私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

新聞小説「楽園」(2)第二章「伊藤早智子」
10(6/14)~21(9/13)  朝日 新聞小説be(日曜版)連載
作:桐野夏生 画:松本春乃
レビュー一覧 

登場人物
伊藤 巧
伊藤 早智子
伊藤 絵梨佳 長女。佑の姉
伊藤 佑 長男
伊藤 モエ 佑の元妻(今は別姓)
稲本春香 早智子の元同僚
難波 早智子の元ハワイアンクラブの仲間
原草汰 SASSOのリーダー。難波の甥
水原康一郎 SASSOのメンバー。ボーカル
坂戸悠介 SASSOのメンバー。MC担当
花輪直樹 SASSOのメンバー。一番地味
南 SASSOファンクラブの元締め的存在。HN「ティアラ」

感想
第1章の章題「伊藤巧」はこの一家の世帯主だが、家族全体の事や、それまでの経緯か描かれ、巧自身の内容は薄められていた。

本章の題は妻の「伊藤早智子」であり、たまに巧が出る以外は早智子を軸にした世界が広がる。
友人 稲本春香がハマっているという「ハイブロウ」のショウに違和感を感じつつも、元ハワイアン教室で仲間だった難波に再会したことで、彼女の甥がメンバーになっているSASSOのファンクラブ改革に乗り出す早智子。彼女はどう沼にハマって行くのか・・

巧がハマるのは女子プロゴルファーの星野かな?
夫の巧、妻の早智子と来たら、次は息子の佑か。
元々彼が使途不明の金を使い込んで、妻のモエから離婚されたのが物語の発端。前章ではその使い途が不明だったが・・・
→昨日の新聞によれば次章は「伊藤絵梨佳」(姉ちゃんの方ね)

オマケ
各キャラクターの掘り下げをやっているが、週イチの連載でこれをやられるとダレる。もう少しテンポが欲しいところ。

前回挿絵のことで書いたが、ちょっとづつ内容が変化している。
      第1章          6/14~28         7/5~26        8/2~30        9/2~13

花は確かに成長してるが、地味やなー・・・


あらすじ
第二章 伊藤早智子

#10 6/14
早智子は半年ほど前、忘れられない経験をした。
いつものスーパーのエコバッグコーナーで品定めしている時「早くどけろ、邪魔なんだよ」の声。それは30歳前後の女性。反射的に「すみません」と謝った。その日は一日気分が悪かった。
思い出せば病院、映画館等で、もたついた自分が周囲を苛立たせていると感じた事は何度もある。まだ60代前半なのに?
自分は定年になるまでフルタイムで働いており、世慣れている自負があったが、最近は対面で対応してくれる場面が減り、戸惑う。道で譲っても、会釈もなければ礼もない。まるで自分が透明人間になったかの様に感じる。

絵梨佳と一緒に食事した時に、注文の仕方がおばさんだと言われた。それをきっかけに口喧嘩が始まった。結局馬鹿にした様な言葉を投げられてそれは終わった。絵梨佳は、夫の巧とも良く口論するが、両親に対して批判的になった気がする。街での経験から言っても、これがジェネレーション・ギャップなのだ。

絵梨佳は自分が独立したため、両親が寂しがっていると思っているかも知れないが、却ってほっとしている早智子。子供が独立すれば一緒にいる必要はないというのが持論。
子供が小さかった頃、フルタイムで働いても何とかやれたのは、自分の母の助けが大きかった。夫は頼りにならなかった。
それなのに、母は佑が大学を卒業した年に亡くなった。
義母と病身の父を介護し、自分たち姉妹の子の世話をし、人のために働き抜いて死んで行った。だから、私は母と違う道を行く。自分の思いは家族の誰も知らないだろう。


#11 6/21
二年前モエに「そこが甘いのね」と言われたのが燻っている。
ショックだったのは、まだ24歳の女性に、息子に甘いと詰られたこと。そうするのは親として当然のこと。それを上から目線で切り捨てられては立つ瀬がない。エコバッグ事件にしても、自分たち世代が不当に貶められている気がする。

