道祖神といえば真っ先に目に浮かぶのは、安曇野の美しい双体道祖神だ。それとは対照的に黒ずんだ単体直立型や文字の道祖神もある。甲斐の国では丸石だったりする。しかし伊豆型道祖神はそれらの類型には当てはまらないのです。単体丸彫坐像で、笏や帳面を持ったり合掌したりしている。形はずんぐりしていて、どんど焼きで焼かれた跡もある。
そんな伊豆型道祖神を追いかけ始めたのは2014年からだった。2018年にその行脚を終えてから月日が経ったので、もう一度、なつかしいものをたどってみたいと思った。
伊豆の国市下畑の道祖神(笏持)
【2014年2月10日】 伊豆長岡駅~大仁駅/10.0km、以後周辺を車でめぐる
今日のコースは2017年に走って巡った時のマップをアレンジしたもので、新しい情報も付け加えてある。まず車を大仁駅の駐車場に入れて、伊豆長岡駅まで移動します。
駅のホームにこんなレトロな水道があって、ひねれば温泉でも出るのかと思ってしまう。
電車で7分、ここからスタートです。
伊豆箱根鉄道の東側の中集落の坂本公民館へ。建物をぐるっと回って探したら、裏にあった。なんで道祖神をこんな場所においたのかわからない。いつも遠くから姿が見えたり、横顔から近づいたりするとわくわくしてくる。
こうして今まで何体の伊豆型道祖神を訪ね歩いた(走った)ことでしょう。
何かを持っているようにも見える。顔は完全に摩耗してわからない。伊豆石に彫られているので、摩耗するのは運命だ。まずは、いい出会いでした。
線路に沿って南下して、南條観音堂の石仏群を見たりしていく。
その先で韮山町から伊豆の国市(旧大仁町エリア)に入る。宗光寺集落の長伝院へ。こちらは合掌型だが、やや変わった形をしている。
久しぶりに中伊豆を歩くのは気分がいい。いろんな意味で。
守木と田京の境目あたりに、蔵春院入口三叉路がある。石仏が理路整然と並んでいる。
このサイノカミ(道祖神)は笏持型。頭部は直されたのか、やや小さい。バランスが悪くても、伊豆の人には関係ないのだ。
田京駅に向かって進み、医療センターの南の小公園に田京の道祖神。3体とも相当にすり減っていて、言われないとわからないだろう。このあたりでは訛って、サャーノカミと呼ぶとか。
しかしこれは、笏を持っている!
広瀬神社の東の坂道を登ると次のが見えてくる。管理番号62番。いったいいくつあるのだろう、昔どこかに書いてあったはずだが。
62番の道祖神。四国巡礼みたいでいいね。これはどんど焼きに投げ入れられたのか(そういう風習があった)、黒く焦げているのが印象的だ。投げ入れるとはいっても重いわけで、予め数人がかりで運んで、焼く段取りをしたのではないか?
