先日、メール文面の「夜分失礼いたします」についてGoogleフォームでアンケートを取ったところ、一週間で63名の方からご回答をいただきました。大変ありがとうございました!

結果は以下の通りです。
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問1 あなたは自分が「夜分」と思う時間帯にメールを送信する際、メールの冒頭に「夜分失礼いたします」、「夜分恐れ入ります」、「夜分申し訳ありません」など、「夜分~~」という前置き表現を書きますか。

1 必ず書く        15 (23.8%)
2 ときどき書く        21 (33.3%)
3 たまに書く          9 (14.3%)
4 全く書かない      18 (28.6%)


問2 問1で1~3と答えた方への質問です。あなたが「夜分」と思う時間帯とはだいたい何時以降ですか? 回答50件

18時以降       0(0%)
19時以降        4(8%)
20時以降     13(26%)
21時以降     13(26%)
22時以降     14(28%)
23時以降       4(8%)
0時以降         1(2%)
1時以降         0(0%)
2時以降         0(0%)
その他(親しい人は22時以降、そうでない場合
は21時以降)    1(2%)


問3 問1で1~3と答えた方への質問です。「夜分~~」と書くときの心理として最も近いものを一つ選んでください。 回答46件

1 「おはよう」や「こんばんは」と同じく、時間の挨拶として書いている。                                       1(2.2%)
2 メールの着信音などで迷惑をかけるかもしれないことへの配慮として書いている。                    40(87%)
3 自分が夜遅くにメールを書いていることを相手に知ってほしいと思って書いている。                  2(4.3%)
4 何も考えずに習慣で書いている。0(0%)
5 その他                                 3(6.5%)

〔注釈〕「その他」の自由記述欄に記載された3件はいずれも「夜遅くのメール送信するは相手に負担をかける」という趣旨の内容だったので、発問者の解釈では2に含まれる。
 

問4 問1で4と答えた方への質問です。メールに「夜分~~」と書かない理由として最も近いものを一つ選んでください。 回答17件

 

1 自分が夜に送信しても、相手がどの時間帯に読むかはわからないから。           11(64.7%)
2 ヘッダーに送信時間が出るのでわざわざ自分で時間を言う必要がないから。               0(0%)
3 自分が夜遅くにメールを書いていることをアピールしているみたいでいやらしいから。    0(0%)
4 そういう表現を使う習慣がないから。2(11.8%)

5 その他          4(23.5%)

〔注釈〕「その他」の自由記述欄に記載された4件のうち、「メールは読みたい時に開くもの」という趣旨の1件については1に含まれると考える。他に、「夜はメールを送らない」という趣旨が2件、「メールは単なる通信手段なので、用件しか書かない」が1件。

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ここからはアンケート結果に対する私自身の総括です。

私自身はメールに「夜分失礼いたします」と書いたことが一度もありません。それなのに、そういうメールを多く受け取るようになったので、そのギャップを調査してみたいと思ったのが問題意識の始まりです。

 

私自身が「夜分失礼いたします」を書かない理由は問4の1です。つまり、メールというのは電話と違って時間に関してニュートラルだと思っているからです。電話の場合は深夜に電話をかければ相手も深夜ですから迷惑がかかります。しかし、メールの場合は送り手側が深夜でも受け手が読むのは朝かもしれない、昼間かもしれない、いつ読むのかわからないので、自分の側の時間をアピールする意味がないというか、不自然だと思うのです。

別件ですが、オンライン授業のための講義動画を収録します。その際、収録するのがたまたま夜だったとしても、「皆さん、こんばんは」とは言いません。言ったとしても、大した問題ではないのですが、昼間に視聴した学生は「あ、この先生、夜に収録したんだな」と、講義と関係のない不必要なことに意識を向けさせてしまうのがもったいないなと感じるのです。それと同じ感覚です。

 

最近、「夜分失礼いたします」のように書かれたメールが増えたと感じていますが、正直に申しますと、そのほとんどが学生です。全部と言ってもよいかもしれません。社会人以上ではほぼ皆無のように思います。それで若い学生の心理が知りたかったのです。

 

最近一つ気づいたことがあります。実は今年のコロナ禍になってから、学生との通信手段としてLINEを始めたのですが、LINEのメッセージが着信すると、「ピコピコ」という音が鳴るのですね。メール送信の場合は着信音などというものはないと思うのですが、ひょっとしたら若い人の間では着信音が出るように設定できるのかもしれない。それで、自分がメッセージを送った瞬間に相手の近くで「ピコピコ」という音が鳴って、迷惑がかかると思っているのかもしれない。そのような推測から設けたのが問3の2でした。多数の人がこれを選んでいたので、ある程度は私の推測は当たっていたようです。

 