あの時は、口を開かない佑のせいで事情を知りたかっただけ。
モエは熊本で、高校の同級生と再婚したと聞いた。佑の養育費支払い義務はなくなったが、渉との接点がなくなり、無念の巧。
36歳の絵梨佳は結婚の意思も、子を産む気もなく、佑も再婚などしそうにない。自分たち夫婦が孫を得ることはないだろう。

そんな事を考えている矢先、友人の稲本春香からLINEで食事の誘いが来た。すぐに返事をして、日にちと時間を決めた。
彼女は、勤めていた財団法人の同期。女性同期で定年まで勤めたのは二人だけ。助け合って来た同志。春香は独身。気楽でも年を取る不安はある。互いに話せて、彼女との食事は楽しみ。
店で会い、ひとしきり服装や持ち物の話題のあと乾杯。
巧のことを訊かれる。ペットロスを心配していた。渉の事がこたえているみたいと返す。予想外で、建て直すのが大変みたい。
自分で言って、そうだったのかと納得する早智子。巧は、描いていた未来が大きく変わった事に衝撃を受けているのだ。


#12 6/28
巧の生活設計だった子らの結婚や、孫を見ながら年を取ること。
「私には縁がない」と春香。「私も縁がなくなった」と早智子。
佑が結婚した時、違う惑星に行ってしまった気がしたと言う早智子。驚く春香。彼は就職後すぐアメリカ駐在。帰国後もアパート住まいで、突然結婚すると言ってモエを連れて来た。
幸せになってもらいたいが、何を考えているか分からない。
巧だったら男同士だから違うかも知れないが、最近はあまり関心がない。「冷たいね。夫婦ってそんなもんなの?」と春香。
今やっと人生を楽しめると思える。夫とは違う事をしたい。
みんな、そう言うね、と友達の例を出す春香。

絵梨佳の事を訊かれ、同じ星だけどコロニーが違うと返した。
春香の爆笑で、周囲の客が注目。
改めて、最近の若い女性が刺々しいと言う春香。早智子も同意。
ただ、彼女らの将来に対する不安にも理解を示す春香。
料理を食べながらそんな話をするうち、嬉しそうに囁く春香。
「私さ、今気に入ってる子がいるのよ」

春香がスマホを出して画像を見せた。早智子も見覚えのあるアイドルの写真。売り出し中のグループの一員。
「ハイブロウ」というグループのショウだという。
ショウと聞いて苦笑するが、春香には分からない。可愛いと言ったが、もう29だという。三カ月ほど前テレビで見ていいなと思い、姪に聞いたらチケットまで取ってくれたので、ライブに行ったという。ホテルを取るのも大変で、姪の分まで払った。


#13 7/5
楽しそうに喋る春香は、とても若やいで見えた。あなたはないのと訊かれて、最近はお酒かな?と答える。最近酒量も増えた。
互いに白ワインをお代わりする。韓流ドラマの事を聞かれるが、特に推しとかはない。単純にドラマを楽しむだけ。
十分よ、と同意する春香に、冷静な質の自分を思って苦笑。
改めて推しが居る気分を訊くと、恋愛じゃないと断言。さりとてファンだけじゃ、言葉が足りない。

ファンよりも熱を帯びる感じ。その人の存在を喜び、幸せを心から願う。我が子ほど切実ではなく「清く願う」
恋愛やセックスの対象ではなく、存在が尊い。祈りに似た願い。
「いやだ、ほとんど宗教じゃない」「まあね」と笑う春香。
まさか、春香がこんなアイドルに夢中になるとは。春香を少し遠く感じながらワインを飲む早智子。

巧との生活を改めて思い出した。だらしない姿を横目に見ながら、自分はワインの壜を持ち自室でドラマを観る。
春香が言う。アイドルとは偶像、有形でないと意味がない。そして愛情の度合いは、いくら金を使ったかだという。
さっちゃんも沼にはまらないと分からないと言う春香。
推しに夢中になるのを「沼にはまる」と言うのだという。
「怖いね」「何のなんの。楽しいよ」と笑う春香。



