私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

原作 松本清張『黒い画集』より「天城越え」
脚本 羽原大介
演出 金澤友也

キャスト
大塚ハナ:生田絵梨花
     30年後のハナ:若村麻由美
田島貞藏:岸谷五朗
望月次郎:萩原聖人
     少年期:末次寿樹
土工:奥野瑛太
菊乃:岡田結実
置屋の主人:菅原大吉

置屋の女将:杏子
次郎の母・望月キヨ:篠原ゆき子
熊川刑事:波岡一喜
刃物問屋:高木勝也
菓子屋:今野浩喜
氷職人:温水洋一
呉服屋:田口浩正

感想

先日まで毎週レビューしてたので、清張モノを今後も発掘する。
2025年制作のドラマだが、最近再放送した。
天城トンネル付近で起きた殺人事件を巡る話。
「黒い画集」という7篇を収めた文庫の中の1篇だから、ごく短いもの。それをここまで膨らませるのだから、脚本にもかなりアレンジが加わっている筈。
ハナを演じる生田絵梨花がイイ。やはり少年が憧れる存在でないとドラマが成立しないし・・・少年役のコもなかなか。

母親とケンカして家を飛び出し、初めて下田の町から一歩を踏み出した次郎。トンネルを抜けたものの断念して戻る途中で、遊女ハナに出会う。その美しさに憧れを抱く次郎。
状況証拠から犯人と決め付けられるも否認を続けたハナだが、次郎の姿を見た事で彼の犯行だと確信して自供に転じる。
その後のハナの事を知らずに大人になった次郎は、のちに印刷会社の経営者となる。

田島刑事の出現は、どう考えても狙い撃ちだろう。名簿作りを頼むついでに未解決の「天城山中殺人事件」を読ませた。
そのキッカケは信州の天然氷業者から聞いた、氷の上でも寝られる方法。しかしこの田島、言うだけ言っておいて、その後の追及はなし。まあ時効案件だし、当事者に「俺は知ってるぞ」と思わせただけで十分だと考えたか。
それから警察の立場から言ったら望月に伝えるよりも、冤罪だった事をハナに謝る事の方が重要だろう。
望月に聞かれて「どこでどうしているのか」じゃねえわな。

そして望月。茨城でうんと長い砂浜というだけの情報で、本人に会えてしまうとは、全くのポエム・・・まあ実際ポエムか。
元々は美しい女性に対する憧れと嫉妬が14歳(小説では16歳)の少年を殺人に突き動かしたという先鋭的な話。余分な脚色など要らん筈だが、ドラマ対応で無理をしたか。
オマケ1
小説版の解説は以下(イイ書評ダ)

清張は、同じ地を舞台に書かれた川端康成の「伊豆の踊子」を強く意識していたという。「陽」に対して「陰」の世界。
原作では、望月が後にハナと会う場面はないが、やはりドラマとしては会わせたいよな。

田島が頼んだ原稿に対し、納期がどうでもいい実解決事件の冊子を先に届けるって何かヘンだ。


あらすじ
<前編> 7/11放送
昭和三十一年十二月。静岡県 富士市。有限会社「望月印刷所」
社長の望月次郎を訪ねる静岡県警 総務課 警部補の田島貞藏。

家出人捜索願いが出されている15~30歳女性、いわゆる赤線で働いていると思われる者の名簿を見せた。


来年四月に施行される「売春防止法」の摘発の際、身許の分かる女性を親元に帰すためのもの。なぜ辺境のここに依頼に来たかを尋ねる望月に、市内の店は皆カレンダーや年賀状で手一杯だったという田島。納期は年度末の三月だと加えた。

中味を見てから回答すると言う望月に、もう一つと言って「未解決事件捜査資料」の原稿を見せる田島。

こちらは時効案件なので納期はいつでも構わないと言った。


それだけ伝えて早々に立ち去った田島。
仕事がないのに勿体点けてと言う事務員に「気が乗らない」と返す望月。未解決事件の目次に「天城山中殺人事件」を見つける。
私が初めて天城を越えたのは三十年以上も昔。
小説「伊豆の踊子」が書かれた頃と同じ時期・・・

大正十五年三月十八日。天城山中。
下田の家を出て天城山を登る望月次郎少年。
トンネルに足を踏み入れ走り出す・・・



家業の鍛冶屋の仕事をする次郎。兄は静岡の中学に行っているのに、自分が行けない不満を母親にぶつけるが、二人もは行かせられないと返される。次郎の下には三人の妹。
そこに刃物問屋の駿河屋が来て子供らに菓子を配る。商売の話をするかと、隣の部屋に行く駿河屋。借金返済絡みの話で母親に難癖をつける。高く買って欲しけりゃ誠意を見せろと言った。



