働くということ・31 岡野雅行さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

岡野工業株式会社 代表社員
岡野雅行 さん


オレはね、発明家じゃないんだ。こう
いうものが欲しいって言われて、それ
を作る。話題になった注射器の針だっ
てそう。

それだけで自慢になるような立派な学
歴を収めて、先生とか呼ばれてるよう
な連中が一生懸命やってできないこと
を、高校中退のオレがやっつけちゃう。
それが、燃えるんだよ。

どうして出来るのかって、それは数多
く失敗することを怖がっていないのと、
子供の頃、このあたりにたくさんあっ
た町工場の職人たちの仕事をたくさん
見せてもらった経験からだろうね。

若い頃の経験っていうのは、いつどこ
で役に立つか分からない。

終戦直後の向島界隈は、今の歌舞伎町、
六本木みたいな町だから。毎日が刺激
的で、ドキドキするようなことがたく
さんあったわけ。

なんだか不思議な仕事をしている工場
だって、クーラーなんかないから夏場
は開けっ放しの丸見えでしょ。おじさ
ん、何やってるの? って聞けば、お
ぉ坊主、こうやるんだ、って見せてく
れたもんだよ。そういう経験が、すご
く大切なんだって。

今どきそんな環境ないよって言うなら、
身銭切手でも経験しなきゃ。興味のあ
ることにアルバイトで飛び込んでみる
のも手だね。

今の若い子は、自分の身体に資本を掛
けなさすぎだよ。

もっと腕に資本掛けないと。

会社に入って、なんでもかんでも教え
てもらおうってんじゃなくて、自分は
これができますから使ってくださいっ
てアピールできないようじゃ、世の中
渡っていけないよ。
 
でもさ、企業が若い子が伸びる芽を摘
んでしまうのも問題だと思う。

例えば、若い従業員が提案するわけさ。
こういう開発をして、こうやればいい
ものが出来るし、会社もきっと儲かり
ますって。

でも上の連中は、年間なんぼ売れるん
だ? どのくらい儲かるんだ? って、
こうだよ。

いくら儲かるのか、そんなところから
始まるから、せっかくの素晴らしい発
想も採り上げられないし、どんどん伸
びていこうとする芽を育てられない。

大体、初めっから儲かるのが分かって
るんだったら、誰だってやってるんだ
よ、そんなものは。もっと先を見て考
えろって言いたいね。

もしオレがサラリーマンの技術屋だっ
たら、そんな上司は、穴掘って埋めち
ゃうような仕事の組み立て方しますよ。
ハシゴ掛けといて上に上げて、ハシゴ
外しちゃうようなね。

でも、なんでもかんでもそんな風じゃ、
さすがにマズイだろ。

要はね、今まで自分に対してどういう
態度で接してくれた人なのかって、そ
こを見極めるのが大事なんだよ。

手柄は何でもかんでも自分のもの、失
敗したらオマエのせいだって、そうい
う上司は許せないね。

それじゃあ、会社も絶対に伸びない。

けど、その度にハシゴ外すの、会社辞
めるのってやってちゃ、身が持たない
わな。

そういうときは、会社の外から、あい
つはいいって声を上げさせるんだよ。

会社の中では昼行灯(ひるあんどん)
みたいで、何やってるんだって思われ
てたって、いろんな取引先から直接、
彼と仕事がやりたいからこっちへ寄こ
してくれって電話が入るようになれば、
上司だってその子の仕事に興味を持つ
し、邪険に扱ったりできなくなるでし
ょ。

そうなってくれば、もう自分のペース
なんだよ。いいことも悪いことも、会
社に漏れるから。

ただひとつ言っとくね。まずは辛抱な
さい。なにしろ辛抱もできないようで
は、話にならない。見えないところで
じっと蓄えて、機を見て蹴り出すの。

オレだって、実はそうしてきたんだよ。

Interview, Writing: 山口宗久

「かもめ」2006年9月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです


※記事掲載への思いについて。


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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