#14 7/12
春香と別れてから痛感したのは、根本的に生き方を変えた方がいいいかも、という疑問。海外への一人旅や同窓会への出席。フラダンスも上達しない事に焦る。趣味だと言っても、うまくならなければ面白くない。最近思い出すのは、仕事をしていた時の充実感。自由時間が欲しかっただけで、実は仕事を欲していた。
夫の巧とは円満に来た部類だろうが、これから共に何かをしようという気にはならない。巧は恐ろしいほどに無邪気なだけ。

かつて予定外の残業で、絵梨佳を保育園へ迎えに行くのが遅れた時も、巧は冷たかった。佑が発熱した時も先に出勤。子供にまつわる、あらゆる雑用が早智子に降りかかった。それらについて全く無頓着で居られたのが巧の立場。常に巧より短かった、早智子の睡眠時間に対する思いやりの言葉などなかった。

何度も事態を改善しようとして働きかけたが、言い争いに疲れていつしか沈黙。巧自身は理解しようとせず。
巧は本当の伴侶なのだろうか?との疑問は今でも消えない。
子育てが終わったと思った50代から実家の両親が続けて病に倒れ、妹と交替で看病した。その次は巧か。自分の世話は誰が?
ようやく訪れた平安の時を楽しみたいのに、この不穏な気持ち。
新たな仕事と言ってもパートぐらいしかない。「やるせない」
自分の迷いを吐き出す相手がいない。漸く孤独に気がついた。


#15 7/19
考えた末にフラダンス教室はやめ、仕事を探す事にした早智子。
駒場東大前にあるフラダンスのスタジオに行くと、若い人たちの練習風景が。見とれていると30代の女性講師が声をかける。
教室をやめるつもりだと言うと、フラはアロハスピリットを学ぶところだと言う。歌詞の意味を理解して表現するのだと続ける。
悩んでるんだと合点して、自撮りは有効だと助言。続ければ変われる。一緒に頑張ろうと言われて「そうですか」

結局引きずられる様に、続ける事になった。情けない。
駅の方に歩き出した時、自転車の女性に声をかけられた。思い出せない。相手から、最初ここの教室で一緒だった難波和代だと言われて思い出した。同じ初心者クラスだったが半年でやめた。
同世代で安心したのも束の間で止められ、落胆した覚えがある。
退会しようとしたが慰留されたと話すと、あの講師ならと納得。
せっかくだからと、お茶を誘われた。

家は隣の駅だが、たまたま用事で来たという。フラを早くやめたのは、イメージと違って、とても難しい踊りだと気付いたから。
そもそも、あのパウというスカートを穿きたかっただけかもと言われて同意する早智子。ミーハーの挫折組ねと笑う難波。
綺麗な人だなと思って横顔を見る。年齢を訊くと67歳だと言った。私より若いでしょ?よ言われ64と答える早智子。
仕事を卒業してフラダンスを始めたという、早智子の事情を良く覚えていた難波。


#16 7/26
気がつくと、二時間以上も難波と話していた。現役の主婦だと言う彼女。息子二人は家に居て上は39、下は37。
早智子も同様に自分の事を話す。子供は出たから夫と二人。
息子の離婚の事を言うと、よくある事だと軽くいなす。
最近の子育て男子の話で盛り上がる。そうしないと少子化も止まらない、と言う早智子に大いに同感。やがてフラダンスの話に。

始めてみたものの、中腰の基本姿勢が辛かったと言う難波。同意しつつ、他に何かしているか訊く早智子。何もしていないとの返事。逆に訊き返されて、十分休んだから仕事でもしたいと言う。
しばし考えていた難波が、ボランティアに興味があるか訊く。
自身の甥が音楽グループに居るが、そのファンクラブで内紛があり、事務が滞っているという。自分も手伝っているが、パソコンを知らなくて役に立たない。春香が言っていたグループ名を思い出す。「ハイブロウ」みたいな?」申し訳なさそうな難波。

