❀ トラウマ ~犯罪被害 ❀ | ぴかるんのブログ

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ピンクのポンポン


ピンクのポンポン★78



 「大丈夫だから、行ってらっしゃい!」
 母に背中を押される様な形で家を出た。

 原因は去年の秋だった。コンサートの帰り道、いつもの様に駅から歩いて帰る途中、自転車に二人乗りをしていた男性4人組から、引ったくりの被害に遭ってしまい、その後、暫くの間は、仕事帰りの時でさえ、家族に駅まで迎えに来て貰っていた。

 警察の対応はひどいもので、近所コンビニへ駆け込んで住所を教えたのに、場所の特定に随分と時間を要した。おまけに、この距離で?と思う位に近いのに、到着に時間がかかった。
 現場検証が始まってから、通りかかった男性が情報提供してくれたが、服装が犯人と一致していて、そのことを伝えたにも拘らず、名前も住所も電話番号も訊くこともなければ、荷物が破棄されていたという現場へ連れてゆくこともせず、そのまま解放してしまった。

 その男性は浮浪者が、盗られた荷物をあさっていたと証言していたけれど、浮浪者なんて見かけたことも無い所なので、先程の男性の話がおかしい!と伝えても、完全にシカト状態だった。
 おまけに、こんな所(住宅街の細い路地)を一人で歩いている方が変だとか、こんな道を歩いているから、引ったくりに遭うって当たり前だとまで言われた。

 その後の事情聴取でも、
 「私は聞いてませんでしたから」とか、
 「私、聞いてないので」
 「今、来たばかりなんです」他、私は何人もの私服警官に同じことを話すことになった。しかも、一人で何度も同じこを訊いてる人まで居て、さすがに、泣きそうになりながら、
 「ちゃんと、聞きながらメモして下さい」と訴えた。

 街灯の方向の関係で顔を見ていないことは何度も伝えたのに、顔の特徴を訊かれたりもしたし、一番、最悪だったのは、破棄された荷物を、鑑識が来る前に素手で触れて注意を受けて、ヘラヘラ笑っていた警察官が居たことだった。

 「殺人事件でないと、警察官って頑張らないんだ……」と、かなり気持ちが落ち込みながらも、犯人4人の服装や体格等は可能な限り説明した。
 なのに、被害届を出したいと告げると、露骨にイヤな顔をされた上に、
 「受理はしますけど、犯人、捕まらないですよ」とまで言われた。

§☆§★§☆ ▽⌒⊥⌒▽ §☆§★§☆§

 タッキーには何もされていないけれど、
 「タッキー絡みで出かけると、また何か起こるのでは?」という恐怖が芽生えてしまっていたし、場所や時間を問わず、自転車の音が聞こえると、恐くて、避ける様になっていた。
 おまけに、その症状は今も消えていなくて、極端に避けてしまうせいか、昼間は、逆に不審がられることもあった。

 自分が自転車に乗っている時は平気でも、歩いていて自転車が来ると、女性や子供が乗っていても、とにかく恐くてたまらない。ずっと、そんな状況だった。
§☆§★§☆ ▽⌒⊥⌒▽ §☆§★§☆§

 半年後、犯人が捕まったと警察から連絡が入り、改めて裁判に使う調書の確認に行った。
 この時の担当者は、事件の時に現場で見なかった人だったけど、また不快な思いをするだろうと、かなり警戒をしていた。

 でも、この時の刑事さんはちゃんと話を聞いてくれて、
 「何か、被害に関することで、訴えたいことはありますか?」と訊かれたので、事件に遭って以来、歩いている時に自転車が近づいて来ると恐いので、そのことを伝えたいけれと、無理ですよね?と訊くと、
 「いえ、大丈夫です。それから、引ったくりに遭われた皆さん、同じ様な状況に陥られてますから、ちゃんと書き加えましょう」と言って下さり、本当に私が伝えた言葉のままを記載して貰えた。
 ただ、犯人の数が4人から3人に減っていたことには、納得できなかったけれど、別件で逮捕された3人全員が、
 「3人でやりました」と断言したとのことで、この件だけは、話をひっくり返すことができなかった。

 結局、犯人の数は諦めて、私は記載されて内容に、一応の形で納得し、署名捺印した。

 その後、私は自分の記憶がどこまで正しかったのか?を確認したかったので、犯人について少しだけ質問をした。
 すると、やはり、私の見た通り、16~20歳のゾーンに犯人3人が該当していた。肩のラインで未成年だけど、身長がそれなりだったので、犯人の年齢層を16~20歳と訴えたのに、
 「顔は見ていなかったんですよね?」と、被害届を出す時に、私の話は聞き入れて貰えなかった。

 中学や高校時には分からなかったけれど、ジャニーズのステージに立つ人達の『年下の割合』が増えると、スポーツをやっていたかどうか?ではなく、年齢で肩のラインや胸の厚さが違ってくることが分かっていたので、『犯人の年齢層を16~20歳』と訴えたのに、聞き入れて貰えなかったのだった。
§☆§★§☆ ▽⌒⊥⌒▽ §☆§★§☆§

 犯人が捕まっても、気持ちは晴れなくて、お正月の舞台や春の桜の舞台と同様、まだタッキーに遭いに行く気にはなれないでいた。
 そして、心の中では、
 「もうすぐ、2年ぶりのソロコンサートがあるのになぁ……」と考えていた頃、夕飯の後で、母からコンビニの封筒を手渡された。
 中にはタッキーのコンサートチケットが1枚だけ入っていたので、驚いた。
 「まだ無理だよ……」
 私は受け取った封筒を母の手元に置いた。

 「どうせ、いつかはまた出かけるようになるんだから、さっさと行ってらっしゃい! あの事件の日まで、小学校の時から20年も、一人で歩いても何も無かった道なのよ。タッキーが悪くないことらい、分かってるんでしょ? だったら、とにかく一度だけ、頑張って行きなさい!」
 珍しく、母を怒らせてしまった様だった。
 「分かった、考えとく」
 そう言い置いてから、私は封筒を手にダイニングテーブルを立つと、母が言った。
 「ちゃんと、楽しんできてね」
 急に柔らかくなった口調に、私が振り返ると、母は知らん顔で食事を続けていた。
§☆§★§☆ ▽⌒⊥⌒▽ §☆§★§☆§

 迷ったけれど、今日、私はここへ来た。あの日と同じ様に、ピンクのポンポンを持参して。
 久しぶりにタッキーに会えるのに、帰り道のことの方が気になっていた。そして、
 「今日は無事に帰り着けます様に!」という言葉を心の中で何度も繰り返しながら、私はピンクのポンポンを強く握りしめて、開演の時を待っている。


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{ 明日、 1/4~
1話を分割して更新します
最近、わざと細かく書いているので、
さすがに時間が…(^^;)\  ]