「荒神」(4) 作 宮部みゆき 画 こうの史代
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(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8)終章 オマケ
感想
いよいよ怪物が大暴れ。全体像も挿絵で描かれてしまい、「なんじゃ、これは~~」というお言葉も出そうですね。
関所の砦を壊滅させてしまうという事だから、かなりの大きさと思っていた。怪物の描写のところで口が「優に一尋(ひとひろ)はありそうだ」というのがあるが、これは手をいっぱいに広げた長さ(約1.5m)であり、舌で藩士四名を絡め取って飲み込むとしたら、これの倍以上はないと勘定が合わない。
フィクションなりにディテールにはこだわりたいんだよね。
また、人の体を巻き取って持ち上げるほどの舌が、刀ぐらいで切れるわけがない。
この辺も期待だけに振り回されて構築が甘いところ。
でも、登場人物の描き分けはキチンと出来ているので、毎日読み進める楽しみはあります(新聞小説にはこれが大切)
あらすじ
第三章 襲来 181~241(9/15~11/16)
永津野藩の関所。笠の御用で訪れている朱音、園秀、茂左右衛門。軽薄な代官の接待に辟易する朱音。
調度品のそこかしこに兄、弾正の気配。
配下の一人、磐井半之丈。弾正の引き立てで番士となった若者。関所内の案内役。
酒宴の潮時を狙って朱音が半之丈に関所内の案内を頼む。
園秀が何気なく厩(うまや)が見たいと申し出る。
宗栄が見たと言っていた、檻は厩の隣りにあったという。
予想に反して半之丈は彼らを素直に厩へ案内。
厩に着いた園秀は早速馬たちの姿の素描を始める。
急に馬たちが騒ぎ出し、半之丈はそちらの様子を見に行った。
隣接する竹林の竹が一部ぴゅん、ぴゅんと跳ねる様子が見える。ぞくりと震える朱音。
竹林の動きはそこで止まり、馬たちも穏やかになった。
兵糧庫を見たいという朱音に眉をひそめる半之丈。
そこへ園秀が、他から聞き出した面を見たいと言い出す。
番士たちは巡視に廻る時、顔に面を着けるという。はっきりと顔をしかめる半之丈。ただ、拒絶はせず面の置いてある厩の裏手にある物置に案内を進めた。
面は装飾とはまるで縁のない素朴なものだった。
情に流されず御定法の化身になるために必要だと言う。
その時、物置の外で声がする。異様な気配を感じて朱音はここを離れようと申し出る。外に出たとたん、例の竹林のしなる音が。覚えのある生臭さ。
駆け寄って来た番士と半之丈に、事情は後から話すからと砦に逃げ込む様に促す朱音。
竹林の中を上着が舞っている。庭掃除の勘吉のものだった。取りに行こうとする半之丈を止める朱音。
だが構わず取りに行った半之丈は、竹林の中で大声をあげた。
声を聞いて飛び出して来る藩士に逆らう様に砦に向かう朱音と園秀。園秀の背後にぬうっと現れたもの。
二股に分かれた怪物の尾がのたうっていた。
同じ時刻に咆哮を聞いた宗栄と蓑吉。
関所に少しでも近づこうとする二人。
砦の階上へ逃げる朱音と園秀。
多くの番士たちが怪物に矢を射掛けていた。
三階までたどりついた二人。そこの更に階上は酒席の行われた場所。上がって行くと茂左右衛門の姿が。関所の鉄砲隊がここに陣取って怪物を攻撃していた。
この騒ぎの中でも怪物を絵に残そうとする園秀。
窓際に群れている鉄砲隊のところへ、ひとかたまりの水が。叫びながらころげ回る藩士たち。あの怪物の放った胃酸か。
その時、窓際に大きな肉色の帯が数人の藩士を束にして巻き取り、さらって行った。
逃げ惑う残った藩士たち。「逃げて!逃げて!」と叫ぶ朱音。
半分なくなった壁の床にがっきりと食い込む三本の鉤爪。ここへ登ってこようとしていた。腰の抜けた茂左右衛門と朱音、園秀の三人は階下へ逃げようとしていた。代官はさっきの様に怪物にさらわれたと茂左右衛門。
大きな揺れが来て放り出される茂左右衛門。
どうにか地階まで降りた二人。だが砦の中で火が出て、追われる様に飛び出したところが怪物と藩士の戦いの目の前だった。
