MAZDA 3、柔よく剛を制す、舞。 | くるまの達人

くるまの達人

とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

長いですよ。。。。




先日、注文していた部品を受け取りに
マツダのディーラーを訪ねた際、「マ
ツダ3」を運転してみますか? 予約
の方が来られるまで10分あります、
どうそお一人で走って来られてくださ
いとキーを渡してくださいました。1
ヶ月ほど前に名刺交換をして、わたし
の仕事の素性が明らかになっていると
はいえ、何度か部品を買いに来ただけ
の安い客への破格の対応に感謝しつつ、
ディーゼルのFF車を約10分間=5
kmほど試乗させていただきました。



マツダ3、ここから始まるマツダの新
世代商品群が目指す世界観を端的に示
しているに違いないクルマです。わず
かな時間でしたが、その間に感じたこ
とを皆さんとも共有したく、報告させ
ていただきます。

その前に1つ。商業メディアへの新車
記事の寄稿を降りて久しいわたしは、
すでに自動車業界内でのジャーナリス
トとしての席がほぼありません。従っ
てこれから書くことは、皆さんと同じ
程度の情報と、わずかな試乗で得たこ
とのみで構成されています。本来は、
開発者への直接の確認を取らなければ
ならないこともその機会が得られず、
わたしの僅かな知識からの想像に過ぎ
ません。わたしが書くクルマの文章を
いつも楽しみにしてくださっている皆
さんには本当に申し訳ないのですが、
その点をどうかご理解いただき、決し
て鵜呑みにされず、参考にした上でご
自身で確認の機会を持つようにお願い
します。


このクルマが創ろうとしている世界観、
端的に言えば「柔よく剛を制す」です。

ふわふわと柔らかいのではありません。
フッと抜いて、その反動を次の動きの
味方につけて、スッと動く。

わたしは、ブレーキペダルから足を離
した瞬間に、おっ! と感じることが
できました。きっと皆さんにも感じら
れるはずです。試乗されるときは、ぜ
ひこのほんの一瞬の溜めと、それを無
駄に消化させずに必ず次の動きに生か
されている滑らかな「ばね感」に注目
してください。

静かに加速をする時、少し強めに加速
をする時、そっと指1本分ハンドルを
回す時、ぐいっとハンドルを回した時、
そしてそれを戻した時、ブレーキの踏
み始め、完全に停車する瞬間、もちろ
ん路面に応じて車体が揺れている常時、
すべてにこの絶妙に調整された車体全
体のばね感を感じることができるはず
です。

マツダは少し前から、躍度という言葉
を盛んに広報していました。単に躍度
と言った時、それは心地よい加速・減
速の加速度を示す言葉ではありません。
心地よく調律された躍度だけが、心地
よい動きの瞬間を演出できます。そし
て、マツダが盛んに言っていた躍度の
目指すところは、1つひとつの瞬間的
な心地よさを、上手につなげて連続的
な心地よさを演出するということでし
た。

これは、想像を絶する難しい調律だと
思います。すなわち、猛加速の後〜静
かに減速しながらやさしく曲がり〜次
の瞬間急減速と共に思い切りハンドル
を切りカーブを曲がり〜その先に現れ
た直線路をじわじわと加速してゆく…
…というような、一見まったく異なる
運転者の連続操作を、ひとりのドライ
バーのひとつの運転動作と総じて捉え、
それらをすべて滑らかにつなげられる
「躍度」を見つけよう、そして機械と
してそれを実現してクルマというカタ
チに仕上げてみようという、考えるだ
けでくらくらするような挑戦だと理解
できるからです。

そして、このつながりのよさは、一連
の運転操作が滑らかにつながるという
心地よさだけでなく、その気になれば
猛烈に速くクルマを走らせることも可
能にします。

その昔、日本ツーリングカー選手権に
アルファロメオ155を参戦させてい
たユニ・コルセというチームの代表と
話した時、彼らのレースカー製作秘話
を聞かせていただいたことがあります。
彼らは、イタリア本国のアルファ・コ
ルセというワークスチームとの提携関
係を持って日本でレースに参戦してい
ました。最初、ユニ・コルセでは、タ
イムアップのために徹底的なボディ補
強を行いました。ところがタイムは縮
まるどころか、今までの記録にも届か
なくなってしまい、その対策をアルフ
ァ・コルセに相談したところ、こちら
から送ったボディに加えた補強をすべ
て外して元に戻すように、という指示
を受けたそうです。

