指す国際条約の狙いも、端的にいえば「テロ組織にいる若者もエンパワーメントすべきだ」ということです。そうした意味でも青年のエンパワーメントに向け力を合わせて進んでいきたいと思っています。
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