「虚無回廊Ⅰ」 小松左京 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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 虚無回廊Ⅱ  虚無回廊Ⅲ

2000年 ハルキ文庫(初出は1987年)

 

感想
第1巻は、SSの概要とそこにたどりつくまでの説明。SF小説としての組み立てはけっこう魅力的。現在の技術で人類に手が届くギリギリのところに「地球外生命」を設定し、そこに向かう物語。

 

とりあえず「つっこみどころ」がいっぱいあるので、まず言いたい事を。
距離5.8光年、直径1.2光年という設定(視直径約12°)
月までの距離38万キロ、月の直径3,500キロ。月の視直径は約0.5°。よってこいつは月の24倍の直径に見えるわけです。「実は…これはまだ極秘だが」という記述があるが、こんなバカでかいものが出現したら、研究機関の発表どころか出現した瞬間に大騒ぎになるでしょう。
話の壮大さを示す気持ちは判るけど、他でディテールにこだわっているなら、ある程度の基本は押さえておかないと厳しい。
説明の中で「琴座と白鳥座の間に出現」とあるから、そのサイズはせいぜい視直径0.1°。SSのサイズとしては長さ200億キロ、直径120億キロといったところでしょうか。太陽系の直径が150億キロだから、これでも十分壮大。
SFというのは、確かにフィクションなんだけど、それなりの合理性が欲しいのです。
それでも「果しなき流れの果に」で「全宇宙の端から端まで網をかける」なーんて表現にはナットクしてしまう。読者なんて相当いいかげんだと思いますヨ、ホント。そんなだから、直径が1.2光年もあるSSの外殻の厚みが18キロと言われちゃうと、この感覚はせいぜい地球サイズ。200億キロでも6ケタ上。
私が小松左京に望むのは、こんなディテールにつまづく事ではなく、壮大な精神の宇宙にこの身を運んでもらいたいのです。

 

ただ、ここで“はた”と気がついた。
ディテールに溺れていたのは、ひょっとして自分自身?
この小松左京は、仮にも「果しなき流れの果に」で20代からこっち、私のイマジネーションをかき立て続けてくれた人ではないか。細かい不合理など無視して、彼の伝えたいメッセージのみ読めば良い。
そこに至って、私の気持ちは全く違うものになりました。
Ⅱ巻以降、この認識を守りながら読み進んで行きたいと思います。

 

*1 この1巻で 私と“私”、彼と“彼”という判り難い記述がありますが、基本的にオリジナルとしての遠藤秀夫、と人工実存としてのHE1もしくはHE2という区別です。2回読めば判ります(って、手間のかかる小説やなー)。

 

*2 この小説でどうしても気になる事があった。コミュニケーションのことを「コンミニュケーション」という表現。どうしてこんなところにこだわるのか。spellingでいえば「コムュニケーション」かな。カタカナの限界は限界として、普通の表現で十分だと思うけど。

 

まあ、これも含めて「伝えたいメッセージのみ読め」という事なんでしょうね。

 

 

あらすじ

目次
i1孤独-二重の死(ダブル・デス)
i2-単純な死(シンプル・デス)
序章 死を超える旅
1 “彼”
2 “SS”
3 出立

 

第一章
1i ガイド

5.8光年の彼方に突如出現した直径1.2光年、長さ2光年の円筒。

SS(Super Structure)。

 

人工知能の研究を続けていた遠藤は、ある財団のスーパーAIに関する研究の一端を担う事となる。そこで彼の論文に興味を持ってチームに加わったアンジェラと共に研究を進める。

 

ある時遠藤は、人工知能(AI)の方向では先がなく、自分の存在を自覚し自己複製のシステムを持って「魂」もトランスファーした「人工実存」(AE:Artificial Existence)が自分たちの目指すものであると開眼。

アンジェラも賛成し、彼らは結婚して同じ目標の実現に向かって研究を進めた。

だがアンジェラの目指したのは、彼女の作っているシステム「アンジェラE」に生命情報システムそのものを受け継がせ、それが発達する事によって生命の可能性そのものを高めるものだった。
対する遠藤は、「知能」は初めから生命を超えた存在として生命という制約から解き放つべきであり、AEは永遠と無限に向かって進むためのシステムだと考えていた。
対立する遠藤とアンジェラ。彼女は遠藤の子供を欲しがったが、彼は受け入れなかった。4年目の結婚記念日を前にアンジェラは交通事故で死亡。彼女は妊娠初期だった。激しいショックを受ける遠藤。

そのショックから立ち直りかけたある日、彼女が育てていた「アンジェラE」が突然アンジェラの「遺言」を語りだす。

その後遠藤は精神状態が安定するまで1年の入院生活を要した。


遠藤のAEのシステム「HE1」はその後2年かけて完成。

だが、地震によりHE1は修理不可能なほどのダメージを受ける。ある日遠藤は財団の責任者から呼ばれ、AEが恒星間飛行に耐えられるかの打診を受ける。そこで聞かされるSSの存在。
再度AEを作るのには5年近くかかる。

その後行われるSSの調査。外的情報からSSの存在目的、構成等が推定されるが本質的な部分は何も明かされない。
5.8光年という微妙な距離。毎秒5万キロの速度で片道25年。


完成して調整段階となった「HE2」。ほぼ遠藤の人格を受け継ぎ、人間同士に近い会話の中で“彼”はアンジェラEと偶然コンタクトした事を彼に話す。狼狽する遠藤。
その後の航行技術革新により有人による航行も検討され始めるが、AEによる計画はほぼオンスケジュールで推進され、ついに出発の日を迎える。出発直前に「アンジェラEによろしく」と言い残して出発した“彼”。

“彼”との定期交信は数年に1度。それ以外は思索と読書、アンジェラEとのままごと(彼女と外見を同じにしたアンドロイドか?:多分アンジェラE本体と繋がれている)で過ごした。

HE2が出発して30年あまりも経った5回目の交信で遠藤は命を落とす。SSまであと1光年を切っていた。

HE2は地球との交信を絶ち、SSへのコンタクトに向かう。

 

遭遇
SSの表面に接近しつつあるHE2。彼は長い航行の間でスーパーAIシステムの中に6人の仮想人格を形成し、各ミッションを運営する様になっていた。
クリス、アスカ、エド、デイヴ、フウ、ベアトリスの6名。
近づく金属製の物体。こちらに対して数十倍の大きさ。呼びかけに対して反応があり、交信の中で次第にコミュニケーションのデータが整備されて行く。
物体の誘導に乗って、艇はSSの表面に向かって徐々に降下する。そして艇はSSの表面を通過してさらに降下。
その後物体が多くの「仲間」を引き連れて接近。ただ、先方のシグナルは依然として友好的。
「できるだけ、愛想よく-可愛らしく迎えてやれ…・」
Ⅱへ続く―――