路面と反発しあってクルマと路面を喧
嘩させてはダメだ。しなやかに路面を
掴むことがタイムアップには欠かせな
い。それはサスペンションに任せる仕
事だという常識は古い。車体全体を1
つのサスペンションとして考えること。
そのためには、ボディにも必要な動き
を役割分担させるべきだ。

DTMを席巻していた頃のアルファ・
コルセからの、これが回答の要約です。



マツダ3を試乗する機会があったら、
ぜひこの1点にまず着目してください。
いま思い返すと、そういうボディであ
ること、運転席に座ってドアを閉めた
瞬間にも気配を感じたような気がしま
す。


ただ、ディーラーの駐車場から出発し
ようとしている時に、ステアリングコ
ラムにコトンという安っぽい振動を1
回感じました。今どきステアリングコ
ラムの取り付け剛性不足などないだろ
うと思うと、それが何だったのかは不
明です。ステアリングギアが軽量小型
過ぎて何かと共振した? タイロッド
の取り付け剛性?位置? こういうこ
とを正確に皆さんに伝えるためには、
開発者に直接問題をぶつけることが欠
かせません。それが叶わないことを、
どうか許してください。ともかく、手
が触れている場所に直接伝わるこうい
う振動は、走行に関する本質的な問題
ではないとしても、感性性能に大いに
影響しますし、分かりやすい印象とし
て運転者に伝わります。猛烈に損です。
皆さんが試乗するときにも、ひょっと
したら感じるかもしれません。わたし
の場合は、10分間=5kmの間に1
回だけ感じました。



もう1つ、身長の低い人にとっては、
素晴らしく上質で立派な高級車の雰囲
気あふれるダッシュボードが少し威圧
的に感じられるかもしれません。外観
に比べ、ものすごく複雑でいろいろな
方向に線が走り、配色もカラフルなダ
ッシュボードが胸元に押し出してくる
感じに圧迫感を覚えないかどうか。そ
してその張り感の強いダッシュボード
越しに見る前方視界がクルマの取り回
しに問題ないレベルかどうかを、ぜひ
住宅街などの狭めの道で確かめてくだ
さい。マツダにとってのメインマーケ
ットである北米では、まず問題になら
ないようなことですが、日本の道は細
くて狭くて背の低い障害物だらけです。
体が素晴らしい躍度に浸れても、心が
押しつぶされるような状態では、運転
は苦痛です。



オーディオも試しました。すでに発売
が開始されている北米で、素晴らしい
と話題になっているオーディオです。
試乗させていただいたクルマには、B
OSEサウンドシステムが装着されて
いましたが、チェックのポイントは、
フロントスピーカーに備えられた約3
リットルのエンクロージャー(ボック
ス)の効果でした。

ドアの戸袋をエンクロージャーに見立
てるという方法が、過去の常識だとい
うことは、このブログの「スピーカー
システム」という括りの中で、時々書
いています。密閉型として想定するに
は容量が大きすぎますし、そもそもス
ピーカーユニットの特性に合わせてド
ア容積を設計するなどという話は聞い
たことがありません。スピーカーユニ
ットとの、目的に適ったマッチングな
くしてエンクロージャーとは呼べない
んです。わたし自身も過去にいろいろ
試しましたが、やはりスピーカーをう
まく鳴らしてやるには、相応のボック
スを用意してやるべきという結論に達
しています。2011年からコツコツ
と作っている「スピーカーシステム」
がすべてボックスを備えているのも、
そうした方が確実に目標のイメージに
近づけるからです。



オーディオの調整はこの位置で試聴しま
した。「BOSEセンターポイント」と
いう調整キーが何をするものなのか、よ
くわかりませんが、すごく強く効きます。
好き嫌いが出る調整キーです。


さて、マツダ3のオーディオ、とても
よいです。低中域を受け持つユニット
が無闇に暴れる感じなく、だらだらと
締まりのない感じなく、音量を相当上
げてもユニットに抑制がきいた感じで
破綻せずに音楽を鳴らしきります。N
DロードスターのBOSEに不満たら
たらの人も、マツダ3のBOSEなら
ば、余裕で及第点以上の満足感が得ら
れると思います。

