ピンクのポンポン★80(80-100)
※阪神・淡路大震災を源とする物語(フィクション)です
尚、ピンクのポンポンの時計は、今も去年の夏の代々木体育館で止まったままなので、登場人物が過去の出来事を考える時、1年の時差が生じますので、ご了承下さい。
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おばさんの話に納得できなかった私は率直に訊いた。
「何で、犬と一緒やと、あかんの?」
「犬だけやのうて、生き物があかんのや。動物、嫌いな人もおるからなあ」と言い、私が手を離したシェパードの頭を撫で始めたのだった。
「赤ちゃん、泣いただけで文句言う人も居る(おる)」
私は口を尖らせて言った。
「いろんな人が居るから。皆、しんどいのは一緒やけど、子供や孫が死んだ人には、赤ちゃんの泣き声が聞こえただけで、腹立つんかもしれへんな。おばちゃんも、このコ、死んどったら、『ペットなんか連れてこんといて!』って、文句、言うとったかもしれへん」
私を納得させようともしなければ、困っていることを訴えている訳でもない、そのおばさんの言葉が、すんなりと小学校三年生だった私の心に入ってきた。
父は、避難先である小学校の体育館を早朝に出て、電車が動いている駅まで歩いて向かうという通勤を始めていた。勿論、帰宅は暗くなってからで、殆ど話はできない状況だった。
翌朝、私は久しぶりに、父に向けて、
「パパ、行ってらっしゃい」と声を掛けた。父も母も驚いたけれど、父は笑顔で、
「行ってきます」と言い、手を振って、まだ暗い体育館から出かけて行ったのだった。