尚、ピンクのポンポンの時計は、今も去年の夏のソロツアーで止まったままなので、登場人物が過去の出来事を考える時、1年の時差が生じますので、ご了承下さい。
泣きながら走って、地下鉄に乗った。
夕方のラッシュ時なのに、私の周囲だけは、座っている人達を除いて、空間ができていた。
涙も泣き声も止めることが出来ず、化粧も落ちていることは想像できた。
いつものことだけど、慣れることが出来ないし、聞き流すことが出来ない。
休日出勤が無いだけマシなのかもしれないけれど、毎日、二時間以上のサービス残業が当たり前で、それより早く退社しようとすると、お説教が済むまでは帰れない。
有給は基本、使えないし、体調を崩して休んだ後は、半日、一対一でのお説教が狭い面談室で待っている。
同じことをしてイヤミを言われるのは私一人ではないけれど、誰もが陰で嘆き合っていた。
彼女のことを、生まれつきの気質と言う人も居れば、結婚していないからだと言う人も居る。
人によっては、あの性格だから恋人も出来ないと、堂々と断言。
私はこの意見に一票を投じたい。
二日連続で、あの時間に耐える勇気も覚悟も持てないので、初日だけ参加することにした。
でも、幸いなことが二つある。一つは、誰もが『お互いさまだから……』と、鬼が不機嫌になることを受け流してくれる。
もう一つは、『嫌がらせに負けずに頑張ろうね!』と、互いに気を遣って励まし合っていること。
営業の仕事はノルマをクリアすれば問題無い筈なのに、私達は彼女に何を求められているのだろう?と、とよく考え込んでしまうことがある。
一駅毎に気持ちが落ち着いて、やっと鞄の中を覗く余裕ができた。鞄の中には、着替えのTシャツとオペラグラス。ピンクのポンポンはTシャツでくるんでいる。
乗換駅のホームで電車を待つ間、Tシャツを鞄から取り出して、少しだけピンクのポンポンを見た。
予想通りの遅刻入場だけど、十五分程度の遅刻で済みそうだった。ちゃんと入場してコンサートを楽しんだ後に、半日もお説教に費やされるよりは、どんなに長くても三〇分弱のお説教の方が、私にとってはマシだと思う。
化粧は落ちてしまったけれど、どうか、席に着くまでには、いつものコンサートの時の様に、ちゃんと笑顔を取り戻せています様に!