けれども、3つほど気になったことが
ありました。

1つ目は、中音域にモワッとした不透
明感を感じるポイントがあることです。

2つ目は、ポコポコという箱鳴り感が
あることで、これは音量を上げるに従
ってより強く感じられるようになりま
す。

この2つは、ボックスを使う時に生じ
るネガで、これをどのように解決する
かということが、実はいちばん難しい
ポイントだと常々思っています。少な
くとも「スピーカーシステム」では、
これらをやっつけるためにどうするか、
ということが、新しいモデルを創ろう
とする度に頭を悩ませる難しい課題だ
ったりするわけです。

1つ目の問題は、ボックス内の空気容
量が持つ共鳴音だと思われます。これ
はボックスの設計や組み合わせるユニ
ットとの相性を念入りに検証して根本
的に解決するか、いろいろな事情でそ
こまで出来ないのであれば再生機材で
適切なフィルターを掛けて逃げ切るべ
きです。

2つ目の問題は、ボックスの剛性不足
のせいだと思います。大量生産しなけ
ればならないので、恐らくPPかPP
E(共に合成樹脂の名前)製だと思い
ますので、どうしてもカサカサと乾い
た樹脂パネル然とした響きを持ってし
まうのは仕方ありません。では、内側
にどれほどリブを立てましたか? と
いう辺りで解決策を探ったかどうかで
す。これも開発された方と直接話せれ
ば、はっきりしたことを皆さんにお伝
えできるのに申し訳ありません。



BOX付きのスピーカーは、表からは
見えません。恐らくダッシュボードの
裏側に組み込まれているのではないか
と思われます。密閉型なのかポートを
持っているタイプなのかもわかりませ
ん。取材をした人の記事を待ってくだ
さい。



3つ目は、低音が宙に浮いている感じ
がします、ということです。これはB
OSE流の音作りの特徴なので、そう
いうものですということでいいような
気もしますが、わたしは低音は耳で聞
くのではなく、体で感じるほうが好み
です。BOSEは、もともとPA屋さ
んですから、遅延感が極端に出やすい
地を揺らす振動ではなく、低音出てま
すからね、という低音を感じさせる情
報を耳に届けるという流儀があるのだ
ろうと、BOSEの音を聞く度にいつ
も感じる次第です。この手の低音は、
音量を上げるとうるさくて聴いていら
れなくなるという傾向があります。ド
ッドッドッと体が感じるのと同じ刺激
を感じるほどの音量で、耳元でドッド
ッドッとやられると、わたしはうるさ
いと感じますが、これは好みなのかな
とも思います。



河口まなぶさんが、ジャーナリスト向
けの発表会で撮ったこのオーディオに
ついてのプレゼンテーションの動画を
アップしています。

その中で1点だけ、それは違うんじゃ
ないかと疑問に感じたことを書いてお
きます。動画の中の1分5秒あたりか
らのコメントです。



オーディオの音量と周波数、それとク
ルマに付きものの音や振動との関係に
ついて話しているくだりです。

走行に伴うノイズ以下の音楽情報は聞
こえないと説明していますが、これは
明確な間違いです。

人間の耳は、聞きたいという意志を持
った音を、騒音の中から拾い出して認
識することが出来ます。逆に関心のな
い音はそこそこの音量で鳴っていても
意識に留まりません。これが意志や心
を持った人間と、測定機械が示すデー
タの大きな違いです。

クルマという走行ノイズが避けられな
い空間での音楽再生は、走行ノイズの
中に埋もれた音をより拾い出しやすく
してやることと、走行ノイズ以上の音
をより魅力的に聞かせてやるという2
つのチューニングが欠かせません。そ
れは、ノイズの音響成分を触るもよし、
オーディオの再生音に塩コショウを降
るもよし、だと思います。

