新聞小説「荒神」(1) 宮部みゆき | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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「荒神」(1) 作 宮部みゆき 画 こうの史代

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感想
現在では結構「大物」の宮部みゆきが手がける新聞小説。
彼女の作品は「返事はいらない」「鳩笛草」「淋しい狩人」等短編集は好んで読んでいる。

長編については「レベル7」を読んだ。

 

今回の話は、徳川政権が安定した五代目綱吉の頃。ある村で起きた殺りく、逃散の事件。

何かが起こったが、その「何か」が分からない。
隣り合う小藩の確執を巡って話が次第に展開して行く。

 

幼くして両親を亡くし、育ててくれた寺の和尚を手伝ううちに婚期を逃した朱音。双子の兄は下級武士の家に引き取られたが出奔。山の異変とその兄妹の話が絶妙に重なり合う。

毎回の興味を失わず、物語の周囲を丁寧に掘り下げてはいるが、山の異変自体はまだ説明されない。

久々に読みごたえのある新聞小説と言える。

 

ただね、挿絵がイマイチ かなー。
漫画家の起用がいけないとは言わないが、5頭身にデフォルメされ、まつげパッチリのデフォルメされた顔を見ると、完全にイメージが固定されてしまい、活字特有の「余白」が塗りつぶされてしまう感じで興ざめ。


「麗しき果実」の中 一弥氏だったら相当雰囲気も変わっていただろう。 

http://ameblo.jp/yashima1505/entry-10299215195.html

 

 

あらすじ

第1章 逃散 1~64(3/14~5/18)

走る、走る・・・

仁谷村のはずれの番小屋に、鉄砲撃ちのじっちゃと二人暮らしをしている少年、蓑吉。
ある晩、蓑吉はじっちゃに起こされる。

村に異変。じっちゃは鉄砲を持ち「わしも後から行くから本庄へ知らせに行け」と言い残して小屋を出る。

真っ暗な中を走る蓑吉。仁谷村の方向で火の手が。

その時伍助が声をかける。村の持て余し者。

村に出たものを「あんなもんを見たら」と言葉を濁す。

遠くに見える村は火が燃え広がっている。
この辺りを束ねる本庄村。じっちゃはここに知らせに行けと言っていた。「あれは何なんだ」と問い詰めると

「お山ががんずいとる・・・」


仁谷村に戻ろうとした時、生臭い風が。伍助の姿がいつの間にか消えていた。伍助が居た場所には血のついた草履。
香山藩一万石を治める瓜生氏。乱れた世で村人を守った一族。

瓜生氏の陣屋が「御館」。小日向直弥。何かの理由で養生していた。友人の志野達之助。堀田道場の高弟。山番として入る装備をしていた。仁谷村での事件。庄屋の申し出は「逃散」

仁谷村の事情が語られる。香山の急峻な山々を開発する「山作り」。隣接して存在する大平良山は永津野藩、小平良山は香山藩の領有だった。香山の開発は大平良山の境界近くまで迫る。

永津野は、かつては金山があり潤っていたが、それ以外から富を得る才覚がなかった。元は一つだった両藩。公には永津野が主藩、香山が支藩の関係。永津野側は、香山の瓜生氏が戦役を契機に領地を掠め取ったとの認識。永津野による「人狩り」の存在。永津野の圧政に耐えかねて香山に逃げ込む領民の存在。
曽谷弾正。八年ほど前から永津野領主竜崎高持の側近となり権勢をふるう。

逃散者だけでなく香山の村人も拉致する手口が「人狩り」。
今回起こった「逃散」は香山から永津野への動きであり、信じ難い。その事情を確かめるのが達之助の役目。
達之助の妹を嫁に娶る予定だった直弥。
直弥の読む文に気付く達之助。絵師 菊池園秀。安定した徳川政権の五代目綱吉の時期。公儀隠密の暗躍する中での領地紛争。

そんな中での絵師との文のやり取りを達之助はけん制した。

 