そんな大メジャーではないと言う。「SASSO」という、昭和歌謡で売り出しているグループだと言った。最近の曲は「僕はひとりぐらし」というものらしいが、もちろん早智子は知らない。
そのファンクラブで何かが起きているらしい。
「私でできる事なら、やりますけど」少し心が躍った。
無給だから頼み難いと言う難波を前に「その前に」とスマホで「SASSO」を検索した早智子。
タキシード姿の4人。目立つ2人と普通の2人。普通の中で地味な方を指さした。「この子が甥なのよ。弟の息子なの」


#17 8/2
年齢を聞くと42だと言った。飄々として印象は悪くない。
住まいは大阪だったが大学は東京で、難波の家と近しかった。会社辞めて歌手になったのを応援しているが、今一つ芽が出ない。
ファンクラブの実態を教えて欲しいと聞く。運営は事務局がやっているが、掲示板の管理が問題だという。ファン過ぎるのも考えものだと続けた上に、弱気になった。その言葉の意味を聞く。

それは「えこ贔屓」だという。最近滅多に使わない言葉。
自分の好きなメンバーだけ特別扱いしたり、誹謗中傷したり。
それが会長なので辞めて下さいとも言えない・・・
それを聞いて怖気づく早智子は辞退した。
とりあえずインスタグラムや事務所ホームページ、SASSOの歌などをネットで見てから検討する事として、難波とは別れた。
帰り、フラダンス教室に寄り、退会届を出した。

スーパーで買い物をして帰ると、巧はソファに寄りかかって相撲中継を見ていた。元々嫌いなのに、何となく見ているらしい。
食材を置きながら、渉はどうしてるだろうと声をかけた。
もう四つになる。熊本まで会いに行こうかと言ったら、盗撮して来ればいいかと言い出す巧。ふと難波の甥の事を思い出した。
甥のことを今でも追いかけて居られる。自分たちは、渉の成長した姿も見られない。「道ですれ違っても分からないかもね」
同じ考えを巧が口にしたので、びっくりした。



#18 8/16
渉が生まれた時、せめて社会人になるまで見届けたいと願った。
佑はそんな事、考えないのかなと巧は言う。暗い顔を思い出す。
離婚騒動以来、息子なのに良く分からなくなった。
絵梨佳も結局家を出たし、自分の道が優先されるのだろう。
「寂しいよな」ぽつりと言う巧。一緒に熊本まで行って会う?と訊いても、佑でさえ許されないのに無理だと言った。「それにモエさんのダンナに申し訳ない」
他人には思いやりがあるのね、と逆襲。怪訝な顔の巧。

巧と白ワインを飲んで、簡素な夕食を終える。
「SASSO」のファンクラブの仕事を頼まれていると話す早智子。
巧はその名を知らなかった。簡単にいきさつを説明した。
仕事って、いくら貰えるんだ?との問いに「多分、ただ」
肩を竦める巧。論外だと言われた気がして、意地でもやってみようかとの思いが湧く。巧が風呂に入った時にパソコンを立ち上げて、SASSOを検索した。

アイドルにしては高齢なので、ファンも中高年女性が多い様だ。
リードボーカルは水原康一郎。元板前。短髪で一番人気。
MC担当の坂戸悠介。元声優。難波の甥は原草汰(そうた)。年長なので彼がリーダー。元会社員とある。
最後に、一番地味なのが花輪直樹。あの「花輪君」を思い出すが、暗い雰囲気。元フリーターで、年齢も38歳と一番若い。
ホームページは古めかしくて魅力なく、YouTubeで曲を聴いても昭和歌謡のパクりの様。メンバーの誰にも興味が湧かず。


#19 8/30
やはり、やめようと思った矢先に難波の方からLINEが来た。
甥に話したらとても喜んでいたとの由。少し考えさせてと慌てて返信。間髪を入れずに返事が。来週ミニライブがあるという。
断われなかった早智子。場所は埼玉の外れの市民センター。
当日は雨。一時間半かけて現地に行った早智子。二列目のパイプ椅子に座っている難波。遠くまでごめんなさいと謝る。
最前列がファンクラブのメンバーだと言った。中央の青ワンピースが件の会長 南。その周りが取り巻き連中。