小山の様に大きい奇形の蜥蜴。怪物には目がなかった。
ひたすら続く攻防。だが矢、鉄砲の攻撃は全く効果なく、藩士は次々に消えていった。砦がとうとう崩れる時、怪物は驚くような素早さで身をかわしていた。
森の道へと逃げ出す朱音と園秀。逃げる邪魔になると晴れ着を脱ぎ捨てる朱音。だが足を捻って走れない。
枯れ井戸を見つけた園秀。しごきを一本解く様に朱音に指示し、それを使って朱音を井戸の下に下ろす。そして自分は木の上へ。
蓑吉と宗栄。彼らも初めて怪物の全体像を見た。
朱音がまだ砦に居ると思っている二人は勝手口から建物の中に入った。そこで捕われている者の声。蓑吉の知り合いの善蔵だった。中に入ると厨房含め中働きの者数名が立ち向かって来た。
一喝する宗栄の声に逃げ出すみんな。
捕われていた善蔵を助け出すと、同じく捕われていた女房のおえんは絶命していた。彼は今までのいきさつを話す。化け物のせいで逃げ込んで来た者たちの話を信用せず、関所の者たちは彼らを捕らえたのだ。錯乱した善蔵は、
ここに火をかけてみんな焼き殺すと言って蓑吉を追い払った。
朱音を探していた宗栄は、倒れていた茂左右衛門を助け出していた。合流した蓑吉と逃げる時、まともに怪物と出くわしてしまう。
二人の目の前で怪物は腹の中のものを吐き出し始めた。強烈な異臭。人、人、人。武具を着けた者、手だけ、足だけ、溶けかけたもの。怪物の習性か。
多分蓑吉もこうして吐き出されたのだろう。
一段落した怪物は、二人の方を向いた。合図をしたら逃げろと指示し、宗栄は怪物に立ち向かい、蓑吉は逃げた。
狙いすました怪物の舌に絡め取られる宗栄。宙に持ち上げられたまま怪物の舌に刀を振り下ろす宗栄。
次第に傷を深めて行く怪物の舌。無敵なわけではなかった。
ちぎれた舌と共に飛ばされる宗栄。
次に怪物は蓑吉に迫って来た。
このまま来ると茂左右衛門が踏み潰されてしまう。
意を決して蓑吉は怪物の気を引きながら方向をそらす。
だが後ずさりを続けるのも限界があった。蓑吉はそこで尻餅をついてしまう。万事休すと思われた時、鞍も着けていない馬が蓑吉の襟を噛んで引張って行った。怪物は動かない。
馬がいなないた時、怪物はすうっと身を引き、関所の砦の方へすさまじい速さで戻って行った。
危機を脱した蓑吉は、馬の首をさすってありがとうと言った。
庄屋の茂左右衛門を助け起こし、名賀村へ戻ると決めた蓑吉。
「おだいさま」と繰り返しよばれて意識を取り戻した朱音。騒がしいのは園秀だった。あと二人いる。
小日向直弥、やじと名乗った。
小日向と自分は昵懇の間柄だという園秀。たしなめる直弥。
助けてもらった事を直弥に感謝する朱音。事を名賀村に伝えに行くと言って立ち上がろうとするが、やじに止められる。
捻挫をしている朱音は歩けなかった。
直弥は、名賀村には行かないと言い、我らは香山藩の者だと言った。北の開拓村で変事が起きて、それを調べるために来たのだと言う。それは仁谷村の事か、との朱音の言葉に直弥が驚く。
蓑吉の一件を話す朱音。怪物を、直弥もやじも見ていた。
この変事を知って永津野藩士が来れば自分たちは捕われてしまうというのが直弥の危惧だった。
出発しようとする直弥に、自分は名賀村へ帰ると言う朱音。
一人では無理だと言う園秀の言葉に絶句。
園秀には香山に急用が出来たと言い訳をする直哉。
構わず行こうとする朱音を担ぎ上げてしまうやじ。
抵抗しても全く動じない。失礼を詫びる直弥。
やじの柔らかな感触にふと気付く朱音。
西に向かうため一旦関所に近づく必要があり、酷い眺めのところも通らなくてはならない。覚悟を決めた朱音は下ろしてくれと頼み、直哉もそれを受けてやじに指示し、下ろされた。
朱音は園秀に頼み、背負ってもらいながら先に進んだ。
番士たちの骸がひとかたまりの山になっているところに出た四人。怪物の習性を説明する直弥。
その骸の中に磐井半之丈の姿を見つけた朱音。
顔の半分が残っていた。合掌する園秀。やじが、どこからか見つけて来たあの木の面を半之丈の顔の上に乗せた。
四人は香山領を目指した。