ピンクのポンポン★80(80-99)
※阪神・淡路大震災を源とする物語(フィクション)です
尚、ピンクのポンポンの時計は、今も去年の夏の代々木体育館で止まったままなので、登場人物が過去の出来事を考える時、1年の時差が生じますので、ご了承下さい。
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「知っとう。学校の帰り、何遍か見たことある」
そう言うと、私は小さな歩幅でシェパードとおばさんに近づいて行った。犬まであと2mくらいの距離になると、おばさんはお座りをさせていたシェパードの身体に寄り添うようにしゃがみ込み、犬の首輪を握った。
恐る恐る頭へてを伸ばそうとした私に、
「頭じゃなくて、首の下辺りから撫でたって」と声を掛けられたので、噛まれるのではないか?と戸惑っていると、
「じゃあ、顔は上、向かせるわ」と言い、犬の首に腕を巻いて、顔の向きを変えてくれたのだった。
最初、人差し指と中指しか犬には触れていなかったけれど、犬が全く動いていないことに気付くと、私は少しずつ、犬に触れる手の範囲を広げていった。
「可愛い」
「ありがとう。頭も撫でてみる?」と訊かれたので、大きく頷くと、犬の首に巻かれていた腕が外された。
また、人差し指と中指の指先2本から頭に触れていた手が、掌全体で撫でるまで、あっと言う間だった。
「可愛いし、大人しいんやな」
私がシェパードの頭を撫でながら言うと、
「でも、犬やから避難、できひんのやで。せやから、おっちゃんとおばちゃんが交代しながら、車で寝とんや」と、おばさんは返事をしながら、犬の背中を撫で始めた。