私自身はスマホでも音が出ないように設定しているし、ましてパソコンは就寝時はシャットダウンしているので、着信音は全くありません。したがって、自分が次にメールを読もうとしてメールソフトを開くときまで着信していることに気づきません。しかし、若い人たちはもっとせわしない、通信に追われた日々を送っているのかもしれません。

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以下は、問5の自由記述欄への回答からいくつか抜粋してコメントを添えたいと思います。回答には番号を添えます。

 

①昔は、メールのあいさつでは「こん○○は」という表現が使われていましたね。
[コメント]確かに、電子メールという文化が定着し始めた初期の頃、たぶん1990年代によく使われていたと思います。もちろんインフォーマルな文脈に限りますが。要は、読み手が昼なら「こんにちは」、夜なら「こんばんは」と値を入れて読んでくださいということですね。メールという通信手段は送り手と受け手のあいだにタイムラグがあるという認識が強かったのだと思います。

 

②私は50代中間ですが、この「夜分に・・」を冒頭につけてメールを送って来られるケースはこの数年で増えたように思います。それも40代前半よりお若い方々です。
[コメント]若い方に多いというのは私も同感です。

 

③大学生です。大学の授業を担当している先生にメールを送る際、書くべきかどうか迷い、ビジネスメールの世界ではどうなっているのかと気になり、インターネットで調べた所、書くべきであるとの主張が多く、それに準拠している、というのが私の状況です。
[コメント]就職のための企業訪問やOB訪問などでメール連絡の必要があるときは、配慮しすぎて損はしないという思想のアドバイスが書かれていたのでしょう。たしかに敬語や配慮表現が過剰であったとしても、受け手を不愉快に感じさせたり失礼に当たるわけではなく、ちょっと不自然だなと思われる程度で済むので、ほどよい程度がわからないときは不足よりは過剰を選ぶという思想はいちおうの処世術かもしれませんね。

 

④どのような時間にメールしても、すぐに丁寧な返信を下さる友人がいたことがきっかけになったと思います。
[コメント]なるほど、と思いました。つまり、自分はいつでもどうぞお好きな時間に読んでくださいというつもりで送っていても、相手は夜中に起きていて、着信したらすぐに対応しなければと思うような生真面目な性格の人かもしれないとすれば、あるいはそういう人が一定数いると思うならば、気を遣うようになりますね。

 

⑤電話はすぐに出てほしいと気に掛ける。メールは相手の都合で開封する。メールをすぐに開封してくれると勘違いして使っている人が多いのではないか。

⑥メールは基本的には相手が開きたい時間に開けば良いという思いがあり基本的には「夜分に・・・」とは書きませんが、書いてしまうときはむしろ急ぎ開いて欲しい時であるような気がしています。

[コメント]自分が夜分に送ったメールを相手がすぐに読んでくれると、⑤は勘違いで推測、⑥は意図的に期待するというものです。両者の趣旨は異なりますが、メールに即時性を付与するという意味では共通の志向性を持っていると言えます。いずれも多忙な日々を送る現代人特有の状況かと思います。

 

⑦時と場合によりますが、メールは送信の時間が表示され、当然相手に伝わるのですが、相手によって「なぜ昨日中にくれなかったのか」と思う人もあり、あえて書く場合のほうが多いです。当然、その場合「恐れ入ります」とは思っていないわけですね。
[コメント]問4の3は回答0件ですが、⑦を書いた方にはこれを選んでいただきたかったところです。「昼間のうちに送れなかったのは忙しかったからだ。だから、せめてこんな夜分でも休まないで頑張ってメールを書いているのだから遅くなったことを許してくれ」というアピールということです。

⑥の場合は、「こんな夜分でも休まないで頑張ってメールを書いているのは、それだけ急いでいるということだ、だからあなたにも早く反応してほしい」というアピールということですから、《謝罪》か《催促》かの最終目的の違いはありますが、どちらも相手が受け取る時間の遅さではなく、自分がメールを書いて送る時間の遅さにフォーカスを当てているという点で共通しています。そのような意図でこのフレーズを使う人がいるとわかっただけでも新鮮な発見があり、収穫でした。

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このような調査を実施したもう一つの意図は、実は先週金曜日の学部ゼミで、言語調査の一つの手法であるアンケート調査の最もシンプルな形を学生に見せたかったのです。かつて、紙のアンケートを配布して回収し、集計していた時代と違って、Googleフォームは簡単に作れて、回答をインターネットで回収でき、結果を自動集計までしてくれる優れものですから、活用しない手はありません。ゼミではGoogleフォームでアンケートを作ったことがない学生たちのために基本的な方法を実演して説明しました。何でも思いついたことを調査してみたらいいとアドバイスしましたので、これから私のゼミ生が皆さまをお騒がせすることがあるかもしれません。その際はご面倒でなければ微笑ましくご協力いただけたら幸いです。

 

※Googleフォームではグラフも自動的に作成されますが、字数超過となるため貼り付けませんでした。