さて広瀬神社を通り抜けて大仁小学校前を通って、左手には広大な旭化成あり。JA前を左折して、カーブの先の十字路に68番の道祖神。祠入り、というこの差は何なのだろう。合掌のようだ。
十字路を左折していくと、伊豆八十八ヶ所第9番札所があった。この霊場は以前に何日もかけて走って巡礼した。伊豆半島全体を網羅する、たいへんな旅路だった。
本堂を見ると、ちょどお大師様に朝食を運んでいくところだった。
隣りの熊野神社には、たいそう立派な狛犬がいた。
その先右手の龍源院、かなり特徴的な石仏が並んでいる。象に乗った普賢菩薩のようで、下には三猿がいる。
下道の路傍には三面八臂の馬頭観音など。馬頭観音まで、どんど焼きで焼かれたのだろうか。
戻ってまた南下、高台の吉田神社に登ってみる。
大仁の町並みの広がりが望まれるが、修善寺道路が風景を水平に切ってしまった。
狩野川の向こうには城山がそびえている。あの壁では何度もフリークライミングをして遊んだが、登った南壁は左を向いていて見えない。
下って、大仁の町並みを歩いていく。ここはかつての下田街道。天城峠を越えて、下田へと続いている道だ。
大仁駅が近づくと、ようやく城山南壁が見えてきた。左下の、ブッシュのないフェースです。城ヶ崎と湯河原幕岩とここを、取っ替え引っ替え登ったのが懐かしい。
今度は大仁神社に上ります。ここは二対の狛犬と、神殿狛犬。
さらにゆけば、狩野川大仁橋に到着。先代の橋梁の末端が残されている。この左手に、大仁橋の石仏群がある。
道祖神たちはコンクリートで固められて、背後には味気ないフェンス。
もうちょっといい景色の中に置いてほしいねえ。
帳面を持つ道祖神の話(過去の自分の記事から引用)
『伊豆の民家には12月8日に「目一つ小僧」がやってくる。そして病気をたからせる人の名前を帳面に書き、その帳面を「2月8日にまた来るから預かってくれ」と言って、道祖神に渡していくのであった。道祖神は帳面を持ったまま正月のどんど焼きで焼かれるのである。
約束の日に再びやって来た目一つ小僧は、例のやつを返してくれ、と言うのだが道祖神は「もう焼かれてしまったよ」と言い返すのである。無病息災の願いをこめた風習だという。』
このサイノカミさんは帳面を読んで、何を考えているのだろう。
ここで本日の第一部は終わりです。よく歩いた。
大仁駅に戻ってゴ~ル。この後はかなり飛び飛びなので、車で回っていきます。
①下畑の道祖神(トップ写真のもの)
県道19を亀石峠に向かう路傍にある。実はここだけは伊豆市大野地区に食い込んでいるが、便宜上下畑にした。期待を裏切らない堂々たる体格だ。伊豆型道祖神は横や後ろ姿も良い。
②天野の八幡神社
狭い境内に車を押し込んだら、ドアの横にいた。深く沈思しているようだ。
③みずぐち豆腐店の道祖神
前回来た時は白い前掛けだった。とうふのイメージだなと思ったが、今日は豆乳スイーツの文字に合わせている。赤いべべの時もあったようだ。伊豆長岡温泉のど真ん中である。
この無言の存在感がたまらないのです。
④韮山反射炉
ちょっと趣向を変えて、世界文化遺産を訪ねます。韮山反射炉ってなんだろう?と今日まで知らなかった。徳川幕府は嘉永6年にペリー来航を受けて防衛に乗り出した。ここで大砲を築造することになったのである。
しかしこうして見上げると、朝日に輝く甲斐駒の赤石沢奥壁や衝立岩を思い出す。心に何か弾けるものがあるのだ。
煙突が4本になった。
出来上がった大砲です。日本にもいろんな歴史があるものだ。
⑤反射炉北の路傍の道祖神
反射炉から裏道をぬって少々走る。田園を背にして、こんな姿のよい道祖神が。
⑥願成就院
韮山の有名どころです。運慶作の国宝の仏像を5体、拝観することができる。ここは二度目。阿弥陀如来坐像などで、鎌倉初期の傑作です。今日は人も少なくて静かだった。こういうインスタ映えしないスポットは(撮影できないから)穴場かもしれない。
アプローチの散策路で見つけたマンホールの蓋。富士山と韮山反射炉といちご。
⑦八坂神社
韮山駅のそば、下田街道沿い。神社の外塀の窪みにいるから、歩道を歩いていると見えない。そんな面白い道祖神さんだ。以上で第二部は終わりです。
伊豆型道祖神は何度見ても面白い! 伊豆全体の名産品は何か?と問われれば、山のワサビ・海の金目鯛・石仏ならば伊豆型道祖神と答えるだろう。
本日の締めとして、三島市郷土資料館に行ってみる。今は企画展「三島宿へようこそ」をやっている。廣重の五十三次も幾つかの異なるシリーズがある。見慣れない図柄の三島宿も展示してあった。
三嶋大社の鳥居が描かれているものもある。
やはり保永堂版が一番のヒット作で、目に馴染んでいる。この感性の違いは、なにか別人のような気がしますね。
つづく