※阪神・淡路大震災を源とする物語(フィクション)です
尚、ピンクのポンポンの時計は、今も去年の夏の代々木体育館で止まったままなので、登場人物が過去の出来事を考える時、1年の時差が生じますので、ご了承下さい。
その日、父はまた戻って来なかった。私達家族はおばあちゃんの新しい陣地となった所で共に夕飯を食べた。
壁際の方が外からの出入りには楽だけど、明らかに気温が違っている様に感じた。それに、南側の体育館なら晴れた日の昼間は気温が上がるけれど、北側は一年中、太陽の光が当たることはない。
母がおばあちゃんの居場所の気温の低さを気遣ったけれど、
「お宅からもろたカーテンもあるし」と笑ったけれど、また咳をした。既に、看護師さんのボランティアも来てくれていて、ごおばあちゃんも様子を見て貰ったけれど、風邪と診断されて終わりだったとのことだった。
小学校の体育館には、通院で治療中の人達や持病のある人達も居たので、そこまで看護師さん達の目がゆき届かなかったのかもしれない。
母は私達家族と共に寝ることを提案したけれど、
「小さい子供にうつしたら、大変や」と、キッパリと断られた。そして、他の年輩の方達も咳をしたり、鼻水をかむ音が聞こえていた。
その夜、おばあちゃんの咳は昼間よりもひどくなっていた。母が念の為にと額に触れると、発熱している様子は無かった。
私と妹は暗い体育館の中で、おばあちゃんから貰った縫いぐるみで遊んだ。単純に二匹の犬の縫いぐるみの顔や身体をくっつけたり、床を散歩させたり、互いの顔や身体に縫いぐるみをくっつけたりというだけのことだったけれど、何となく気持ちが晴れたのだった。
ただ、妹を驚かせたくて、私が父の会社の人から貰ったお菓子は誰にも知られずに、母が隠し持っていることは内緒にしていたのだった。