母親の呻き声を聞いて破れ障子から部屋を覗く次郎。

そこでは駿河屋が母親にのしかかって情事の最中だった。


思わず棍棒を持って駿河屋に殴りかかる次郎。

駿河屋に向って「出てけ!」と叫ぶが、母親が殴り倒し「お前が出てけ!」



何とかトンネルを通り抜けた次郎。
そこに菓子屋がやって来て「腹減ってねえか?」と訊きあんパンを見せる。くれると思ったら「一個三銭、二個で五銭」


二個買って食べる次郎に「男は夢を持て」と語る菓子屋は、女に用があると言って去った。
また一人で歩いていると、呉服屋が寄って来た。茶店で餅を食いながら、次郎の悩みを聞く呉服屋は、今は親に感謝していると言った。最後に信じられるのは親兄弟だと続ける。それ以外の他人は信じるな。その上で、ここの払いはお前だと言った。

授業料だという。十銭を払った次郎。


そんな時鞄を持った男が通りかかる。流れ者の土工だと言う呉服屋。たいていがろくでなし。「ああいう手合いには気を付けろ」



草履が擦れて足を痛め、下田に戻ろうと考えていた時、向こうから若い女がやって来た。思わず引き込まれる様について行く。


どこまで行くのと訊かれ、下田へ帰るところだと返す次郎。
一緒に行こうと言う女に「ハイ」


なぜ裸足なのかと訊くと、女はしゃがんで次郎の足をさすった。

その襟足にドギマギする次郎。

石ころ道の時だけ履けば草履も長持ちすると言って、自分のを見せた。そこからは次郎も裸足で歩く。

 

吉原の大門に居たと言う女。だが次郎には分からない。


小刀で南天の枝を切って女に渡す次郎。


生まれは茨城だと言った女。山があって、田んぼがあって、

海があって・・・あとは何もない。親に捨てられたという。
手がかじかむ次郎。その手を取って自分の胸に入れた女。

恥ずかしくなって手を抜いた。「もう大丈夫・・・」
今日まで下田から出た事がなかったと言う次郎に、好きなとこ行って好きな事をしなと言う女。「いつかきっと夢は叶う」

トンネルの前で座っている男。

呉服屋と一緒だった時に会った土工だった。先に行こうと促す次郎だが、あの人に話があるから先に行けと言う女。待ってると言っても邪険に「先に行きな!」
だが言い過ぎたと思ったのか、帯から鈴を出して持たせた。


「話が済んだらすぐに追いかける」トンネルの向こうで待ってると言って入って行った次郎。男に声を掛ける女。


そして家に戻った次郎。抱き締める母親。


再び訪れた田島に、どちらも人手不足を理由に断った望月。
天城山中殺人事件は自分が担当したと言った田島。「もう三十年以上前の、苦い思い出です・・・」



大正十五年三月十八日。大雨の翌朝、天城トンネル北側で鞄と衣服が発見された。巾着の中に金が残っていた。服に刃物の跡が。


服の背の、丸に「和」の印を頼りに聞き込みを行い、茶屋の娘の話から、遊女風の女と少年の二人連れが浮上。

同時期に氷蔵から発見された足跡が九文半(約22.5cm)だったため女の犯行と推定。

氷蔵の持ち主が来たが心当たりはない。梯子が放置されているのを見て、怒って戻した。


「若松屋」の屋号が付いた唐傘が発見された。それは木賃宿。十七日の夜に土工が来たという。泊まる金もないので一円渡して帰したという。弔いの足しのつもり。



遺体が発見されたのは三月三十一日。背中に二寸ほどの刺し傷。


少年は次郎の事だと知る警察。田島が聴取する。
菓子屋に会い、呉服屋に会い、女に会ったと話す次郎。女とは天城トンネルの手前で別れた。土工と話があるから先に行けと言われた。その晩は諏訪神社の境内で寝て、翌日帰った。



警察に一報が入る。女は大塚ハナ。修善寺「うたまろ」の酌婦。
話を訊きに行った田島。借金三百円を踏み倒して足抜けだと言う主人。

根っからの性悪女だと言う、同じ酌婦の菊乃。


四月十日。伊豆大島で料理屋の給仕をしていたハナが捕まった。


連行されるハナを見つめる次郎。
取り調べを行う田島と熊川。あの晩宿に泊まったという裏は取れている。その金六十銭はどうやって払ったかと詰め寄る。受け取った金は宿で別にして保管していた(病気持ちの怖れから)