もっともこの開発者のコメントは、車
両全体で走行ノイズを下げる工夫をし
ましたよ、ということが言いたかった
のだろうと推察していますが、本気で
可聴域はノイズを上回ったところにし
かないと考えているのであれば、それ
は間違っています。もしそうだとすれ
ば、NAロードスターで音楽を聞くに
は常に爆音で鳴らすしかないみたいな
話になっちゃいます。NAロードスタ
ー・スピーカーシステム、そんなこと
ないですよ。幌を開けて走っていても、
ボーカルの吐息がぐっと胸に染み渡り
ます。そして、そこが開発のいちばん
難しいところだと思いますがどうお考
えですか、という辺りをこの動画の開
発者にぜひ伺いたいなと感じた次第で
す。




と、ここまで書いたところで、ボディ
の一部を故意に低剛性化することでN
VH(騒音、振動、ざらつき感)を改
善したのだという情報をネットで見つ
けました。

前半で書いたこと、間違ってなかった
ようですね。一安心です。

でも、もしそうだとすると車体のどの
部分でそれをやったのでしょう、それ
ぞれの部位でどの方向にどのくらい剛
性調整を実施したのでしょう、という
ことがものすごく気になってきました。

つまり、この抜いたところに状況に応
じて色んな方向から応力(エネルギー)
が逃げ込んでくるわけです。逃げ込ん
できたエネルギーは、そこですんなり
熱に変えて捨ててしまっているのでし
ょうか? ひょっとしたら、グィっと
瞬間的に溜め込んで、適宜スッと狙っ
た方向に放っているのではないだろう
か、と。

なにをマニアックなことを言ってるの
かとお思いでしょうが、これをきちん
とわかりやすく皆さんに説明すること
ができれば、マツダ3がもっとも気持
ちいい姿勢変化の瞬間は、こういう状
況のときかもしれませんよ、くらいの
話ができる可能性があります。これっ
て、マツダ3買っちゃおうかな! っ
てくらい、めちゃくちゃ楽しい情報じ
ゃないですか。そういう記事がどこか
に出てきたら、教えてください。読ん
でみたいです。


第6世代のアタマで登場したCX−5
は、疑う余地ない名車だと思います。
それは、決して軽くない車重、屋根が
見えないほどの車高(重心高)という
曲がることに対するネガティブな要素
を、ロールを通じて溜め込んで狙った
方向に向けて放つという動作を通じて、
クィっと気持ちよく曲がる力に置き換
えるような発想をものにしている点で
す。世界中の同クラスのSUVが極太
タイヤでエネルギーを路面にばら撒き
ながらゴリゴリ曲がるのに対して、メ
リットだらけの細いタイヤでスイスイ
曲がるあの感じは、本当に称賛すべき
開発力です。

マツダ3では、その解釈をサスペンシ
ョンからボディにまで拡げましたよ、
ということのようです。


ときに、わたしの大叔父の島津楢蔵が
戦後間もなくの東洋工業で技術顧問を
やっていた頃に特許を取得した「ピン
ジョイントフレーム」もフレーム剛性
の抜くべきところを抜いて、全体の強
度を高めましょうという技術でした。
戦災で荒れ地だらけになった日本の復
興のためにしっかり働いてもらいまし
ょう、という技術で、3輪トラックに
採用されていました。


「柔よく剛を制す」


マツダ3、全身是サスペンション、と
でも言いましょうか。


歌舞伎役者の白足袋がフッと微かに浮
き瞬間溜めた後、その微かな浮きがま
た床に戻る行程の間にスーッと前へ踏
み出してくる感じ、イメージできます
か。まったく揺れない面で見栄を切り
ながら、速く遅く、上手へ下手へ全身
の躍動を繊細に動く白足袋のつま先に
注ぎ込みながら魅せる、あの舞をイメ
ージしてみてください。わーはっはっ
はと笑いながら、そのように舞台を駆
け回る歌舞伎役者の様子を重ね合わせ
るようなCM、わたしなら作ってみた
いです。

この感じ、勘がいい人なら10メート
ル走らせればわかります。それなりの
人でも、500メートル走ればわかり
ます。

まず最初は、30km/hで感じてみ
てほしいと思います。マツダが第7世
代と呼ばれるこれから登場してくるク
ルマたちで、どこへ到達しようと考え
ているのか、その速度でわかります。


ぶっ飛ぶほど驚いたぞ指数はCX−5
に敵いませんが、我ここにありという
独自の世界観をますます明確に感じる
玄人好みのクルマです。





山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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