名賀村。永津野藩の西方に位置する。

ここで四度目の春を迎える朱音。
朱音付きの女中、おせん。この時十四歳。朱音は三十八歳。

新しい朱音の住まい兼養蚕小屋の普請を見に来ていた。

幼くして両親と家を失い、寺に引き取られた朱音と兄の二人。

妹はすぐその生活に馴染んだが、兄は自分の運命を憎んだ。

寺の和尚は兄市之介の素質を見抜き、ある平士の家に預けた。

だが元服するとすぐに市之介はこの養家を飛び出した。

その時に別れて以来だった兄から、藩の使者を差し向けられた。当時朱音は三二歳。

ずっと拒んでいたが、世話をしていた和尚が亡くなったことで、兄の世話になる決心をした朱音。

十数年ぶりに会った兄 曽谷弾正は隻眼になっていた。

妻 音羽と二歳の娘 一ノ姫。

音羽は領主の竜崎家親族の「御蔵様」の娘。
領主 竜崎高持。十七歳で藩主となり、間もなく御前試合をして勝ち抜いた者を藩士に取り立てる事を始め、押し寄せた浪人の中の一人が市之介だった。市之介は浪人たちばかりでなく藩の指南役も打ち負かし、高持の心をとらえた。

 

永津野の金山は掘りつくされ、産業に乏しかった。弾正は養蚕の技術導入を提言。それを取り入れ、本格的な養蚕を始めて三年目に朱音が来たのだった。弾正の功績を嬉々として語る家臣たち。
兄に、領内のどこかの養蚕村で遣わして欲しいと願い出る朱音。それからほどなくして名賀村行きを許される。
兄と朱音は双子の兄妹だった。

 

年が明けて春を待ってから朱音は名賀村に移った。

今は空き家になっている藩士たちの武者溜「溜家」。
村では朱音は「お台様」と呼ばれ、当初は弾正の御妹と怯えていた村人もてきぱきと家事をこなす朱音の姿を見てたちまち心を寄せる様になった。
そうして迎えた名賀村の四度目の春。

おせんを伴い庄屋の長橋茂左右衛門を訪ねた帰り。

若衆の一人加介が、怪我人を溜家に運び込んだと知らせに来た。
怪我人は子供。手当ての指示をするおせんにあいまいな応答の加介。子供の手ぬぐいに秤のしるし。香山の庄屋の屋号だった。

怪我人を見つけた榊田宗栄。 半月ほど前から溜家に滞在。城下に出ていた茂左右衛門の孫、太一郎が宿で寝込んだ際に世話を焼いてくれた事に感謝して滞在を勧めたものだった。

太一郎の父は早世し、跡取りは彼だけのため茂左右衛門の歓待は大そうなものだった。

溜家の周囲で鶏が全滅したりという変事が起き、茂左右衛門が警備を付けるというのを朱音が拒んでいた。宗栄が溜家に寝泊りして番をすると提案すると、朱音はそれに飛びついた。

宗栄にとっても好都合。怪我をした子供を診る朱音。

背中の左肩から脇腹に向けて点々と突かれた様な丸い傷。
子供を湯に浸けて洗おうとする宗栄に朱音が口出し。宗栄は子供の皮膚に何かをかぶったものが付着していると推定していた。

おせんが家から膏薬を持って戻り、子供の手当てをした。
部屋に漂う生臭い臭い。宗栄も気が付いていた。

朱音はこれが兄の仕業ではないかと恐れていたが、宗栄は否定し、子供を見つけた辺りを調べに出掛けた。
二人はこの子供の事を秘密にしておこうと暗黙の了解を交わした。外に出て判った兄の別の顔。

永津野藩の年貢取立ての厳しさ。養蚕振興策に反対する者もおり、それらを容赦なく弾圧する事にも手加減がなかった。

名賀村は養蚕でうまく行っている例だった。
弾正が行う巡回は、単なる養蚕振興の確認だけでなく、逆らう者への威嚇行為でもあった。

 

意識を取り戻しかけた少年。抱き起こす朱音。目を覚ましても呆然とする子供。
名前を「みのきち」と名乗り、じっちゃの名前を呼び、一人では怖いと震える。
何があったかと聞くと「お山が、がんずいとる」。
蓑吉は再び落ち込む様に眠りについた。

 

朱音は戻って来たおせん、加介にも聞いたが心当たりはなかった。溜屋の守りをしている「じい」に聞いたところでは「がんずく」というのは飢えて怒り、恨みに燃えているという意味か。戻って来ていた宗栄はじいの例え話からその言葉を解釈した。この子は一体何を見たのか。