その五十銭二枚は、錆びの具合から木賃宿の主人が土工に渡したもので間違いない。「売ったんだよ、身体を」と言うハナ。




<後編> 7/18放送
殺してないと言い張るハナはその晩留置された。翌日も続く取り調べ。二人で天ぷらそばを食べながら身の上話を始める田島。

実家は沼津の漁師で父親は海で死んだ。学校に行きながら母親と働いて稼いだ。ハナの方は十二で売られて行った。

吉原の女郎屋で下働き。十四で初めて客を取らされた後も雑用。
年季明けでも里に帰れず熱海の旅館の仲居を始めたが、宿の旦那に手籠めにされたあげく女将に叩き出された。伊東で男といい仲になったら女房が乗り込んで来た。とことん運がない。
だけど人殺しはしていないと言った。
修善寺で菊乃を刺し殺そうとした話は、相手が勝手にカンザシを盗んだといいがかりを付け争いになったもの。

結局出て来たが、親方は菊乃の味方をした。

運命は変えられないと言う女将。


その日に「うたまろ」を出たハナ。

島田が自分の推理を話す。土工を殺した後、氷蔵で夜を明かそうとしたが寒くて叶わず、宿で偽名を使い投宿した。
それでも否定するハナの前に連れて来られた次郎。驚くハナ。


「天城峠で会った人に間違いないか?」頷く次郎。
「トンネルの手前で土工と話していたのもこの人か?」頷く。
「この女が土工を殺したと思うか?」「・・・分かりません」


涙を流す次郎に「もういい」と下がらせる田島。
その後「私がやりました」と言ったハナ。



その後を話す田島。
ところが裁判では、川に捨てたという凶器も発見されず、証拠不十分として検事も控訴を断念、結局大塚ハナは無罪となった。
殺人事件の時効は十五年。あれから三十年以上経っているが、時効になれば、誰も裁いてくれない。真犯人は、自分で自分を裁くしかない。捜査の失敗を列挙する田島だが、最大のものは氷蔵の足跡を女のものだと決めつけた事だと言った。
十四、五歳の子供なら九文半でもおかしくない。だが氷蔵では寒くて寝られないのでは?と問う望月。
半年ほど前、信州で天然氷の業者と話した時に聞いたと言う。氷の上に梯子を置いて板を敷けば寝台になり、寝られるとのこと。
氷蔵の主人が、投げ出されていた梯子を片付けていた。
あの晩氷蔵に泊まったのは、少年ではなかったのかと言う田島。
また、あの時ハナは誰かを庇おうとしたのでは、とも言った。
態度が急変したのは少年を見た直後から。「どう思います?」

「分かりません」としか答えられない望月。
帰りかける田島が、仮にあの少年が犯人だったとして、動機が分からないと言った。「なぜ土工を殺したんでしょう?」


「当事者にしか分かりませんね」と言って帰って行った田島。

大事にしまってあった、あの鈴を取り出した望月。


あの時、トンネル出口から引き返した次郎。
草むらの先で、コトを終えて身支度をしていた土工。その姿が母親と駿河屋との行為に重なった。棍棒を持って土工に襲い掛かる次郎。だが力では敵わない。そこに落とした小刀が。

渾身の力で突き刺す。

雷鳴の中、土工の遺体を川まで運び、衣服を脱がせた次郎。

小刀は川に投げ捨てた。そして氷蔵で梯子を渡し身を潜める。

三十年前、私が犯した罪は時効になっている。しかし、私の罪悪感と後悔は死ぬまで時効になる事はない。

昭和三十二年三月。静岡県警察本部。
未解決事件捜査資料の冊子を納品に来た望月。受け取る田島。


家出捜索人と赤線の名簿は?と訊く。
その後の大塚ハナについて、知っていたら知りたいと聞く望月。
無罪になったとはいえ、伊豆には居られなくなり、転々としたという。今はどこでどうしているのか・・・


かつて聞いた話を思い出す。茨城で、うんと長い砂浜があった。
帰りたいけど帰れない・・・

海岸で流木拾いをする老婆。聞き覚えのある歌。
「あの・・・」と声をかける望月。


「・・・こんにちは」


「こんにちは」

この先は海ですかと訊く。靴の中が砂だらけになると言われて、裸足になって歩き出す望月。老婆も裸足になってそれに続く。


回想。



「兄さん、今はどんなお仕事を?」
「工場を経営しています。といっても小さな印刷工場です」


「えがった、夢を見つけてちゃんと叶えた。あなたは元々、社長さんになる運命だったんですよ」と言う老婆。


「人にはそれぞれ、生まれつきの運命ってもんがあるんです。生まれつきついてない人は、ついてる人の足を引っ張っちゃいけないんです」と続けた。
仕事に戻りますと言って去っていく老婆。
後ろ姿に深々と礼をする望月。


県警からの依頼の、家出捜索人と赤線の名簿について社員に指示を出す望月。故郷に帰る事の出来ない女性の力になりたい・・・
鈴の音をしみじみと聴き、涙を流す望月。