南は、化粧の濃い大柄な女性。自分と同年配の様だ。彼女は水原康一郎の大ファンだという。運営は事務局がやるが、問題は掲示板。今日のライブもきっと勝手に動画を上げる。事務局も苦慮。
私の手には負えません、と言う早智子の手を取る難波。掲示板を閉じたくても、南の反対で閉じられないという。

司会の女性が喋り始める。聴衆も百席ほどがほぼ埋まっている。
拍手と共にメンバーが現れた。難波の甥 原草汰が目配せ。
MCの坂戸悠介が喋りを始める。田舎のキーワードで盛り上げ。
笑いが起きる中、南が「キャー、また生理始まっちゃうー」
品の悪い掛け合いは定番の様だ。無言の花輪が槍玉に上がる。
そんな前フリが終わって歌謡ショーが始まる。完全に昭和のムード歌謡。間のコントを挟み、45分ほどでステージは終わる。
「この後、握手会」と難波が囁く。


#20 9/6
握手会と言ってもCD購入等は必要なく、並ぶだけでいい。水原と坂戸の前には長い列が出来ていた。原はその2/3程度。花輪は更にその半分。差があるのは南が意地悪をしているからだと難波が言う。彼の雰囲気がSASSOに相応しくないと公言している。ただ創立以来のファンでCD購入も多く、事務所も何も言えない。このままだと抜けてしまう恐れもある。
掲示板で勇気付けるのも、南の反応が分からないからと止める。
難波と共に原の列に並ぶ早智子。原が難波に笑いかけるが、彼女が親戚だというのは内緒だという。小声で紹介された早智子。
承知している様子の原は、自然に右手を差し出して挨拶した。

真摯な言い方だった。去り際に「お手伝いしてくださると助かります」と小声で言った原。頷く早智子。
花輪に並ぼうかと言うと、目立つからやめてと返す難波。早智子の正体が分からない方がいい・・・
帰り道でSASSOの事を話す難波。事務所社長は女性で弱小。
南の生き甲斐はSASSO、というより水原と共に生きること。
南のご主人は医者で、大病院を経営しているとか。金持ちであるところも他のファンが敵わない点。ファンクラブの会員数は、後で甥から連絡させると言う難波。秋葉原で彼女と別れた。

帰宅すると、巧がリビングで立ったまま発泡酒を飲んでいる。女性ゴルファーの緊迫した場面で、たまらず立ったのだと言う。
行き先を訊かれて「ちょっと友達に会いに」と返す。ファンクラブの件を引き受けたとは、今後も言わないだろう。
「へえ、それはよかった」と上の空で返す巧。


#21 9/13
そのうちに「ああー」と巧の溜め息が聞こえた。星野という若い女性プロゴルファーが、パットを外したという。
駅前スーパーで買った総菜を食卓に並べた早智子。今日は料理をする気がしない。巧は文句を言わないので助かる。
早智子が、あの選手にもファンクラブあるのかしらと訊く。絶対にあるとの返事。そして明日、千葉まで観に行こうかと言い出し、一緒に行かないかと誘った巧。「ごめん、行かない」
後々、早智子はこの会話が分岐点だったと思い出す事になる。

入浴後、早智子はSASSOのホームページからファンクラブに入会した。入会金は五千円。これで掲示板に入れる。
早速今日のライブ映像が上げられている。投稿者は「ティアラ」さん。これが南本人のようだ。投稿を読むと、ティアラ自身が悪口を投稿しているのではなく、彼女の取り巻きが意を汲んで行っているようだ。そうこうするうち知らない番号から電話が。
やや躊躇のあと出ると、原草汰からだった。叔母の難波から番号を聞いたという。質問があればとの問いかけに、ファンクラブの会員数を聞くと、二千人ほどだと言った。掲示板か荒れたこともあって、辞めた人も多いと続ける。

予想より少なかったことに驚く。
思った通りティアラが南だった。マネージャーが提示板の管理人ではあるが、南から金を貰って便宜を図っているという。
いつか紅白に出たいという夢を話す原だが、内紛やってる様では遠い夢だと言う。「そんな、頑張りましょうよ」
いつしかSASSOをメジャーにするのだ、と思っている自分に気付き苦笑。この時はまだ正気だった。