※阪神・淡路大震災を源とする物語(フィクション)です
父が部屋を出て行った後、母は、
「暫くは、布団の上から出ないでね」と言ってから、黙って、私と妹にセーターを着せてくれた。母も恐怖のせいか、とても怖い顔をしている様に見えた。私も妹も最初は怖くて声も出なかったけれど、妹が泣き始めた途端、私も心の糸が切れてしまったせいか、大きな声で泣いてしまった。
母は自分がセーターを着ることも忘れて、私と妹を抱きしめてくれけれど、それでも芽生えた“恐怖心”が落ち着くまでに時間がかかった。
外から父の声が聞こえて、同じく外へ出てきた近所の人達と何かを話している様子だった。
やっと父が懐中電灯を手に部屋へ戻ると、瓦が落ちたり、傾いたりしている家もあったけれど、
「ほんまのところ、とないなっとんか、よう分からんわ」と言い、懐中電灯と共にとってきた小さなラジオのスイッを入れた。
地震速報が放送されていたけれど、内容は大阪のことばかりで、神戸の事は何も放送されなかった。
「震源、どこや!」と怒鳴った後、父はラジオのスイッチを消した。
「電話は?」
母が、JRの線路の海側に住む祖父母を心配して声を掛けたけれど、
「受話器、持っても無音や。携帯で掛けたけど、呼び出し音が鳴っとっただけやった。明るうなったら、行ってくるわ…… 外も停電しとるから、ママも布団の中、入っとき。寒いでし、暖房、いつ使えるようになるか、分からんからな」
そう言うと、父は掛布団を座っていた自分の身体に掛けた。母は父に促されて、やっとセーターを着ていないことに気付いた様だった。
時折、小さな揺れを感じつつも、外が明るくなってきたことで、震災の朝はまだ安心感があった。瓦が落ちたり、傾いている家があっても、ウチは大丈夫だという安心感があったからかもしれない。
着替えを取りに行くため、寝室へ向かった母が、大きな声で悲鳴を上げた。
「パパ、来て!」
父と共に部屋を出た私と妹の前にも、両親の寝室が目に飛び込んできた。母のドレッサーが倒れて、テレビは母のベッドの上にあり。テレビ台は部屋の隅でひっくり返っていた。クローゼットの扉が開き、クロゼットの中の物が床に転がって、ハイチェスト(箪笥)も父のベッドの上に倒れていた。
「向こうの部屋、行っといて」
父が母と私達を、元の部屋へ戻すと、一人、寝室の中へ入って行った。暫くすると、今度は子供部屋の扉を開く音がして、
「何や、これは!」と、父が大声を上げた。
母と3人、子供部屋へ向かうと、父が立ち尽くしていた。窓側にあった私の机が窓にぶつかった様で、窓ガラスが割れて、床にガラスが散乱していた。そして、本箱もチェストも二段ベッドも倒れていて、足の踏み場も無い状況になっていた。
「子供らの着替えは後やな。二階、見てくる」
そう言うと、父は子供部屋の扉を閉めて、一人で二階へ降りて行った。
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