改めて、財務省は来年度にPB黒字化目標の期限が切れることを受け、財政「目標」を財政収支黒字化に切り替えようとしています。
PB黒字化と財政収支黒字化の何が違うのかといえば、
◆ PB:政府の「国債利払費」を除く政府歳出と歳入(厳密には税収・税外収入等)の収支
◆ 財政収支:政府の国債利払費を含む政府歳出と歳入の収支
になります。
財政収支の黒字化は、PB黒字化以上に強烈な緊縮財政です。何しろ、財政収支が黒字化すると、国債発行残高が減少することになります。
そして、財務省は目標を切り替えるために、日銀の政策金利引き上げを活用し、
「これからは国債の利払費が上昇する。PB黒字化など甘い。これからは財政収支の黒字化を目標にしなければならない」
というレトリックを使っています。
とはいえ、政策金利と国債金利(長期金利)で解説した通り、政策金利と国債金利は異なります。
政策金利は、銀行間決済の日銀当座預金の貸し借りの際の金利(無担保コール翌日物)です。日銀当座預金の貸し借りは我々とは無関係の「世界」の金利です。
もっとも、政策金利は短期プライムレートに影響します。短期プライムレートが上昇すると、住宅ローンの変動金利が上がる(上がるでしょう)。
それに対し、住宅ローンの固定金利は長期国債金利(十年物国債金利)と連動します。というわけで、政策金利が上昇し、国債金利が下がると、「住宅ローンの変動金利は上がるが、固定金利は下がる」
ということがあり得る。そして、それが実際に起きている。
つまりは、そもそも「日銀が利上げをしたから、国債金利が高騰する」といったレトリックには無理があるのです。何しろ、国債金利と政策金利は直接的な関係はないのです。
とはいえ、多くの国民・政治家はそんなことは知りもしないため、
「日銀が利上げしたから、これからは国債金利が上昇する。財政目標は財政収支黒字化にするべきだ」
というレトリックに騙される。
『[社説]次の首相は規律なき予算膨張に歯止めを
2025年度の予算編成が本格化する。規律なき歳出の膨張に歯止めをかけ、新たな成長につながる「賢い支出」を徹底しなければならない。次の首相が避けて通れない課題だ。
財務省は8月末に来年度予算の概算要求を締め切った。一般会計総額は117兆円を超し、2年連続で過去最大となる。
110兆円を上回るのは4年連続だ。新型コロナウイルス禍で常態化した予算の水ぶくれが、抑制される兆しは今のところない。
来年度の予算編成は、これまでと大きく異なる環境下で進む。日銀が利上げを開始し「金利ある世界」が現実になっているからだ。
財務省は今回の概算要求で、元利払いにあてる国債費を29兆円弱と見積もった。過去最大だった24年度予算比で7.0%増える。日銀の利上げを受け、利払い費が大きく膨らむとみているためだ。(後略)』
よくもまあ、ここまで出鱈目を平気で書けるものだ。
何が「金利ある世界」だ。元々、民間経済において金利はある。マイナス金利だったのは、我々と無関係な銀行間決済の日銀当座預金の貸し借りの金利です。
国債金利は、もともとあった。財務省にとっては許しがたいことに「世界最低」水準ですが。
【主要国の長期金利の推移(%)】
http://mtdata.jp/data_92.html#syuyoukoku
完全に財務省の御用新聞と化した日経新聞は、政府の予算増を「水ぶくれ」などと表現していますが、他の国と比べたことあるのか!
【2023年の主要国の政府支出対2001年日(倍)】
http://mtdata.jp/data_92.html#seifuyosan
日本の政府支出は確かに増えていますが、二十一世紀に入ってから1.38倍になったに過ぎません。
対するアメリカは1.82倍。主要国の中で日本よりも政府支出が増えていない国は、ドイツ、イタリアだけです。
ドイツは経常収支の黒字が(EU、ユーロによって)異様に多いため、政府支出を増やす必要がない。イタリアは、ユーロ圏で財政破綻(します)が取りざたされた結果、緊縮財政を強いられた。
それに対し、日本は主権通貨国でありながら、政府支出を絞り込んだ。結果、GDPが成長しなかった。
データが「事実」を示しているにも関わらず、財務省や日経新聞は「国債金利が暴騰する!」「日本の財政は水ぶくれ!」と煽ってくる。
いい加減にしろ。
国債金利や政府の支出増が問題だというならば、とりあえずアメリカに言え!
「アメリカに言えよ!」